【第四話】世界の弱点 ④
「貴様らァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!無能者相手に一体何を怯えているッ!!そんなザマで…………ッ!!恥ずかしいとは思わんのかァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
聞こえてきたのは、ずいぶん後ろの方からだった。
この隊の隊長だろうか────?
50人もいるのだから、1人ではなかったのだろう。
部隊は2つあったということだ。
その男は、兵士の波の後ろ側で怒鳴り声を上げている。
この50人の、いわゆる総指揮官という立場だと思われた。
兵士たちの様子を見るに、人望もあまり無さそうな男だ。
恭司は血液で体中を真っ赤に染め上げながら、その男を見る。
そして…………思った。
アレヲ殺レバ…………全テ終ワルンジャナイノカ────?
恭司はニィィイイイイイイイイイイイイイイと悪魔染みた笑みを浮かべると、その男に向けて前進する。
波いる兵士たちの首を何度も何度も斬りながら、宙に鮮血を何度も何度も何度も何度も舞わせつつ、ただただ前へ前へと進み続けていった。
まるで虐殺の行進だ。
容赦も躊躇もない。
ただただただただ…………
恭司は進み進んで、進み続ける。
1歩……2歩……3歩と…………徐々にだが確実に自分へと近づいてくる殺人鬼────。
そんなものに実際に直面したら、それはそれは恐ろしいものだろう。
隊長はそれを見て冷や汗を一筋流すと、ついに慄き、声を上げる。
「い、いいい、一体何をやっている…………ッ!!す、進まれているではないかァッ!!いいかァ…………ッ!?アレを私の前にだけは絶対に出すなよッ!!絶対だからなァ…………ッ!!」
その言葉が皮切りだった。
総指揮官ですらもが、無能者を相手に保身と恐怖の感情を見せたのだ。
さっきまで果敢に恭司へ突っ込んできた兵士たちが、隊長への失望と共に動きを止める。
何故こんな思いをしなければならないのかと、ひとえに疑問を持ち始める。
見たら分かるほどの、好機だ。
恭司はその隙を────見逃さない。
息を吸い込み、盛大に殺気を放つ。
「み、な、ご、ろ、し、だァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「「「ひ…………ッ!!!!」」」
大きな声で、突如告げられた処刑宣告────。
兵士たちはもう…………耐えられなかった。
自分たちだけでなく、総指揮官ですらもが恐怖のあまり動けなくなっているのだ。
我慢の限界をギリギリまで抑えていたソレが…………ふとはち切れる。
堰き止めていたはずの感情が…………一気に溢れ出す。
自分だけじゃない────。
他にも、沢山いる────。
だから…………
「あ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ッ!!」
「嫌だァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!死にたくないッ!!死にたくないィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」
「お、お母さんッ!!お母さァァァァァァァァァァァァァァァァァァァんッ!!」
絶叫と共に、兵士たちは一目散に逃げ惑った。
所詮はその程度の忠義心だったということだろう。
兵士でありながら、彼らは死の恐怖に耐えられなかったのだ。
隊長は慌てて指示を出す。
「こ、コラァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!き、貴様ら一体何をしているッ!!敵前逃亡は重罪だぞ…………ッ!?いいから早くッ!!早く戻……ッ!!」
しかし、その瞬間────。
ザシュゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!
隊長の首から、鮮血が噴き飛んだ。
兵士が逃げ惑ったおかげで、恭司はその隙に一気に前へと進めたのだ。
隊長は何が起こったのか分からないのか、首から血を噴き出したまま、呆然としている。
自分の首から大量の血が噴き出し続けている光景を見て、理解が追いつかないのだろう。
恭司は笑う。
恭司は隊長に近づくと、そのまま隙を突いて首を斬ったのだ。
兵士たちに身を紛れ込ませつつ、迅速に距離を詰めて、刃を届かせた。
人が多すぎて分からなかったのだろう。
隊長が思うよりずっと前から────。
恭司は既に相当近くまで来ていたのだ。
あとは…………
兵士が逃げ惑うと同時に、一気に攻め込むだけ────。
恭司にとっては、何とも簡単で退屈な作業だった。
「ば、バカ…………な…………ッ!!何故…………何故、私が、無能者…………如き…………に……ッ!!」
最期にそんな怨みがましい言葉だけを残して、隊長は床に崩れ落ちていった。
出血多量で息絶えたのだろう。
それからはもう、動かない。
「う、ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ッ!!た、隊長が死んだぞォッ!!もうダメだァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
その光景を見て、ギリギリ残っていた兵士たちも早々に退散していった。
隊長が死んで、唯一残っていた足枷も無くなったのだ。
武器を捨て、なりふり構わずに走り去っていく。
仇打ちなんて考えもしないのだろう。
さっきの隊長の様子を見れば、それも大体予想がつく。
やがて…………
その場には恭司1人と、大量の死体だけとなった。
恭司はようやく一息ついて、その場に崩れ落ちる。
体力的にはもう…………限界だった。
「良かった…………。ようやく…………終わったか……」
血だらけで真っ赤に染まった床に、恭司はドサリと座り込む。
もうすり切れいっぱいいっぱいだ。
指揮官を叩けて、本当に良かったと思う。
仮にこのまま続いていれば、いずれ恭司の体力は底をついて、負けることになっていただろう。
「今日は本当に…………運が良い…………」
そうして────。
恭司はようやく、50人からなる軍勢を退けたのだった。
完全にやり切った思いだ。
フラつく体を休め、息を整える。
しばらくの間は、ここから一歩たりとも動けそうになかった。
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