【第五話】最後の関門 ②
進んでみると、廊下の先には何もなかった。
明らかに不自然なくらいだ。
ただただまっすぐに道が続いている。
そして…………
「いたぞォッ!!カザルだァッ!!」
「チッ…………」
進めば進むほどに、前からひっきりなしに兵士が立ち塞がってきていた。
先の逃亡兵たちが人を集めてきているのだろう。
出くわす度に始末しているものの、キリがないというのが正直な所だった。
「あの緑色の液体がなければ正直ヤバかったかもな…………。こうしている間にも体力はどんどん削られていっているし、さっきのままだといつやられていたことやら…………」
とはいえ、
さっきから襲いかかってくる兵士たちは、やけに散発的な登場の仕方をしていた。
3~4人くらいの集団がポツポツと現れるくらいだ。
まだ本格的には知られていないと見える。
おそらくはさっき知ったばかりで、準備なんてほとんどする暇がなかったのだろう。
『無能者』が相手だという油断もあるに違いない。
しかし…………
「そうは言っても…………流石にこの先の"奥"はそうもいかないだろうなぁ…………」
恭司は嘆息した。
今はこういう中途半端な数ばかりだったとしても、この廊下はそもそも"罠"の可能性が高いのだ。
こっちの狙いなどお見通しだろうし、変に兵士を再編して送り出すよりは、単純に数を集結して出口で待ち構えておく方が効率が良い。
おそらくは先へ進めば進むほどに、ちゃんと準備した兵士たちが現れてくるはずだ。
今までの倍以上の数で待ち構えられていてもおかしくない。
急がなければならなかった。
「取り急ぎ…………目指すとすればエントランスってことになるのかねぇ……」
案の定と言うべきか、さっきから窓はやはり見つからなかった。
それどころか、ドアの1つすら見当たらない。
ここはただただ一本道の廊下が前に続いているだけで、他には本当に何もない廊下だったのだ。
何ならカザル以外の牢屋すら見当たらない。
よほど特別扱いされていたのだろう。
ここまで何もないのは、おそらくは敢えてそういう風に造られているからだ。
一本道で窓もドアもないということは、この廊下以外に逃げ道は無いということ────。
つまりは、
万が一にも脱出したり隠れられたりしないよう、袋の鼠状態にするための造りになっている…………ということだ。
まるで、カザルを幽閉するためだけに造られたかのような空間────。
兎にも角にも、恭司にとっては最悪の状況と言える。
「だがそれでも尚、行くしかない…………か。罠があろうがなかろうが、ここから出るまでは強行突破以外に道はねぇしな……」
恭司はただただ走った。
この先がどうなっていようと、進むしかないのだから仕方がない。
恭司1人相手に一体どれだけ集められているのかは分からないが、処刑当日で来賓までいるとなると、それなりの数は用意されているはずだ。
いつの間にか…………さっきまで散発的に出てきていた兵士たちも出てこなくなっている。
おそらくは、この先にいるであろう一団に合流したのだろう。
恭司は覚悟を決めながら、尚も走り続けた。
合流が成立しているということは、もうある程度向こうも準備が整ったということだ。
時間的猶予は既に無く、アドバンテージは皆無────。
待ち構えられて、そこに突っ込むしかないという最悪の展開────。
だが…………
それでも尚、やるしかない。
やる以外に、生き残る術はないのだ。
そして、
走り始めて数分────。
ようやく、前方にボンヤリと人影が見えてきた。
その瞬間────。
「…………ッッ!!!!き、来たぞッ!!総員…………ッ!!放てェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」
「…………ッ!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ…………ッ!!
前方が突然目映く光ったかと思うと、いきなり大量の光線が飛んできた。
砲撃だ。
光の粒子状の爆撃が恭司に襲いかかり、恭司はその場で神経を尖らせ、かろうじて避けきる。
見えた瞬間に撃ってきたからだろう。
距離が遠い分、勘と予想で何とか対処できた。
元々、恭司は一つでも当たれば終わりの状況なのだ。
このカザルの貧弱な体では、どんな攻撃でも1つ当たっただけで即死級のダメージとなってしまう。
避けられたのは、前世でも似たようなことがあったおかげだった。
何事も経験しておくものだ。
そして、
光が消えると、ようやく敵の一団が目に入ってくる。
「おいおい、マジか……」
そこには、白いローブを被った人間たちが前に立ち、その後ろを隊長クラスの兵士たちがビッシリと並び立っている光景が広がっていた。
廊下はもちろんのこと彼らでいっぱいいっぱいに敷き詰められ、ネズミ1匹通れそうにない状況だ。
数は50人といった所か────。
後方をほとんど隊長クラスばかりで占められている辺り、恭司1人相手にずいぶん高待遇で迎えてくれるらしい。
恭司はナイフを構えると、白いローブを被った連中に向けて再び走り出した。
「第二射ァ…………ッ!!構えエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ…………ッ!!」
すると、
恭司が辿り着くよりも先に、次弾の装填が完了していた。
良い手際だ。
恭司の走る速度が遅いということもあるが、向こうの対応も明らかに速い。
彼らは全員が杖を持ち、その杖が発光しているのが見えるが、コレもおそらくはスキルか『魔法』なのだろう。
あらかじめ指示内容を統一していたのか、なかなかに統率された動きだった。
「放てエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ…………ッ!!
2発目の総射撃────。
再び、恭司の視界が目映く照らされる。
しかし、
放たれる前に、彼らの杖の向きは全て確認しておいた。
一射目より距離は近いが、これなら何の問題もなく避けられるだろう。
着弾点さえ理解しておけば済む話だ。
恭司はこの隙に足を進め、距離を詰める。
狙うは当然…………避け切った後の、"奇襲"だ。
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