【第四話】世界の弱点 ①
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………、ようやくか…………。何の職業だったのかは知らないが、他の兵士たちとは違うようで少し焦ったぞ…………」
恭司はそう言ってその場に座り込んだ。
なかなかの疲労具合だ。
カザルとしてこの世に生を受けてからは初の強敵だったと言えるだろう。
体力的にもかなり消耗している。
だが、
コレで確信した。
「職業の剣技についてはまだ検討の余地有りだが…………スキルについてはおおむね予想通りだったな。これなら、何とか対処できそうだ」
この世界はスキルと職業こそが全てだが、こういった戦闘の中にもそれは色濃く存在しているようだった。
なまじ職業によるステータス補正とスキルが強いからだろう。
ステータスと技術がほぼ自動的に身につくおかげで、この世界ではその職業ごとのスキルをお互い相手にぶつけ合うという…………いわば力押しと技術押しの戦闘しかしていないのだ。
読みや駆け引きなど、本来戦闘に必須となるその要素がスキルと職業によって阻害されている。
おそらくは職業補正の能力アップ効果が大きすぎるのと、その職業によって手に入る技能のレベルが高すぎるからだろう。
さっきの男の剣技がいい例だ。
アレはただの剣技であってスキルでは無さそうだが、横に振りきった剣を即座に同じ速度で逆向きに振ることなど、普通では決して出来ない。
筋力的にも技術的にも、生半可な努力では到達しようもない技術なのだ。
そんな筋力と技術が『職業』という信託だけで簡単に手に入ってしまうのであれば、駆け引きのもとになるような努力や研鑽をしなくなるのもまぁ…………分からないでもない。
だが…………
「その軌道は常に一緒…………。スキルは特にそうだったな。他の剣技については状況やそいつ自身の意思によって変わりそうだが、パターンはあるのだろう。…………まるでゲームみたいな世界だな」
恭司は…………いやカザルは、かつて牢屋にいた頃、酔った兵士が悪ふざけでスキルを見せてきたことを覚えていた。
『縦斬り』も『横斬り』も、その時に散々見せられてきているのだ。
おそらくその兵士はカザルにできないことを侮辱したかったのだろうが、今日はその時の記憶が役に立った。
あの牢屋で見た軌道と今日放たれた軌道が同じであることを確認して、恭司は行動に移したのだ。
彼らはステータスや職業で威力や速度にある程度の差は生じているものの、基本的にはスキルや職業ごとに同じ攻撃をしている。
「おそらくシステム的な感じなんだろうなぁ…………。生まれ持った才能にかまけてそんなパワーゲームのような戦闘しかしていないとは…………。なんとも、つまらない世界だ」
恭司はもう一度、さっきの男との戦いを思い返した。
あの時、男は横振りの剣技で恭司を吹き飛ばしたあと、トドメを刺すために何故か再度"同じように"技を繰り出してきたのだ。
普通は一度見せた軌道を同じ戦闘でもう一度繰り返すなんて愚行は犯さない。
というより、まったく同じにする方が難しい。
そんなもの、相手に「こうするから上手く避けろ」と言っているようなものだ。
一度目はしてやられたとしても、二度目なら避けられるに決まっている。
何なら兵士の死体をそこに持ってくる余裕さえあった。
こんなのが通常戦闘なら、この世界はよっぽど強い職業やスキルを持っていない限り、恭司に勝つことはできないだろう。
恭司からすれば、同じことを繰り返す人形を相手にしているのと何も変わらないからだ。
恭司は笑う────。
実に、幸先がいい。
なんせ、こんなにも早く────。
序盤から既に見つけたのだ。
この世界の…………"致命的な弱点"を────。
「さぁ、後は…………色々と"見せてもらう"だけだな」
恭司はフラつきながらも、何とか立ち上がった。
別に怪我も何もしていないが、さっきの戦闘で消費した体力がまだ戻りきっていないのだ。
恭司の弱点もまた、如実に顕在している。
カザルの体力と力では、いずれ分かっていても動けなくなる時が訪れるだろう。
今も大概同じようなものだ。
それに…………
早く自分の記憶にある技術も体得したい。
「何とか体力付けないとなぁ…………」
恭司はブツブツと文句を垂れつつ、エントランスまでの道のりを再び歩き出した。
いつまでも休憩しているわけにもいかない。
時間は有限なのだ。
恭司は警戒を一層強め、慎重に歩みを進める。
さっきの戦闘では、流石に騒ぎすぎた。
あれだけ大きな声で何度も叫ばれたのだ。
もういつ来てもおかしくない。
ここから先は、血みどろの逃走戦だ。
「いたぞ…………ッ!!って…………カザルッ!?」
────と、思っていたら早速だった。
案の定だ。
やはり、悠長に休ませてはくれないらしい。
兵士の一人が前方から現れ、何事か叫んでいる所だった。
『一難去ってまた一難』とは正にこの事だろう。
全部が全部都合よくはいかないものだ。
正直しんどいが、こうなればもう仕方がない。
「チッ…………」
舌打ちを漏らしつつ、恭司は兵士に向けて走った。
カザルの身体は基本的に筋力不足だ。
もちろん走るための筋力も不足しているが、それでも技術的な歩法の心得はある。
多少マシくらいには走れた。
「ハッ!!バカがァ…………ッ!!遅いんだよッ!!」
そんな恭司に、兵士は悠々と構え、対処する。
所詮は"マシ"というレベルだ。
確かに、今の恭司は遅い。
歩法を身につけ走ったとしても、基本的な身体能力が向上するわけではないのだから対処されるのは当たり前だった。
そして…………
目の前の兵士は剣を振り上げつつ、スキル『縦斬り』の構えを取る。
「またか…………」
もしかして、この世界の兵士は『縦斬り』と『横斬り』しか知らないのだろうか────?
既視感バリバリの光景だったが、そんなことを知らない兵士はそのまま予想通りに剣を振る。
当然の如く、恭司はスルリと躱した。
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