第29話 レイドラムの噂Ⅰ
酒場に入ると、昼間ではあるが賑わっている。それにローブを被っている人間も少ない。取引を行っているわけでは無いからか。麦酒や洋酒をたしなみ、ローストビーフやアボカドサラダ、また、魚料理など出てくる料理は豊富のようだ。
私はカウンターの席についた。まあちょうど腹ごしらえもできるからいい機会だ。
「いらっしゃいませ。メニューはこちらになりますので、決まりましたらお気軽にお声がけください」
メイド服の獣耳の若い女性がそう言って私にお冷と紙を渡してくれた。毛筆の達筆な字でメニューが書かれている。ここに人が賑わっているのも可愛らしい獣人が接客を行っているのが繁盛の一つのようだ。私が入った後もゾロゾロ人が入ってくる。
私は手を挙げて店員を呼び寄せる。すると先程の店員が駆けつけ来た。
「ご注文伺います。ビーフシチューのセットと赤ワインを頼む。飲み物は料理と同時に持って来てくれ」
「かしこまりました」
「あと」
耳を貸してくれてサインを送ると、店員は顔を近付けてくれた。
「レイドラム・ゴールウォーズについて調べているのだが、誰か情報を持っている者はいないか?」
「レイドラムさんですか。まああまりいい話は聞きませんが。どういう情報が欲しいのですか?」
「どんな武器を所持しているかとかだ」
「成程。しかし、安易にお客様の情報を提供することはできません」
「そうか。これを見ても情報を提供しないのか?」
私はそう言って、ローブの下に着ているギルドマスターの正装でもある黒のシャツの肩の部分に付いている☆の勲章を見せた。
「若いのに3つも持っているんですか?」
「いや、これは実の姿ではない。見た目を偽っている」
「そ、そうでしたか。少々お待ちください」
店員はそう言ってこの場を離れた。オーダーを言った後、そのままカーテンをのけて厨房の中へと入っていった。数分待っていると、シェフが隣の椅子にかけた。恐らく40代後半だろうか。白い服を着ているのでここの料理人なのは明白だ。酒場にしては大分本格的だな。
「私はここの店主です。お客様は勲章をお持ち何ですって? しかも3つも」
「そうだ」
「で、昼食ついでに情報収集という訳ですか。レイドラムさんの何を知りたいのですか?」
「なあに。単純にどういう人脈を持っているとか、どんな武器を持っているかとかだ」
「成程。まあ、英雄様に話さない訳にはいきませんから、うちのお店を選んでくれたお礼という形で知っている情報を提供しましょう」
「助かる」
「レイドラムの人脈について先にお話しをしますと、彼はこの国のジェノーバ・マカロフ卿と手を組み、様々な武器を仕入れているそうです」
「そもそもなのだがこの国はどこなのだ?」
「もしかして、今回こっちに来るのは初めてでしたか? ここはログウェルですよ」
「ログウェル? レンファレンス王国から5,000km離れているぞ?」
「そうですね。実はここの市場は全ての国に繋がっているのですよ。凄いですよね。条件を満たせば、5,000km離れているここに飛ばすスキルがあるのですから」
「戻ることはできるのか?」
「勿論。レンファレンス王国から来た、☆3つの勲章持ちで、レイドラムの調査を行っているとなると、もしかしてルイゼンバーン様ですか?」
「そうだ」
「確かに年齢が違いますね」
そう言ってこのシェフは笑っているがどこか満足気だった。これだけ離れた国でも、普通の酒場の店主が私の名前を知っているのだから、この変装はやはり正解だったな。
そう言っていると、私が頼んだビーフシチューとパン、トマトとアボカドのサラダが出てきた。赤ワインを先に口に含んだ。
「これは美味いな」
「赤ワインとしか表記しておりませんでしたが、こっち側でお料理に合う銘柄を選んでおります。勿論、値段は一律でしておりますよ」
「そんな事していると赤字が出そうだが」
「まあ上手くやっていますよ」
「そうか。で、話を続けてくれ」
「はい。レイドラムは小型の爆弾と呼ばれる兵器を大量にマカロフ卿から仕入れています。他には重火器を積める飛行船なども手に入れようとしていると噂を聞きました。その資金を貯めるために、人身売買をしまっているというっ話を聞きます」
「成程な。他には無いか?」
「それと、どうやら魔族を何人か雇い、護衛として自分の周りを固めているらしいですね。レイドラム自体は大したことないようですが、持っている武器も強力ですしね。彼は銃の腕もそこそこいいらしいので」
「それは厄介だな」
そう言いながらもシチューを食べていく。うむ。絶品である。そしてこのシチューに浸けるパンもまた絶品なのだ。
私はワインを口に入れた後、店主に気になったことを質問してみた。
「重火器を積める飛行船というのはどんなのだ?」
「正直分かりません。噂によると、飛行船に乗船しながら重火器を使って空から攻撃できるみたいです。恐ろしいですよね。そんなものが本当に存在すると」
「だな。マカロフ卿は転生者の可能性はあるのか?」
「それは何とも言えないですね。ただ、マカロフ卿がそもそも相当腕の立つ実力者だと聞きました。それにやはり彼は魔族や
「どんどん話がややこしくなっていくな。これは一筋縄ではいかなそうだ。ご馳走様。美味しかったぞ」
私はそう言ってワインを飲み干す。その途中で、店主が話しかけてきた。
「もういいのですか?」
「ああ――十分だ」
私は金貨を1枚だけ店主に渡した。
「料金が全然違います」
「いや受け取ってくれ。他にレイドラムの情報を知っている奴はいるか?」
「いると思います。ここを左に出てしばらく歩くと、骨董品を営んでいる人物がいます」
「分かった。助かる」
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