第13話 いざ、カーネル王国

 次の日の朝。8時までには用意をしてカーネル王国に向かっていた。鉱石はまあ置いてきた。いい職人がいるとは言われたけど、基本的に荷物は少ない方がいい。俺が持っているのは、金貨一枚入っている巾着だけ。


 マーズベル山脈を越えて数キロ飛ぶと、カーネル王国に入るらしい。しかし、王都はそこから300km以上離れたところにある。


「ナリユキ殿」


「なんだ?」


「我、もっと速く飛びたいのだが」


「いや、気持ちは分かるけど、我慢してくれよ。俺落ちるじゃん」


「ふむ。早く何かしらのスキルを身に付けてほしいものだ。寧ろ、ミク殿のように飛行スキルがあれば移動は楽だぞ? 何故か分からんが一緒に乗っているが」


「いいじゃないですか。楽なんですから」


「――ぐうの音も出ないな。まあもうすぐだし、辛抱だな」


「ゴーグルを付けていて、ベルトも付けているいるからな。まあ何か考えておくよ」


 そんな会話をしていると王都が見えてきた。今まで見ていたのは田園だったり、木造の民家が点在していたりと、まあ一言でまとめると田舎の風景だ。けれども王都は違う。魔物対策であろう。地平線には壁が広がっている。その中がどうやら王都となっているらしい。


「あの壁結構高いな。あれがずっと広がっているのか」


「そうだ。長さはおよそ250kmらしい。そして壁の高さは10mだ」


「250kmって凄いですね――」


「我も初めて見たときは驚いた。さあ着くぞ、しっかり持っていてくれよ」


 俺はランベリオンを、ミクちゃんは俺の腰をしっかり持ち降下に備えた。近くにワイバーンが飛んでいるのに、門番は明らかにスルー。それどころか、一人の門番は会釈を。もう一人は手を振っていやがる。


 着陸して俺と、ミクちゃんが降りたのを確認するなり、ランベリオンは人型化ヒューマノイドになった。門の方に近付いていくと、二人の門番もこちらに歩み寄ってきた。手を振っていたのが若い男性で、会釈をしていたのは中年の男性だった。


「ランベリオン様、お久しぶりですね。本日はどのような用件でしたか?」


「久しいのビータ。今日はギルドに用があって来た」


「そうでしたか。どうぞお通り下さい。因みに一緒にいる方は?」


「この2人は我の友だ。男性がナリユキ・タテワキ殿。女性がミク・アサギ殿だ」


「私はビータと申します。宜しくお願い致します」


「自分はケイトと申します。宜しくお願いします!」


 そう紹介された後、ランベリオン以外の皆は一礼をした。


「ところで、ランベリオンさんが人間と王都に一緒に来るなんて珍しいっすね」


「だろ? 実は恥ずかしい話、この二人にコテンパンにやられて助けられたのだ」


 ランベリオンがそう言って「ワハハハハ」と高笑いしているところ、二人の門番は目が点になっていた。うんまあ。S級の魔物の本人から、人間にコテンパンにされたって話を聞いたらそんなリアクションになるわな。


「カーネル王国の英雄をコテンパン?」


 門番が口を揃えてそう言って、アホ面をかまし始めたので、俺とミクちゃんは思わず目を合わせた。しかも、聞き捨てならないのは、カーネル王国の英雄。そうカーネル王国の英雄。重要なので二回言った。魔物が英雄ってどゆこと?


「ランベリオン様が人間にコテンパンされるなど初耳です」


「自分、まだまだ浅いので説得力に欠けると思いますが、初耳っす」


「いや、実際に人間にコテンパンにされたの初めてだしな。我はS級の魔物だし、飛竜ワイバーンの王だし」


「ですよね」


 二人の門番が口を揃えてそう言っているので、この二人は恐らく仲が良い関係なんだろう。俺、会社でそんな良好な関係の人いなかったんだけど。羨ましいなコノ野郎。


「まあ詳しいことはまた話す。ナリユキ殿、ミク殿」


「あいよ! 行こうぜミクちゃん」


「はい! ビータさん、ケイトさんまた今度!」


 ミクちゃんが後ろを振り返りながら、そう言うとビータとケイトは手を振って見送ってくれた。俺もそれに同調して手を振り、別れを告げた。


 それにしても、まあまさに王都って感じだ。10mの道幅で両脇ではアクセサリー、武具、食べ物などを売っていて、人の多さは秋葉原くらいかな? 流石に渋谷とかほどでは無いが賑わっている。馬車が行き交ったりしているから、ゲーム好きの俺としても興奮する。


「いいですね! まさに! って感じで!」


「だな! ランベリオン、こっからは近いのか?」


「そうだ。あと1km先くらいにある」


「OK。あと気になったんだけど、ランベリオンって英雄だったんだな。なんか周りザワザワしているし」


「ですね。めちゃくちゃ見られていて恥ずかしいんですけど」


 そう――ランベリオンと一緒にいることで町民の視線を凄く感じるのだ。ランベリオン・カーネルという名前が伊達じゃないことは、この時点でやっと理解できた。このコメディアンワイバーンはめちゃくちゃ人気者だ。なんか知り合いの人いるだろ? って聞いた俺がちょい恥ずかしいんだけど。


「まあ我は10年前にこの国が魔族に襲われていたときに、王国の兵力として加勢したからな。それであろう」


「意外と謙虚なのな。もっと威張るかと思っていた」


「それ、我の印象酷くないか?」


「ランベリオンさんの☆3つって本当に凄いんですね」


「ミク殿は男を悦ばすのが巧いな。そういうのはアザトースって言うんだぞ?」


「ナリユキさん。私、ランベリオンさんの事褒めたのに、神話に出てきそうな名前であざといってディスられました。ぴえん」


「わ、ワイバーンジョークだ」


「テメェ、ワイバーンジョークって言いたいだけだろ。それにぴえんって言っているから安心しな」


「ぴえんって何だ?」


「ヒューマンジョークだ」


 どこが面白かったのか分からないが、二人はクスクスと笑ってくれているので結果オーライ。


「真顔の破壊力――」


 ミクちゃんはそう言ってくれたので、真顔で言ったのがどうやら面白かったらしい。 


 そんなこんなやっているうちにギルドへと辿り着いた。





 

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