私の決意
【ロイ視点】
夕食からダイエットが始まるのか……。
私は少し溜め息をついた。
いや、約束したからには当然やるのだが、私が毎日領地管理の仕事を頑張っているのは、ひとえにハーマンが作る美味しい食事の為と言っても過言ではない。
領地の管理は時には揉め事もあったり辛い事もある。ハーマンの料理で精神的な疲労を癒していたのだ。
まあ、お陰様でみるみる太ってしまったのだが。
この体型のせいか、もうとっくに結婚していてもおかしくない年なのに、家には縁談の話ひとつ来ない。
どうせ痩せていた所で、気の強そうな女性は苦手だし、そもそも女性には縁のない生活を送っていたせいで、上手い話1つ出来ない。
家で本でも読んでいる方が心が落ち着く。
それに香水がぷんぷんしていて化粧が濃い女性は、臭いで頭痛がするので遠慮したい。
確かに痩せた方が健康にもいい。
それは分かっているのだ。
だが、痩せた所で私のような特に取り柄がある訳でもない男が……という諦めのような気持ちもあって、そのままズルズルと来ていたのだ。
シシリアは痩せたらとても格好良くなられますわ!と言っていたが、とてもそうは思えない。
夕食前に、書斎にシシリアがやって来て、これにサインを頂きたいと封筒から出した折り畳んだ便箋を渡してきた。
中を改めると【ダイエットに伴う許可書】とあり、要約すると、
「ダイエットに関する事で、私の発言が行き過ぎる場合があるかも知れないが、あくまでも熱意の現れであるため、どうかご容赦頂きたい。
そうでないと仕えている立場上、どうしても遠慮が先に立ってしまうし、サラ様のようにきちんと成果が出せる自信がないからである」
……という事のようだ。言わばダイエット関係の注意や発言などは無礼講でお願いしたいという事らしい。
確かに使用人としては言いにくい事もあるだろう。
シシリアに怪我をさせてしまった張本人である私には、そんな偉そうな事を言うつもりはないのだが、書面としてあった方が安心するというのであればサインをする位どうと言うこともない。
「……と。はい、これでいいかい?」
私はシシリアに日付とサインをして返した。
シシリアは恭しく受け取ると、また封筒にしまい頭を下げた。
「これから、私とハーマンとの協力体制で、月平均で2キロほどのペースでダイエットを行いたいと考えております。減り方は人によって違いますので、大体1年で20キロ目安ですわ。
ご主人様の健康を考えつつも、余りに急に落とすのはかえって体に良くないからでございます」
──ん? 月2キロでいいのか?
思ったより楽そうなので、内心でホッとする自分が情けない。
「そして、大変申し訳ないのですが、どうしても外食しなくてはならない場合以外は、屋敷で食事を取って頂きたいのです。カロリー計算がやりづらくなります」
「もっともだね。まあ仕事での会食などは許して欲しいと思うけど」
「それと、外食の際には出来るだけ食べた物を控えておいて頂きたいのです。メモ程度で構いません。
ご主人様はお仕事で何日も不在になる事もございますので、どのような食事をされているか、というのも把握する必要があるのです」
「分かったよ。約束したからにはキチンと取り組むから安心して欲しい」
「ありがとうございます。
では、ご主人様の3年計画終了まで何卒よろしくお願いいたします! 必ずやご期待に報いますわ!」
「ん? ああ。無理はせずにね」
元気良く頭を下げたシシリアは、カコカコとギプスを鳴らしながら出ていったが、私は少し考えて、
「……え? 3年……?」
と呟いた。
年20キロ目標ならば、3年で60キロ。
まあそんなに綺麗に予測通り出来るか分からないが、シシリアは50キロから60キロ位のダイエットを考えているようだ。
私の体重は、先日シシリアに聞かれた時に、少し恥ずかしくてサバを読んで124キロと申告してしまったが、実際には134キロある。
50キロ減っても84キロか。
身長から計算しても、痩せてはいないがまあデブでもないという辺りだろう。
3年計画と聞いた時点で、好きな物が食べられない期間を思い、ほんの少し気が遠くなった。
だが、折角シシリアたちが負担をかけないようにと月2キロのペースにしてくれたのだ。
やるしかない。
シシリアの足が骨折していた時ほど血の気が引いた事はない。もし、下手に私が足首以外に体重をかけていたら、シシリアは背骨や肋骨などが折れて死んでいたかも知れないのだ。
もうあんな恐ろしい思いは沢山である。
理由をつけて今まで自分を甘やかしていたが、人殺しと成りうる凶器のような体であったと気づいてしまったのだから、痩せてモテようがモテまいが関係ない。
痩せてみせようとも。
これからも体重は計るし聞かれるだろうが、常にマイナス10キロで計算して報告するのを忘れないようにしなくては。
私は心のメモに書き加えた。
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