【第六話】騎士 ②

「なら、もう行くぞォッ!!ポーションなど無駄だったと、あの世で嘆くがいいッ!!」



騎士はそう言って、恭司の目の前に踏み込んできた。


さっきまでの兵士たちとは段違いの速度だ。


十分な距離を取っていたにもかかわらず、ほぼ一瞬にして目の前にまで詰められ、下から剣を振り上げてくる。



「く…………ッ!!」



恭司は先ほどと同様、ナイフで受けた。


しかし…………


どうやら騎士は速度だけでなく、力も兵士たちとは段違いのようだ。


足が宙に浮き、後ろへ吹き飛ばされる。


さらに、


騎士はそこに追い討ちをかけてきた。


その場で剣を構え、遠距離技を仕掛けてくるつもりのようだ。


刹那のやり取りが続く中で、恭司は頭をフル回転させる。


騎士の構えは横────。


スキル『横斬り』だろうか────?


だが…………


そう思った瞬間────。



「…………ッ!?」



振り抜かれた剣から、その斬撃が剣から離れ、鎌鼬となって襲いかかってきた。


要は真空波だ。


その技の名は、スキル『スラッシュ』────。


剣から離れた斬撃はそのまま宙を飛び、恭司に向かってまっすぐに突き進んでくる。



「なるほど…………ッ!!そういう技かッ!!」



前世の自分も"よく使っていた"系統の技だったので、恭司はすぐにその特性を理解した。


中身は大体同じのようだ。


さっきの振り上げで飛ばされた状態から、恭司はまたしても空中で斬撃をナイフで受け止める。


そして…………



ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!



「く…………ッ!!」



受け止めた瞬間、恭司は空中でそこからさらに後ろへ吹き飛ばされた。


思った通りの力強さだ。


威力についても、恭司が昔"子どもの頃"に使っていたものとそう変わりないらしい。



(壁にぶつかれば終わりだな…………ッ!!)



この廊下が無駄に長くて助かっていた。


やはり今日は運が良いようだ。


ぶつかって衝撃を受けることがなかった分、それほど大きなダメージは受けずにいられている。


しかし…………


恭司がそこで受け身を取って着地しようとした瞬間に、再びあの騎士が目の前に迫ってきているのが目に入った。


追撃だ。


スキル『スラッシュ』を放った所から急加速で前進し、一瞬にして目の前に躍り出てくる。


コレは…………"さっきの技"だ。


もう見ている。


懲りずにまたあの斬り上げをするつもりなのだろう。


流石に、正面から受ける気はなかった。


というより…………



「同じ技3度目とか…………ッ!!舐めてんのかァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」



下から振り上げられるその剣に、恭司は全力でナイフを横から振り切る。


横流しだ。


縦の動きに真横から衝撃を受けて、騎士の振り上げは難なく横に弾かれる。



「何ィ…………ッ!?」



騎士は予想外の状況に目を疑った。


恭司にとっては当然でも、騎士からすれば完全に予想外の事態だ。


恭司はその隙に素早く受け身を取ると、すぐさま騎士に近づき、首を狙ってナイフを振る。


まるで猫のような動きだった。


恭司のバランス感覚は生来のものだ。


飛ばされている状況から体制とバランスを一瞬にして整え、瞬く間に距離を詰める。



「く…………ッ!!」



だが…………


その攻撃は、騎士によって避けられることになった。


薄皮一枚────。


ホンの数ミリの差だ。


やはり、体制を整えていたロスが良くなかったのだったのだろう。


恭司は歯噛みする。


出来れば、今ので決めたかった。


みすみすチャンスを逃してしまうとは…………不覚だ。



「驚いた…………。無能者相手とは思えぬ、素晴らしい動きじゃないか…………。本当に感心したぞ」



お互いに体制を取り直すと、騎士はそう言って恭司を褒め称えてきた。


しかし、


恭司としては素直に喜びきれない。


さっきのカウンターで仕留められなかったのは手痛い失敗だ。


次はいつあんなチャンスが訪れるか…………。


騎士も今回のことで、あの攻撃を控えるようになるだろう。


勝機を1つ、逃してしまった。



「まさかとは思うが、無能者でありながら、ワシの『閃光斬』を見切ったというのか…………?いや、にわかには信じがたい話だが……」



騎士はそう言って、恭司に驚いた顔を向けてくる。


アレは『閃光斬』という技らしい。


おそらくはスキルだろう。


恭司は笑った。



「それを、わざわざ敵に教えてやるほどお人好しじゃないさ…………。それとも、そういう手の内の分かった相手じゃないと、騎士様は戦えないのか…………?」



騎士もまた、不敵に鼻で笑う。



「フ、フフ…………フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ…………。あぁ、そうだな…………。それはそうだ…………。今のはワシが悪かった…………。無粋なことを聞いてしまったお詫びに、貴様には…………このワシ自ら褒美をくれてやろう。他の奴らには決して真似できぬ、ワシの奥義…………。そう…………ッ!!『騎士』の技をなァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」



騎士はそう言うと、上に跳んだ。


落下の力を利用する技なのだろう。


見た目にそぐわぬ身軽さだ。


その身は既に天井近くにあり、猛々しい迫力が押し寄せてくる。


恭司はそれを見て、後ろに跳び下がっておくことにした。


コレは考えたのではなく、本能的な動きだ。


何か…………悪い予感がする。


そして…………


その予感は見事に的中することになった。


騎士が地面に近づくにつれ、キィィィィィィィィィィィィィィィィンという音と共に、騎士の持つ剣が白く光を帯び始めたのだ。


背中がゾクリと泡立つ。



「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい…………ッ!!これぞ、我が奥義…………ッ!!スキルッ!!『グランドスマッシュ』…………ッ!!」



ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!



騎士は上から剣を大きく振り下ろすと、剣を床に強く叩き付けた。


ここまでは、予想通りの動きだ。


だが…………


その瞬間────。


振り下ろされた辺りの床が、大きく捲り上がってくる。


そして…………


その捲り上がった床が、恭司に向けてどんどんどんどんと突き進んできた。

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