第7話
陽の光がうっすらと世界を照らし、波がしぶきを上げる。
遠くにはうっすらと天に向かって聳え立つ山々が見える。
風は北西から吹いているが強くはない。
今日は誰にとってもいい一日となるに違いない、そう思わせるような情景だった。
だけどそんなことはないよな、とブラスは思った。
彼は軍人で、作戦行動中だった。
ブラス・トルタ皇国軍大尉にとっていい日となるなら、少なくとも敵……王国軍人にとっては最悪な一日になるはずだった。
彼は、敵の拠点となった港町であるズィーシに奇襲攻撃を仕掛ける24騎のうち半数を率いている中隊長なのだった。
彼と彼の部下の任務は、港湾にいるであろう敵艦艇の殲滅と制空権の確保だった。
(残りは、高射砲等の対空施設の制圧だった)
彼は後続の竜騎兵たちに合図を送った。
竜たちは騎兵たちの意志を受け、高度を下げる。
隣を進んでいるもう一隊も同様の行動をとる。
竜の腹に波しぶきがかかりそうなほど低い。
この時代の長距離で敵を探知する手段として最先端であったのが(魔)導波を探知する導波探知機だった。
導波探知機(略称は導探だった)は、竜や人が出す波を拾う
一般的に探知距離が大きいのは後者となる。竜や人は波を出さないように進化してきた(そのほうが捕食者や捕食対象に発見されにくく生存するに都合がよかった)のだから当然と言っていい。
王国軍がズィーシにほど近い丘の上に据え付けたのも能動型だった。
能動型導波探知機に捕捉されるのを避けるには、二つしかない。
(探知機から見て)水平線や地平線の下に隠れるか、他のなにかに紛れるかだ。
海上の場合、導波が波に反射する内に紛れることができる。
今のところそれは上手くいっているらしい。王国軍に反応はない。
それから10分も飛行すると、町のデティールまで見分けられるようになってきた。
何を思ったのか王国海軍の駆逐艦が進路上を横切った。
これ以上は、発見されないで進むことは不可能だろう。
もう一隊を率いている指揮官と手振りでどちらが目の前の駆逐艦をやるかを僅かの間押し付け合っている間(もちろん部下には見えないようにしながらだ)に駆逐艦の動きが変わった。発見されたのだ。
ため息を半秒だけつくとブラスは喉頭に装着していたマイクのスイッチを押した。
『ビトン。ロイストリーダー。こっちがやる』
ビトンは隣の隊の指揮官のコールサイン。ロイストはブラスのコールサインだった。
航空竜兵艦隊……第2竜騎兵連隊では、編隊長のコールサインが隊のそれとなり、指揮官は後ろにリーダーが付く。他の騎兵は腕前順(階級順ではなく)にナンバーが振られる習わしだった。
(ちなみにビトンもロイストも皇国の地名だ)
『ロイスト。さっさと他のも沈めてこっちを手伝ってくれよ?』
『こっちのセリフだビトン。配達便が来る時間まで間がないぞ。早くいけよ』
『ならまずは目の前のやつをやってくれ』
『わかったよ。交信終わり』
『ロイスト、ロイスト。ロイストリーダー。あれはリーダーだけでやる』
ブラスは、通信を中隊内に切り替え、命じた。
『以後、各小隊に別れて潰して回れ。相手に態勢を整えさせるな』
そう言うとブラスは通信を切り、乗竜を加速させた。
乗竜……エイムは機嫌良さげに一声上げるとこちらに側面を向けている駆逐艦に、突っ込んでいく。
その背後では、竜騎兵が4騎ずつにわかれて一隊が左にもう一隊が右にと飛び去って行く。
残った3騎はやや距離を置いてブラスに続く。
駆逐艦から赤い線が伸び始める。対空機銃の射撃だった。如何に魔導防壁があるとはいえ、数連射喰らえば翼竜は耐え切れない。
だがブラスはそれを無視するように接近し、一定距離まで迫るとエイムに許可を与えた。
エイムは喜悦の咆哮を上げるように、
そしてそのまま、駆逐艦上空を
その一瞬後、駆逐艦は二つに折れ、急速に海中に姿を消していった。
開戦以来初めての皇国軍の反撃、限定反攻『
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