第45話 従うベリト

「どうなっているんだ。この私がここまで深手で追うなど――」


「アンタ、実は鑑定士を持っていないパターンだったからスキルを視ることできないもんな。見て絶望してほしかったけど。あと、俺を洗脳しようとしても無駄だからな。洗脳無効Ⅴのスキルついているから」


 ベリトは歯を食いしばりながら手を動かそうとした。同時に俺はショットガンを地面に威嚇発砲を行うと、「チッ」と舌打ちをした。


 一方、ミクちゃんとマジで出番が無かったランベリオンと、ノアが近付いて来て、四人でベリトを囲んだ。


「次動いたら頭吹き飛ばすからな。言っておくが、俺の銃だとお前一撃で死ぬぞ。スキルを視ているから分かる。それに俺は狙撃手がついているから、動揺して外すなんて甘い事起きないぞ」


「――何が望みなんだ」


 俺が剣幕な表情から口角を吊り上げると、ベリトは怪訝な表情をしていた。そんなに可笑しいか? と思ったがそこはスルー。


「俺の部下になれよ。家とかは用意してやるから俺に力を貸してくれないか? スキルを視たからどんだけ強いか分かるよ。元☆3つ勲章があったのも頷ける。人間の事が嫌になって復讐したくなったんだろ? やるせなかったんだろ? そこまで苦しんだからストレス軽減するために無意識下で二重人格になったんだろ? まあ、スキルを視ただけだから。主人格がどっちってのは知らないけどよ」


「……もう一人はやたらと挑発するような丁寧語を使うんだ。彼はもう一人の私を知らない」


「そうか辛かったな」


「貴様に――大切な人を奪われた者の気持ちが分かるか? 目の前で殺されたんだぞ? 恋人をだ――」


「正直に言うと、恋人が出来たことが無いからわからん。でも大切な友人を事故で亡くした経験はあるから、大切な人を失った時の悔しさは分かる。恋人だからもっと辛いんだろうなってのも」


「ではこの怒りをどこにぶつけろと?」


「俺ならアードルハイム帝国の宮殿に、悪の混沌玉アビス・カオスボールぶっ放す」


「は?」


 ベリトは真顔になってそう返事した。え? その表情完全に足の痛み忘れているくない? つか俺の発言そんなに可笑しいか? ミクちゃんもランベリオンも凄い顔しているし、ノアに関しては腹を抱えてジタバタして笑っているんですけど。


「だってアンタのそのアルティメットスキルを放てば、一瞬で宮殿吹き飛ばして、王も兵士も殺せるじゃん。アンタのやり方は、無関係な人を洗脳の効力の実験台にし、その実験が様々な国に危害を及ぼし、人々に不信感を与え、国同士の戦争を誘発させる最悪なシナリオだ。世界中の無関係な人間を巻き込んだやり方だろ? 怒りの矛先を全人類に向けるのは止めようって話さ。アンタなりに正義ってのがあるだろう。いや、無い訳がない。だから今回のような行動アクションを起こした。聞いた話だから実際どんなに酷い人間達か分からないけど、アンタの正義の執行の仕方は間違えているってことさ。人間を殺しちゃいけない! なんておこがましいこと言わないさ。だって恋人を目の前で殺されているんだもん。それだけでなく、獣人族、魔族、森妖精エルフなどを私欲を満たすために強姦し、挙句の果てには殺すといった残虐非道な事をしているんだからな」


「フフ――フハハハハハ!――っ……」


 いや、笑った思ったら足の傷で痛がっているじゃん。


「傷口広がるぞ? ミクちゃん、回復ヒールしてあげて」


「いいんですか?」


「大丈夫だろ。まあ変な動きをしたら頭吹き飛ばして殺すけど」


「さらりと凄い怖いこと言いますね。もうどっちが悪人か分からないですよ?」


「いいんだよ。んなこと」


 しばらくすると、ベリトはミクちゃんの回復ヒールで足の流血は収まり、黒翼、左胸、腕、などの全ての傷を癒した。


 ベリトはふうと言って落ち着き、はあと次はため息をつく。なんだ、忙しいなおい。


「人間の温かさに触れるのは久しぶりだな。普段ならストレスを感じて、もう一人の私が出てきても可笑しくはないが、今は彼が出てくる気配すらしない。名前を教えてくれないか?」


「俺はナリユキ・タテワキ」


「私はミク・アサギ」


「ボクはノアだよ。あ、腕折っちゃってごめんね」


 三人の紹介は終わったが――と、ランベリオンはツンとした態度をとっている。まあ洗脳されたもんな。俺も同じ態度とるな。


「ランベリオン・カーネル。申し訳なかった」


「そ……そう素直に謝罪されるとな」


 ランベリオンは俺とミクちゃんの顔を見るなり、髪をかきむしりながら話す。


「終わったことだから良い。うぬが苦労をしたのは、クロノスからは聞いているからな」


「恩に切る。謝罪したいのはこの町の人達もだが、アドルフ・ズラタン・ルイゼンバーンにも謝罪しなければならない。彼の部下のリアトという人間をさらったからな」


「まさか傷つけていないよな?」


「ああ。ただ飯はほんの少量でロクに与えていないからな。水もそんなに多くは無い。体力を消耗し切っているはずだ。早く戻らないと」


「成程ね。とりあえずルイゼンバーンさんに連絡だな」


 俺は目を瞑りルイゼンバーンさんの顔を思い浮かべた。正直いくら格好いい60代だからと言って、爺のような人間の顔を鮮明に思い浮かべるのはきちい。


《ルイゼンバーンさん。聞こえますか?》


《ん!? ナリユキ殿か!? どこにいる!?》


《念話ですよ。それより、ベリトを倒しましたよ。倒したというか屈服させたというか、仲間にさせたというか》


《仲間!? 話が飛び過ぎて意味が分からん》


 あ、ごめんなさい。そりゃそうですよね。


《ベリトは俺が造る国で、俺の部下として働いてもらいます。なんで、受け入れる女性達から反感買うかもしれませんが、きっちり謝罪はさせます》


《――仕方ない。倒したのはナリユキ殿達だからな。私達がとやかく言う筋合いはなかろう。それよりどこにいるんだ?》


《場所――》


「ここはクロックスタウン。いえクロックスタウンです」


「――二重人格のもう一人出た?」


「いえ違います。従うと決めた以上はナリユキ様に忠誠を誓います。これはナリユキ様の寛大なお心に魅了されたので、心底尊敬しているからであります」


「……急にそう喋り方を変えられると背中がむず痒いな」


《私が戦った時の印象とは異なる丁寧語だな。ブラックマーケットで会ったときの声の印象だ。そうか二重人格だったのか》


《と、いうことです。ベリトがリアトっていうルイゼンバーンさんの部下をさらったって聞いたので、とりあえず先にそっち行きますね。ルイゼンバーンさん達はクロックスタウンに向かって来て下さい。リアトさんを連れて帰りますので》


《分かった。何から何まで助かる。他の三人にも私達から後でたっぷり感謝の言葉を述べさせてほしい》


《堅苦しいですね。とりあえず後で合流しましょう》


《ああ》


 ルイゼンバーンさんとの念話はこれで終了した。堅苦しいですねと言った時に、笑っていたので、緊張感も解けて何よりだ。


 いや~。疲れた。疲れた。


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