【第四話】世界の弱点 ②
「な、何ィ…………ッ!?」
驚かれているさながらも恭司は走り続け、今度こそ目の前まで距離を詰めた。
兵士はすぐに気付いて反撃しようと試みるが、ここまでくるともう恭司の方が速い。
最早ルーティンワークのようなものだ。
いつものように首を斬り、兵士はパタリと倒れる。
さっきのリプレイのようなものだから、今度はさっきよりも効率よく出来た。
だが、
安心してもいられない。
兵士を倒すと、恭司の目の前にはさらに大勢の兵士が集まっていたのだ。
「おやぁぁぁぁあああああああああ??これから大事なイベントを前にしているというのに…………何やらお出掛けですかなァ?カザル様ぁぁぁぁぁぁぁ?」
一難去ってまた一難きたところに、さらにもう一難やってきていた。
その兵士たちの先頭に立つ男が、何とも嫌味ったらしい口取りで話しかけてきている。
口調は敬語でも態度は偉そうな男だ。
自分の優位性を確信した顔をしている。
男の周りにいる兵士たちも同様だ。
ざっと見て、数は50人ほどだろうか────?
本命は当然こっちなのだろう。
この廊下一面に敷き詰められるように、肉の壁が目の前を覆い尽くすほどに立ち塞がっている。
さっきの兵士は、どうやら先遣として先に走って来ただけのようだった。
彼らがニヤついているのも分かる話だ。
ここまで数に差があるのであれば、仮にここから反転して逃げたとしてもすぐに追いつかれてしまうことだろうし、そもそも逃げる場所も時間もない。
袋の鼠とは正にこの事だ。
やるしかない。
「ご存知ありませんでしたかなァ…………?アナタ様は今、この家の罪人として捕われている立場なのです。それなのに勝手に抜け出されたりしては、困りますなぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
男はそう言って、下卑た嫌らしい笑みを浮かべた。
このやたらとゆっくりな口調で色々と喋っているこの男は、おそらくこの部隊の隊長なのだろう。
さっき戦った男と同じ雰囲気がする。
おそらくは職業も一緒か…………あるいはそれ以上だ。
多対一からの多対一────。
恭司も流石に顔を顰める。
中級職との2連戦は、今のカザルの体力では正直キツかった。
メンタルや技術的には問題なくても、物理的に体力が続くのかどうかが問題だ。
解決策も何もないが、そこはもう…………賭けるしかない。
「さァ、脱走劇は終わり…………。今すぐお戻りになるのです。そして今日はこれからトッテオキのイベントもありますからねェェェェェェ…………。"そろそろ時間"ですから、それほど長くお待たせは致しませんよォォォォォォォォォォォォォォォ…………?」
"そろそろ時間"────。
良い情報を聞いた。
しかし、
その情報が活きるのは、この状況を乗り切れてからの話だ。
恭司は目の前の彼らを見て、ため息を吐き出す。
キツくてもしんどくても────。
やらなければならなかった。
こんなことをして無駄に時間を食っている場合ではないのだ。
モタモタしていては、これ以上に増援がきてしまう可能性もある。
ならば、ここから先は…………
スピードと体力────。
根性の勝負だ。
「御託はいい…………。来るなら、早く来い────ッ!!」
ブチッと────。
コメカミが弾けるような音が聞こえた気がした。
見た目通り狭量な人間だったようだ。
男は鼻息を荒くして怒りを露わにすると、恭司に向けて全力で走り出す。
「だったらァ…………ッ!!お望み通り、ここでグッチャグチャのミンチにしてやるよォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
凄まじい迫力と殺気────。
構えは横だった。
さっき戦った男と同じだ。
もしかしたら職業も同じなのかもしれない。
だが、
そんなことを喜んでいる場合ではなかった。
始まる前から既に、恭司の体力には限界が近づきつつあるのだ。
急がなければならない。
「死ねェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」
既視感バリバリの光景と共に、男は横向きの斬撃を繰り出した。
コンパクトで鋭い一撃だが、もう恭司からすれば3度目だ。
当然の如く、無駄のない動きで速やかに躱す。
まるでテレフォンパンチだ。
知ってる斬線に、知ってる軌道────。
そして、
その次の手もまた、知っている。
「ハァーッハハハハハハッ!!終わりだァァァアアアアアアアアアアアアア…………ッ!!」
この世界の兵士たちは、ボキャブラリーと手札が少ないのだろうか?
もう一度きた横振りの第二手────。
高速で逆向きに描かれる斬線────。
もう…………
「見飽きたわァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
恭司は第二手がくるより早く、男の首を斬った。
カウンターだ。
男の首から血が噴き出し、床に沈む。
男は断末魔の叫びと共に自らの血の海の中に顔から突っ込むと、もう動かなくなった。
死亡だ。
一瞬、兵士たちの間に沈黙が舞い降りる。
目の前の出来事であるにもかかわらず、何が起こったのか分からないでいるのだろう。
さっきの5人組と同じだ。
彼らはただただ唖然とした様子で、思考を停止して立ち尽くしている。
恭司は息を吐き、覚悟を決めた。
そう…………
ここからが────。
これからが────。
本番の、"パーティータイム"だ。
「や、やりやがったな、テメェェェエエエエエエエエエエエエエッ!!」
「もう生かして帰してやると思うなァァアアアアアアアアアアアアッ!!」
「隊長をよくも…………ッ!!よくもォォォオオオオオオオオオオオオッ!!」
何が起こったのかはともかく、とりあえず男が死んだということは理解したのだろう。
1人殺したことを皮切りに、後ろの50人あまりの兵士たちは怒声と共に一斉に襲い掛かってくる。
ここが正念場だった。
やるしないのだから、後はやるだけなのだ。
恭司は歯を食い縛る。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
それからは、
正に血みどろの戦いだった。
飛び交う斬撃の嵐に、弾け飛ぶ血飛沫────。
血が足が腕が首が指が内臓が宙を舞い、阿鼻叫喚が地鳴りのように続き続けて、もはや地獄絵図のような光景だ。
恭司も流石に気が気じゃない。
軌道が分かるとはいっても、スキルによる攻撃はそれ自体は一級品の技なのだ。
その完成度は常に誰でも高い。
一度でも当たればお陀仏だ。
兵士たちは恭司に向けて何度も何十度も『縦斬り』と『横斬り』を放ち、恭司を殺さんと躍起になっている。
それがこの廊下の中で延々と繰り返されるものだから、恭司としてはたまったものではなかった。
それでも────。
諦めるわけにはいかない。
ここでやれなければ、もう死ぬしかなくなるのだ。
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