第15話       イシカワ⑭

「ううう……本当に、本当に無事でよかったぞ、滝本の。オレはお前が交通事故に遭遇し、意識不明の一報を聞いた時、どうなる事かと…………だから、こうしてお前と酒を酌み交わせられる事を心の底から感謝しているのだ………ううう」


 ……はぁ。


 酒が入ってからというもの、緒方力也(筋肉バカ)はずっとこの調子で涙ながらに滝本移への想いを語る。まぁ、コイツが滝本移を好きな事は充分過ぎる程伝わったが、お前の大好きな移たんは、今頃異世界で大賢者なのよね。今、お前の目の前に居るのは、移たんの皮を被ったおっさんなんで、もう無理ポっす。


 一方──


「ハァ……ハァ。いいですぞ可愛氏、滝本氏、愛妻氏。この奇跡の3ショットを眺めながら大好きなカルアミルクを頂ける幸せ……絶頂の極みでありますっ!」


 と、無駄に二酸化炭素を排出しながら、延々とスマホで動画撮影していやがる。おいおい……お前その動画をオカズにするつもりじゃねーだろうな?


 ま、当然撮影した動画は俺のスマホへ送信させるが、一体コイツらどういう関係性なんだ?


 とりあえずデータ見とくか。




 ピロン♪




【この四人は、大学の非公式サークル『滝本移を愛でる会』通称チュリチュリ会に所属するメンバー。発起人は、大学入学時、滝本移に一目惚れした速皮喩我無。このサークルが活動を行う際にかかる経費を全て賄う、チュリチュリ会のスポンサー兼部長】




 ……は? てゆーことは、この飲み会も速皮喩我無(豆タンク)が出すって事か? おいおい、コイツ一体何者だよ?


 俺は速皮喩我無(豆タンク)に関する詳細データを呼び出した。




 ピロン♪




【速皮喩我無に関する詳細パート1。小学生の頃から神童と呼ばれる頭脳を持ち、そのIQは170とも言われる。常に成績はトップで、東大進学率全国ナンバーワンの海星高校で三年間主席に君臨、東大も主席入学100%と周囲から期待されていたが、東大受験を拒否し、現在の大学へ進学する。東大受験を拒否した理由は本人曰く『家から遠い』との事】




 ……は? え? 何コイツの高スペック。単なるキモヲタ童貞(俺もだけど)豆タンクじゃなかったのかよ。


 俄然興味が沸いた俺は続けてデータを呼び出した。




 ピロン♪




【速皮喩我無に関する詳細パート2。高校時代、暇潰しに制作した動画投稿アプリ『EssaHoisaエッサホイサ』のコンセプトプログラミングデータを、PC仲間に送信しようとした所、誤って中国のIT企業に送信。後日、IT企業から、『データを買い取りたい』と、連絡を受けたので、1000万ドルで売却。そのアプリは現在『TikTok』と名称を変更し、世界中で人気を博している】




 お……おいおいおいおいおい! はぁ!?


 驚愕する俺は更にデータを呼び出した。




 ピロン♪




【速皮喩我無に関する詳細パート3。アプリ売却で得た収入の半分を両親に譲渡し、現在両親はデイトレーダーとして成功を納めた。彼本人も、その頭脳と財力を嗅ぎ付けた芸能人、CA、レースクイーン等のハイクラスセレブ女性複数人と関係を持つが、『自分の本質を見てくれない』との理由で関係性を解消。後に『若気の至りだった。猛省している』と、己を戒める。その時期にコミケで偶々出会った滝本移に、『おなかタプタプ~可愛い~♪』と下腹部を揺さぶられた事で、一目惚れし、現在に至る】




 うおおおぉぉお─────────い!


 ……マジか。コイツ、こんなナリで童貞じゃないどころか、遊びまくってたっつーのか!?


 疾風怒濤のギャップに驚嘆し、アルコールが一気に飛んだ。




<続く>

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