第20話       イシカワ⑲

「んじゃあ……あたしからチュリーにキスするよ」


 可愛絆(ビッチ)は火照った表情で俺を見つめる。なんかエロい……その上目遣いがとてつもなくエロい。


 ──ゴクン!


 と、生唾を飲み込む音が耳に届いた。俺のではなく、速皮喩我無(豆タンク)のだが。つか、またコイツスマホで撮影するつもりか? なんかハァハァ言ってやがるし。全く……絶対に後で送信させてやっからな。


 俺は視線を可愛絆(ビッチ)の唇に移動させた。艶やかでポッテリしたその唇は、とても瑞々しく、まるで熟れた果実のように……あぁ──────! そんなテンプレ表現なんてどうでもいい! プルンプルンやん! プルンプルン、プルンプ、ルンプですやん! ヤベー……もう噛みつきたいわ~。むしろ食したいわ~。突然変異でカニバリズムが芽生えそうだわ。


「チュリー、する……よ?」


「……う、うん」


 エロ! 言い方エッロ!


 ゆっくりと接近してくる可愛絆(ビッチ)の唇。うわぁああ──────! 緊張で奥歯噛み砕きそう!


 ……ダメだ。落ち着け俺。たかがキスじゃねーかハハハ。しかも相手は二十歳のガキだぞ? ビビってんじゃねーよ大作。これは酒の席の余興……単なるゲームだ。ここから何かが生まれる訳じゃない。唯一、得られるモノは、未知の感触だけ……いや充分! その感触さえ味わえれば今後3ヶ月はオカズ確定!


 眼前に迫りくる可愛絆(ビッチ)の唇が、俺の唇にもうすぐ着岸する──これはあれか? 目を閉じた方がいいのか? でも恋人同士のキスじゃないし、閉じたら何か変か? どうする? どうする? どぉするぅ? あー、もう訳わか──


「チュリー、目……瞑ってよ」


 はい! 瞑ります! いくらでも瞑りますっ! ご希望とあらば目を潰します!


 俺はソッコーで目を瞑った。その直後、柔らかい物体が俺の唇を優しく覆った──


 んん……くふぅ……か……い、か……ん。


 苦あれば楽あり──


 先人達が言っていた事に間違いはない。ま、俺の場合は『楽ばかりで餓死』だが。


 ──ファーストキス。


 言い伝えによると、それはまるで苺のように甘酸っぱいという。現時点では、緊張の余り息を止めているので、香りも味もわからない。唯一わかるのは、可愛絆ビッチの柔らかな唇の感触だけだ。


 5秒は経過しただろうか? 小鳥キス程度かと思いきやの、結構長めのキス。ならば、香りと味も堪能させてもらおうじゃないか。ストロベリーキッスとやらの味をっ!


 俺は呼吸の一時停止を解除した────


 ん……んん、んん?


 ……くさぁ。


 くっさ! 何これくっさ!! は? はぁ──────!


 生臭い。衝撃的に生臭い。えづきそうなくらい生臭い。いやいやいやいやいやいやいや! ちょっと何でお前こんなに臭い訳!?


 まるで海水浴後の海パンを、鼻に押し付けられているような臭さに、俺は悶絶した。え? 刺身と海藻サラダ食いまくってたから? でもこれは口臭なんてレベルの臭いじゃねーぞ!


 俺は真相を確認すべく目をそっと開けた。そこには可愛絆ビッチの顔はなく、あったのは『魚』の顔だった。


「あははは! どぉ? ユガムッチ。ユリユリ展開を期待してたみたいだけど、残念でしたぁ!べぇ~」


「……まさか、活け造りのブリを女王たまに献上するとは…………アリであります!」


「やるではないか!可愛の! 『滝本×魚』という、レアなコラボが見えて我は満足だぞ!」


 ……おいコラてめーら。アリ? レア?


 ふっ! ざけんじゃねーぞ! 散々期待させられて、何で魚とキスしなきゃならねーんだよクソが!


「チュリーとあたしが腐女子だってわかってるでしょ? 百合に興味はないってーの。ね、チュリー」


「……う、うぅん」


 ね、チュリー。


 じゃねーわ! 興味あるわ! お前の唇、奪いたいわ! 興味ねーのはBLだ!


「では、宴もたけなわ。そろそろお開きにするでありますか」


 は?


 ……マジか?


 これで終わり?


 ちょっと待てや──────! ムラムラが止まらねーし、このままお開きなんて冗談じゃねーっての! 続行だ……続行以外の選択肢は……………ないっ!




<続く>


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