第8話 ワクワクの始まり

 今日は色々あった。何よりナリユキさんと出会ったことが何よりも大きい。ナリユキさんが建ててくれたこの家。簡易と言っていたのに細部のこだわりが凄い。まず、この低反発マットレス。通気性がよくムレによる不快感を解消している上に、3層構造になっていて、体のピッタリとフィットする。そして観葉植物で部屋の空気を整えている。もし、暮らすとなればどんな部屋を作るんだろう? ものすごく見てみたい。ナリユキさんは、知り合いや動画配信しているファンから生産性の鬼って言われていたらしい。だから寝ることに出し惜しみをしないと――。


 それであんなチートみたいなスキルを手に入れたのかな? 食料は流石に自分たちで調達しないといけないけど、それはそれで私の楽しみでもある。でもこれからどうするのだろう? 家をどこかに建てるのかな?


 ――あれ? 話し声が聞こえる。ナリユキさんとランベリオンさんの声だ。よし――。


 と、部屋を出て隣のナリユキさんの部屋の扉をノックした。ナリユキさんは返事をしてくれたので一呼吸を置いて部屋にお邪魔した。


「声が聞こえていたので来ちゃいました」


「全然いいよ。俺についてくるなら聞いておいてほしい話でもあるし。ランベリオンお願いだ」


「うむ。ナリユキ殿からは最適な土地は無いか? という質問を受けた。ミク殿もナリユキ殿と共に行動するのだろ?」


「はい。同じ家でも私は構いませんよ?」


「同じ家!?」


 うわ、ナリユキさんめちゃくちゃ吃驚している。あ、でもそうか。ナリユキさんからすれば、私はJD。やっぱり駄目なのかな? 形はどうであれ、男の子と一緒に暮らすのは憧れだったりするんだけど、ナリユキさんはどうなんだろう?


「駄目ですか?」


「いや、まあ別にいいけど」


「じゃあ決定ですね」


「うむ。で、ナリユキ殿は国を造りたいのだろ?」


「そうだな。俺のスキルは優秀だからどうせなら大きいことをしたいよな」


 まさかの国造りでしたか――確かにそのスキルがあれば国なんて簡単に造れる。でも実行するのはやっぱり凄いな。年上男性って皆こうなのかな? いや、駄目な人もいる。ナリユキさんのネジは外れているとも言えるけど。


「それであれば、我の住処の山はマーズベル山脈といってな、自然豊かな国だ。勿論手強い魔物もいる上に我が棲みついておるから、人間は恐れてあまり近寄っては来ない。しかし、うぬ等なら大した問題では無かろう。それに何かあったとき、我が駆けつけることもできる」


「いや、それならむしろ同じ国民として、近くに棲めばよくね? 長生きしているのに意外と抜けているよな。ランベリオンって」


「う、うるさいわい! だが、そうだな。我、人間と暮らすの久々すぎて少しテンション上がってきているのだが、本当に良いのか?」


「ランベリオンさんって結構可愛いワイバーンですよね。なんか可愛いかまちょみたいで」


「かまちょ? 何だそれは?」


「構ってちゃんの困ったちゃんってことだ」


 いや、一言多いナリユキさん。絶対分かって困ったちゃんを付け足したよね?


「ゴホン。成程。飛竜ワイバーンの王としての威厳に欠けるな」


「いや、気になっていたけど飛竜ワイバーンの王って絶対嘘だろ。勲章が☆3つが凄いってのも怪しい」


「――今度我の友を紹介してやる。あと、王国も我が同行しよう。ナリユキ殿のなかで、我がネタキャラにしかなっていないのが不服すぎる」


「まあ、この世界のことは今日来たばかりで分からんから、それは頼りにしているさ」


「今日!? ナリユキ殿は今日転生して、我を初っ端から倒したのか?」


「そうだけど?」


「ミク殿は?」


「私は一週間前ですよ?」


「――ナリユキ殿に関しては、LV1の状態でLV80くらいの魔物を無傷で10分かからないで、倒したってことになるのだが」


「――いや、日本人の知り合いが昔いたからって、そんな分かりやすいであろう例えされても、実感がイマイチ無いんだから分からねえよ」


「うぬ等めちゃくちゃ面白い人間ぞ」


「いや、知らんぞ?」


「分からんぞ~」


 と、私も被せて乗ってみたけど、もはやこの二人の会話が楽しくて聞いているだけでいい。


「冗談はさておき、うぬ等の行動計画も知りたい。明日は町造りに励むらしいが、明後日以降は王国に出て調査をするという流れで良いのか?」


「優先順位だよな。レンファレンス王国ってのはどこにあるんだ?」


「ここの村の東側だな。で、我の知り合いがいるギルドはこの村の北側にあるカーネル王国というところにいる」


「ちょっと待て。今、カーネルって言わなかったか?」


「そうだが? 500年程前のカーネル国王から、☆1つ目の勲章を授与されたときに、カーネルの名を頂いたのだ」


「――ただのホラ吹きワイバーンだと思っていた」


「そんなしょうもない嘘で威張って何になるのだか。我が問いたいのだが」


「たまにいるんだよそういう奴」


「そうか。で、話を戻すと我の棲み処は、カーネル王国の手前にある。つまりマーズベル山脈を越えてカーネル王国に辿り着くから、行く前に寄ることもできるがいかがだろうか?」


「じゃあそうしよう。寄って良かったら家を建てて、そのままカーネル王国に行こう」


「移動は我がうぬ等を乗せて飛ぶから、存分に空の旅を楽しむとよい」


「新しい飛行機だな」


「飛行船のことか?」


「飛行船よりもっと大きいのが空を飛んでいるんだよ。多分吃驚するぜ」


「見てみたいものだな」


「今度見せてやるよ。燃料は無いから飛ぶことはできないけどな」


「本当か! 是非お願いする」


「ミクちゃんもそれでいいかな?」


「勿論ですよ! 竜の背中に乗れるんなんて思わなかった」


「だな! 存分に楽しもうぜ!」


「うむ。では我は自分の部屋に戻るぞ?」


「ああ。ありがとう」


「ありがとうございました」


 そう言うと、ランベリオンさんは部屋を出て行った。で、ナリユキさんに対する率直な疑問があった。


「ナリユキさんはどんな国にしようと思っているんですか?」


「まあ、シンプルに多種多様な人物や魔物が共存できる国だな。あとは、皆が住みやすく幸福度の高い国だな。スラムみたいなところは絶対に作らん。だからミクちゃんも手伝ってくれ」


「勿論」


 そう返事して少し時間が空いた頃、窓が開いているため、一人の村人が呼び掛けてきた。危機を何とか回避――というよりも、村人が集まって私とナリユキさんを祝ってくれるらしい。大変嬉しいけれど、本当にいいのかな? 食料もいくつか焼かれて栽培をし直さないといけなくなったのに。


 それでも、断っても村人達は引かないだろう。しばらくここで滞在して思ったことだけど、ここの人達は変に頑固だ。いや、忠を尽くしたいという気持ちが全面に出ている。それだけ生きることに必死なんだ。私なんか失恋したときに泣きじゃくって、引きずりまくって、全てが嫌になって死にたくなる面倒くさい女なのに――。本当に、皆のことは心から尊敬できる。


 それでも今は楽しいと言える。恋愛の動画を出しながら、皆はどんな恋愛をしているのかを聞いて、少しずつ失恋を吐き出していたのが嘘みたいだ。これからが楽しみだ。これだけ明日を楽しみにできるのはいつぶりだろう?


「ミクちゃん行くぞ」


「はい」




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