神様のご褒美が!

「……は? 私も、ですか?」

 

「うん。初めてサラも紹介するし、私が伯爵と話してたりする時にサラを野放し……独りぼっちにさせる訳には行かないだろう? エレンは休みの日だし、マリリンたちは体力的に辛いだろうし」

 

 

 ご主人様が侯爵を継いだ時に、さりげなく嫌みを言われたり陰口を叩かれた事も多かったと以前聞いていた。

 

 勿論、地位的には公爵に次ぐ高位であり、ご先祖様の代々の戦での活躍や宰相の補佐をしていた父親など、王宮での覚えもめでたい為、表だっての嫌がらせなどはやらない。

 

 自分たちの首を締めるだけ、というのは分かっているようだが、水面下で評価を落とすような噂話を広めたりするような姑息な手段は用いられていたようだ。

 

 

 曰く、女ぐせが悪く金にモノを言わせて婚約者のいる女を寝取った。

 

 曰く、領地の民から袖の下を受け取って、税率を有利になるように計らっている。

 だからその金であんなに太ったのだ。

 

 曰く、虎視眈々と父親のように宰相の下で働いて権力を持とうと画策中である、等々。

 

 

「女ぐせがどうとか言われても、この体型じゃあね。

 全くモテないし、人の幸せぶち壊すなんて酷い真似は出来ないよねえ。自分も相手も不幸だよ。

 それにさ、袖の下なんか貰わなくても民の為には便宜は図るだろう? 私の領地の民だよ?

 王宮の補佐の仕事も確かに誘われはしたけど、領地見回ったり橋や道路の修復したりで忙しいし、手一杯だよ。父上も私にちょこちょこ仕事の代行をさせられるようになったから王宮に上がるようになったんだし」

 

 ダイエットの関係で食事のお世話もサラ様同様に見ている為に、ご主人様と世間話や個人的な話をする機会も増えた。

 

 話せば話すほど素晴らしい方である。

 侯爵として決して傲らず、領地の為、民の為に飛び回っているご主人様には尊敬する。

 

 だがあれだけ飛び回っているのに何故ここまで肉がついたのかは謎だが、きっと民に慕われるように脂肪にも慕われたのだろう。

 

 

 まあそんなメンタルが弱々になっていた時に、唯一当初から味方になって色々と教えてくれたり、噂の火種を消したりしてくれたのが、今回のパーティーの主役のオーランド伯爵のようだ。

 大切なご主人様を救って下さった方だ。

 日々の感謝と幸福を祈ろう。なむなむなむ。

 

 

 子供がおらず、ご主人様を息子のように可愛がってくれているそうで、夫婦ともに温和で初夏のひなたの芝生のような温かく気持ちのいい方々だそうだ。

 

 ……慕ってる方を、足で踏んづける芝生に例えるのはどうなんだろうか、とシシリアは思いますよ。

 トークセンスはないと言っておられましたが確かに要改善ですね。

 

 多分、ご主人様自身がそういう芝生に寝転んで昼寝でもするのが好きなのだろうけど、例えが微妙である。

 

 でもそんな事思ってもないんだろうなー本人は、と思うとそれも可愛らしい。

 

 

 だがそれと私が付き添うのは別問題だ。

 

 平民になり、前世も思い出した身では、もう貴族のパーティーなどは肩が凝って気分が滅入る。

 

 それもメイド服でなく貴族の子女のように、昼間のガーデンパーティーに着るような、動きやすく少しコジャレたワンピースにして欲しいなどと言う。

 

 サラ様が会場でチョコレートを見つけた時など、発作を押さえるのはメイド服の方が楽なのだが。

 

「それはまた何故でしょうか?」

 

「うん、オーランド夫婦はとてもいい人なのだけどね、エステル夫人が、何というかその、いつまでも独り身の私を心配して、すぐに令嬢を紹介したがるんだよ。

 だから……」

 

 おーなるほど。仲人おばさんみたいな方なのですね。

 

「私を貴族令嬢として連れていけば、勝手に恋人か何かと勘違いしてくれるだろう、と?」

 

「シシリアにはこんな私の相手役をさせてしまって申し訳ないんだけど、頼める人が他にいなくて」

 

 

 申し訳ない、というかむしろ役得なのですが。

 タダで腕とか組めたりしちゃうのかしら。

 あのむちむちの二の腕に手を回せる?

 やだーもー。鼻血出そう。

 

 我が桃源郷ここにあり。

 私の天竺はここです三蔵法師様。

 

 脳の中でマラカスを鳴らしてチョビヒゲのメキシカンダンサーが踊りまくっているけれども、ここは耐えるのよシシリア。

 

「……私などで良ければ喜んで。以前作ったワンピースを何着か持っておりますので、それでよろしいでしょうか?」

 

「ありがとうシシリア! 本当に助かるよ。

 新しいのを作って上げたいんだけど、もう日がないから間に合わないだろう?

 お礼として後日改めてにさせてくれないか」

 

 

 メイドにオートクチュールでも作るおつもりですか。

 アンビリーバボーなのは食べっぷりだけで十分です、ご主人様。既製服でも勿体ないです。

 

「いえ、私も久しぶりに手持ちの服に手を通す機会に恵まれて嬉しいので、お礼などは必要ございません。

 こちらこそありがとうございます」

 

 

 頭を下げて、ふと視界に捉えたサラ様を見ると、小枝を使って砂場に倒れたような人型の線を書いており、上に伸ばした腕のラインの先に、「チョ、コ……」と書いていた。

 

 ダイイングメッセージか。

 また小芝居でもやるための事前チェックなのか。

 

 

 ご主人様も、私の視線を追い、サラ様の作業を見た。

 また視線を私に戻す。

 

 

「……サラ様についてもお任せ下さいませ」

 

「……うん。頼むねシシリア」

 

 

 

 

 3日後、伯爵家を事件現場にされないためにサラ様にはクランチチョコを特別に与え、発作を抑えた状態で、私はご主人様たちとオーランド伯爵家に向かう馬車へ乗り込んだ。

 


 

 

 

 

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る