【第五話】最後の関門 ①
「さて…………そろそろ動くか…………」
まだ体力的にしんどくはあるものの、恭司は再び立ち上がった。
いくら辛くとも、流石にこの状態のままでい続けるわけにもいかない。
これだけの騒ぎだ。
逃げた兵士たちは、必ず誰かを呼んでここに戻ってくるだろう。
大声も出したし、こんな所でいつまでも座っている場合ではない。
今は一刻も早く、安全な所へ移動しなくてはならなかった。
「確か…………"そろそろ時間"とか言っていたな……」
最初に出てきた隊長が、セリフの中でそんなことを言っていた。
恭司の…………いやカザルの処刑がそろそろ始まるということだ。
場所がどこなのかは知らないが、既にそのための準備は整っているということだろう。
要人も多く集まっているに違いない。
こんな低レベルな兵士たちではなく、『聖騎士』や『武闘家』…………『攻撃魔法士』や『回復魔法士』といった、いわゆる『上級職』を持った人間たちも警護に集まっているはずだ。
その要人たちへの面目を保つためにも、父はカザルの処刑を確実に遂行したがるに違いない。
逃げた兵士たちから恭司が脱走したことを聞けば、尚更だ。
「しかし、この体で一体どこまで出来るか…………。そこが問題だな……」
恭司は体力面を心配しつつ、荒れる息を整えながら、ゆっくりと歩き始めた。
とりあえず進んでみて、脱出できそうな所や隠れられそうな場所を見つけなければならないのだ。
恭司は目の前の隊長の死体を足蹴にすると、この先へと進んでみることにする。
だが…………
そこで、その前に一つ大事なことを思い出した。
「あ、そうだ……」
恭司は足を止めると、その下で踏ん付けている隊長の死体の懐をまさぐり始めた。
なんせ、兵士ではなく隊長の死体なのだ。
特にこの男は総指揮官の立場にあったのだから、それなりに良い物を持っているかもしれない。
時間がないのは事実だが、必要なものを回収しておくことも重要だった。
そして、
まさぐっていると、お金の他に色々な物が出てくる。
「コレは…………身分証か…………?」
隊長が身に付けているアクセサリーの中に、やたらとゴツい金属の板があった。
金属の板とは言っても、そこにはこの家の家紋が彫ってあるだけで、ファッションとしての価値は無さそうだ。
なら身分証という考えは、外れていたとしてもそう的外れ…………ということもないだろう。
ただ、他にもカードキーや特殊なスキルを発動する媒体としての役割も持っているかもしれない。
一応、回収しておくことにした。
「あと…………は…………」
引き続きまさぐっていると、小さな小瓶を見つけた。
中には緑色の液体が入っているようだ。
一口サイズの瓶で、コルクの栓が付いている。
「………………何だコレ?」
緑色の液体という時点で怪しさ満点だった。
恭司の前世にはなかったものだ。
それは妙な光沢を持っていて、何か惹かれるものを感じる。
怪しいのに惹かれるという、かなり謎な液体だった。
「………………偉い奴が持っていたんだから、悪いもんじゃないんだろうが……」
液体が緑色をしている時点で、生理的に受け付けづらかった。
モンスターの体液のようなイメージしか湧かない。
しかし、
その一方で惹かれるのも事実だ。
本当なら調べてから手を付けるのがいいのかもしれないが、この体力的に極限な状態にあって、この液体には妙な魅力がある。
恭司はしばらく悩んでいたが、結局飲んでみることにした。
どうせこのままだと苦戦必死なのだから、一か八かだ。
偉い奴が自ら毒や劇物を懐に入れているはずはない…………と信じて、コルクの栓を取ってみる。
そして、
目をつぶってグイッと飲んでみた。
「…………ッッッッ!!!!コレは…………ッ!!」
体の内側から、体力が一気に回復していっているのが分かった。
少量だからか全開にはなっていないようだが、体中から元気が溢れ出してきているようだ。
ちょっとした擦り傷でさえもう塞がっている。
直感を信じて正解だった。
コレは、体力を回復するための────『薬』だ。
「ハハッ…………。なんて便利なんだ」
恭司はそれに気がつくと、急いで少し戻り、最初に出くわした隊長の懐もまさぐり始めた。
時間も大事だが、コレは今の恭司にとってはさらに重要な代物だ。
隊長クラスで持っているのであれば、現時点で戦った3人全てに持っている可能性がある。
まさぐってみると、案の定だった。
「ふ、ふふふふふ…………。今日は本当に運がいいな…………。まさかここにきて、こんなに良い物が手に入るとは……」
残り2人の隊長にも、同じ緑色の液体の他に金属の板のアクセサリーもあった。
1つはここで飲んで、もう1つは予備で持っておくことにする。
アクセサリーはそんなに何個も必要とは思えなかったので、最初の隊長から奪った1つだけにした。
恭司はお金の他にアクセサリーと緑色の液体を1つずつ懐にしまうと、改めて進み始める。
まるで嘘のように快調だった。
ついさっきまでは鉛のように重かった恭司の体が、今となってはまるで羽根のように軽く感じるくらいだ。
下手をすれば、今日起きた時以上かもしれない。
「この世界で初めて褒められる所を見つけたな」
気分も上昇し、体調としては完全に絶好調だった。
何なら、今からもう一度50人来ても戦えるくらいだ。
流石にそれは勘弁だが、体力を回復できる薬が予備で1つ手元にあるのは大きい。
この緑色の液体があれば、危機に陥った時にも多少の無茶は通せるだろう。
恭司は体力を満タンにして、改めてこの廊下の奥へと進んでいった。
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