第4話
ブラスが率いる偵察小隊は母艦に帰投した。
彼らの母艦【レンオアム・リント】は通常の竜巣母艦と違い水の上に浮かんでいるわけではない。文字通り宙に浮いている。飛行船なのだ。
世界唯一の航空竜巣母艦である【レンオアム・リント】は、奇怪と言っていい見た目をしていた。通常の飛行船のような細長い植物の種を思わせる形ではなく、おとぎ話に出てくる空飛ぶ絨毯を彷彿とさせる平たい形状をしている。
二隻の大型飛行船の間に、板を張ることで艦内容積を増した双胴船なのだった。
着艦すると竜飼育兵にエイムを預ける。その際、甘えるように顔を押し付けてくるエイムの顎の下を撫でてやる。エイムの別れる前のいつもの癖だった。
苦笑する飼育兵に手綱を渡す。
そうしていると髪を短く刈り上げた引き締まった体躯の男が近づいてきた。ジョージ・ヴァン・マッケンナ大佐。ブラスの所属する独立第2竜騎兵連隊の指揮官であり、【レンオアム・リント】が旗艦を務める第1航空竜兵艦隊の竜騎参謀でもあった。
第2竜騎兵連隊は、大隊がなく連隊司令部が直に中隊を指揮する編制だったし、竜騎兵部隊の常で中隊の枠組みは有名無実になっていた(出撃する僚騎は所属中隊に関係なく決められる。竜の調子が出撃可否に最も影響するため、戦力の割り振りを中隊単位で行うことができない)から、ブラスにとっては直接の上官ということになる。
敬礼するブラスに、マッケンナは答礼を返した。
「トルタ大尉か。大戦果だったな」
「ハッ」
「なにせ、偵察飛行中の小隊4騎で装甲大隊を叩き返したんだ。立派だよな、うん」
「……申し訳ありません。偵察任務を途中で放棄しました。」
顰め面を作っていたマッケンナは破顔した。
「そんなに不服そうにするな。冗談だ、冗談。よくやったよ。あそこを抜かれたら味方の師団の退路が断たれていた」
そういうとトルタの背中をばすばす叩く。
「……どうも」
マッケンナに背中を叩かれるままブラスは、この人は、こういう所がなければなぁと思っていた。
「さて、明日も飛んでもらうことになるだろう。ジェームズの言うことをよく聞くんだぞ」
ジェームズは第2連隊の首席幕僚でマッケンナが不在の場合は指揮を代行する。
ブラスは頷くと
「まるで初等学校の教諭ですね。どちらに?」
「東部方面軍の会合さ。艦隊司令は行きたがらないからな」
第1航空艦隊は、陸海両軍の人員で構成されている軍令本部直轄の特殊な部隊だ。そして司令官イアン・アンダーソン中将は、海軍出身の将官だった。
海軍将官が陸軍の会合になど望んで出たがるはずもない、そういうことだった。
大型翼竜に運ばせることで人員輸送に使用される『竜篭』にマッケンナが歩いていくのをブラスは敬礼をして見送った。
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