第8話
航空竜巣母艦レンオアム・リントの
作戦行動中であるから、航空配置より人が多いのは当然ではあるのだが、『
どこか落ち着きがないことにも理由がある。
皇国軍は両用作戦を行ったことがほとんどなく、その研究も大して熱心ではなかった(大隊規模の実験団が細々と行っているだけだった)。
さらに言えば東部方面全域を自由にかつ高速で移動できる場所に司令部があったほうが作戦全体にとって都合がいいからとは言え、こちらも実験部隊にすぎない航空艦隊司令部が陸海の部隊まで指揮することなど、平時には演習でもありえなかっただろう。
マッケンナは、皇国東部が描かれたボードに次々書き込まれていく情報を睨むような表情で眺めていた。
敵の戦闘艦艇はすべて撃沈。高射砲は想定されていた約半数を撃破。
敵も皇国軍に揚陸作戦の力がほとんどないことを知っているのだから備えは少ないはずだ、という想定がこの作戦の根底にはあった。
今のところはその想定は正しいようだ。
偵察である程度の裏付けを取っていたとはいえ、不安がぬぐえなかったのだ。
とりあえず制空権は確保したとみていい。だが───
「敵の竜騎兵が姿をみせないことが気になるか」
いつの間にか傍に寄ってきていたイアン・アンダーソン司令がマッケンナが見ているものに視線を据えながら言った。
「ハッ……」マッケンナは頭を掻くようにしながら口を開く。
「敵さんにとっては間違いなく重要拠点ですからね。本格的な竜襲は想定していなかったかもしれませんが、我々が嫌がらせもしないと思うほど暢気な連中ではないでしょう」
アンダーソンは頷いた。
「わかるが、あそこで(彼は地図上のズィーシを指した)飛んでいる連中に気を付けるように言う程度のことしかできん。この後が本番なのだ。そちらに集中してくれ」
たしかにそうだった。彼はこれから次の段階に移る作戦の統制しなければいけないのであった。それもおそらく史上初となるであろう作戦の。
ブラスはすぐに危険を及ぼす脅威がないと判断すると、エイムをその場で羽ばたかせた。周囲を見回して戦況を確認する。
ズィーシ上空。雲量はそれほでもない。視界はいい。
敵竜はいない。内心で自分を罵倒する。当たり前だ。だからこんな悠長なことができているのだ。
残っている部下は8騎。1騎が高射砲の直撃で撃墜され、残りは機銃や高射砲弾の破片で竜や騎兵が負傷したため後退させた。すべて巡洋艦への襲撃の際に発生した損害だった。
たまらないな。導探射撃じゃないのにこれほど損害が出るとは。敵艦は導探に統制された射撃装置を積んでいない旧式艦だった。
ビトンは?3騎墜とされて3騎が負傷して帰投した。残っているのは6騎。墜とされた中にはリーダーも含まれている。部下の攻撃を成功させるため、陽動を行った際に撃墜されたのだった。
懐中時計を懐から取り出して時間を確認する。それは首都にいる妹が贈ってくれたものだった。彼が少尉に任官し、竜騎兵となった時に送られたものだった。お兄様、おめでとう。
エイムが心配そうにこちらを見ていることに気が付く。
脳裏に浮かんだ妹の影を無理やり締め出しながらエイムを撫でた。
時計はもうすぐ第二派と『配達便』が到着する時間が迫っていることを教えていた。
そうなれば第二派に引き継いて一旦、母艦に戻って……。
その時、彼がそれに気が付けたのは完全に偶然だった。とりとめもないことを考えながらも、常に周囲を確認する竜騎兵の性質が招き寄せた幸運だったのかもしれない。
ブラスはエイムに回避機動を行わせながら、部隊に警告を伝えようとした。
『回避!回避!敵竜が下から……』
敵は彼が言い終わるのを待たなかった。
下方から伸びた
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