第28話 レイドラムとベリトの調査Ⅴ

「無駄な抵抗はよすんだ」


「無駄な抵抗ね。さっさと吐くがいい。さもなくばこの男の命はないぞ」


「わ、私のことは放っておいてください! こうなったのも私が油断をしていたらであります!」


 新兵は涙を流しながら訴えている。分かっているのだ。その男がただ者ではないことを。


「どうしますか――? このままではリアトがやられてしまします」


 どうする。正体を明かし目的を伝え引いてもらうか。いや、そんな簡単にあっさり要求を引き受けてはくれないだろう。しかし、この状況を打開できるスキルを持っていない――。


「レイドラムを追っている。奴は違法の物を売買している犯罪者だからな」


「ほう。で、追ってどうする? 捕まえるのか?」


「ああ」


 ナイフを新兵の首に軽く這わせながら何やら考えている。頸動脈をこのまま切るとは思えないが、如何せん不安で仕方ない。しかし、感情的になっては駄目だ。奴を刺激してしまい、うっかりやられてしまったなどあってはならない。


 左隣にいるハワードは拳から血が出るほど力を込めている。同時に冷静さを保つように爪を皮膚に食い込ませているようだ。


「ふむ。私も奴が気に入らないと言えば気に入らないからな。私が見た人間の中で三本指に入る屑ではある。取引をしないか?」


 こいつは何を言っているんだ。レイドラムの護衛ではないのか?


「それは何だ?」


「単純な話だ。奴を殺せ。連行するのではなく、殺せ」


「お前は奴の護衛ではないのか?」


「護衛ではない。ただ、協力関係にあるだけだ。奴には物理的な力は無いが、武器などは豊富に取り揃えている。また、人脈が広い。そこに奴の強みがあるだけだ。ただ今となればどうでも良い。私が奴を殺すのは容易いことではあるが、それは特に面白くないからな。さあどうする? 奴は、違法品で金を荒稼ぎし、獣人を気が済むまで陵辱し売り飛ばす輩だからな。別に答えは直ぐに出さなくても良い。ただし、この人間は私が預かるぞ。3日以内に潜入してレイドラムを殺すのだ。なあに、レイドラムの屋敷はここから10km程離れた南西にある。せいぜい足掻いてみせろ」


 男はそう言うと新兵と共に姿を消した。転移系のスキルだろうか? いずれにせよ人質を取られてしまったのはこちらにとって不利な状況だ。何より若く才能ある部下を失いたくはない。


「奴はもしかして?」


「ああ。恐らくベリトだろうな。こんなに呆気なく気付かれるとは思いもしなかった。私のミスだ。申し訳ない」


「いえ。そんなことはありません。結局私は何もできませんでしたし、次をどうするかを考えましょう」


「そうだな。とりあえずレイドラムの屋敷に行く。しかしその前に三人のところへ戻ろう」


「ええ」


 私とハワードはさっきの男のところへ向かった。すると途中道端で三人もこっちに来ていた。


「ギルドマスター。ご無事でしたか! レイドラムが先程の男に渡していたのは大量の麻薬でした」


「やはりな。まあ、ここに来ている連中は違法な取引をしているのが一般的ではあるからな。それより謝罪しなければならないことがある」


「謝罪ですか?」


「そう言えば、リアトが見当たりませんね」


「彼は、レイドラムと協力関係にある男にさらわれた。恐らくベリトだと思うが、鑑定士でプロフィールを確認することができなかった。顔もローブで隠れていて分からなかったしな。大変申し訳ない」


 三人の部下は顔を見合わせている。


「ギルドマスターでも失敗することあるんですね」


「何か、親近感湧きました」


「リアトを助けることが最優先ですね。まずは情報収集しないと!」


 私を責めること無く、各々が述べた感想だ。はっきり言って部下に恵まれているな。と、言うか私は失敗しない人間に見えていたのか。


「リアトはどこにいるかは分からないが、ベリトと思われる男の情報によると、ここから10km程離れた南西にレイドラムの屋敷があるそうだ。男はレイドラムを殺せばリアト解放してくれる可能性がある」


「レイドラムの殺害――。レンファレンス王はそれは望んでいないはず。聞き出すべき情報はもっといっぱいありますからね。レイドラムの殺害は本意では無い筈ですよね? ギルドマスター」


「そうだ。しかし状況が状況だ。理想としては、リアトを救出し、レイドラムのを連行するべきだ。そしてベリトも連行したいところではある。しかし、ベリトのスキルは洗脳することくらいしか分からん。クロノスもベリトがどのようなスキルを使うか分かっていなかったしな」


「困りましたね」


「レイドラムの情報を聞き出すことはできたか?」


「そうですね。獣人を犯して使い無くなったら売っているという話は聞きました。本当かどうか分かりませんが」


「それは本当の可能性が高い。リアトを連れ去った男も同じような事を言っていたからな」


「酷い奴ですね」


「とにかく、この辺りで、レイドラムがどんな武器を持っているか情報を聞き出そう。一時間後にここにもう一度来るように」


「かしこまりました」


 部下達はそう返事をすると、この場を後にした。私も近くの酒場で情報を収集するか。


 




 




 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る