第6話       イシカワ ⑤ 


俺は滝本移の部屋に入室した。


 ほほほぅ………


 オートロック付きで十畳ほどのリビングに、六畳の洋室。更にウォークインクローゼットもあるし、勿論風呂とトイレも完備されている。


 普段からキチンと片付けをしている様子で、ゴミ一つなく、微かにアロマディフューザーのいい香りが漂う。そして、奥の部屋はヲタ部屋らしく、アニメグッズやコスプレの衣装がところ狭しと陳列されている。


「……ふ~ん」


 俺は近くにあった猫耳カチューシャを手に取り、頭に装着してみた。そして、壁面に取りつけられている全身鏡の前に立ち──


「にゃおん♪」


「うにゃん♪」


「にゃにゃにゃにゃあ~ん♪」


 と、両手を丸めて招き猫ポーズを炸裂させてみた。




「……カ、カワイすぎる」




 萌える──果てしなく萌える。とろけそうなくらいのカワイさだ。このポージングを元の俺の姿でやったとしたら、猛烈な吐き気に見舞われる事だろう。


 視覚データによれば、滝本移の両親は都内に複数のビルやマンションを所有していて、その家賃収入で得ている不労所得は半端ない金額だった。このマンションも両親の物件らしい。


 つまり、コイツは結構なお嬢様ってわけだ。そりゃあこんな趣味全開贅沢三昧の大学生活を送れるわな……


 そんな嫉妬心が沸き上がってきたが、まぁいい。何せその環境に俺は転生したのだ。


 優越感に浸りながら、生まれて初めて入った女子の部屋を一通り物色……いや、確認した所で俺は一息つこうと、リビングに備え付けられているダイニングテーブルに座った。


「ふぅ……ん? 何だコレ」


 テーブルの中央に赤いリボンで装飾された、いかにも『プレゼントっす』的な箱が置いてある。入った時、こんな箱あったか? という疑問を抱きつつも、大体の推測がついている俺は、何の躊躇もなくリボンをほどいて、中身を確認した。


「これは、ロボット……なのか?」


 箱の中には、小型のロボットらしき物体が一体入っていた。その外観は、かの有名な『スタ○ウォーズ』のR2○○に酷似している(というかほぼ丸パクり)。造形はあまり精巧ではなく、むしろ雑。一昔前に中国のアミューズメントパークを闊歩していた偽ミッキ○マウスを彷彿させる。


 俺は同梱されている説明書を開いた。




『ロボピーの頭を押すと、いい事があるかも……』




 とだけ記載されていた。


「……怪しすぎる。まさか、これが転生記念のプレゼントってやつか?」


 まぁいい。とりあえず俺は何の躊躇もなくロボピーとやらの頭を押してみた。




 ピロロ……ピロロロロロ……ピロ、ピロ、ピロ、ピロッピロッピー♪




 ロボピーから妙なメロディの機械音が奏でられると、前面のレンズが赤く発光した。


 直後──




 ティントン♪




 メールの受信音が鳴った。


「……は?」


 俺はスマホを取り出し、メールフォルダを開いた。




【転生おめでとうございます。お届けしたプレゼントは、一日一回、異能クジが引ける、異能クジ専用ガチャガチャ『ロボピー』です。引いた異能はスマホのアプリに送信されますので、ダウンロードしてご使用ください】




 は? 異能ガチャ?


 俺はスマホをいじり、ホーム画面に【異】というロゴのショートカットが貼り付けられている事に気付いた。


「……これか」


 アプリを起動させると、『異能フォルダ』が表示された。そのリストには、【異能:豚カツ】と書かれている。


「は? 豚カツ?」


 俺は【詳細】をクリックした。




【この異能を使用すると、八時間以内に豚カツが食べられます。※時間と場所は指定出来ません】




 おいおいおい。これは異能と呼べるのか? てゆーか、スマホを使って異能をダウンロードするなら、ガチャ自体アプリでよくね? わざわざ変なロボット使わなくてよくね?


 まぁいい。俺はとりあえず【異能:豚カツ】をクリックし、ダウンロードした。これで八時間以内に豚カツが食えれば異能だと証明が出来る。


 が──しかし、今日の夕飯は退院祝いとして、食おうと決めていたモノがあるのだ。




<続く>

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