ハンバーグは罪深い

 サラ様のヘルシーダイエット生活も2ヶ月を過ぎた。

 

 

 思った以上の貪欲さで好きなおやつを得ようとするサラ様の、土壇場での粘り強さに予想外の負けを喫する事もあり、停滞状態が続く事もあったが、現在6キロの減量に成功している。

 

 あと3週間でどの位絞れるかは未知数だが、まずは大成功の部類と言っていい。

 

 お風呂でマメにチェックしているが、流石に伸び盛りの伸縮性のある子供の皮膚である。急なダイエットによる皮膚のシワも見当たらず、特に体が痒いとか下痢をする、湿疹が出るなどのアレルギー症状も出ていない。

 

 アレルギー症状が出て死ぬ人もいるので、これが一番心配だったが、サラ様の場合は問題なさそうだ。

 

 そして体調不良になる事も明らかに少なくなった。

 

 1度だけ熱が出た日もあったが、軽い風邪だったようで、1日寝ただけですんなり下がった。

 

 流石に私も鬼ではないので、その時は果物のシロップ漬けなどを与えたりしたが、努力の甲斐があり胃が小さくなったようで、前ほどの限界突破な食べっぷりはしなくなった。限界ギリギリではあったけれど。

 

 だが、何故か翌日には0.5キロも増えていた。

 

 何で減らすのはこんなに大変なのに、戻るのはあっという間なのかしら、と少し気が遠くなった。

 

 

 

 本当なら月に2キロ位を目安にしていたのだが、思った以上の成果が出たのは、サラ様の努力もある。

 

 子供の小さな体で3キロも減れば、大人の感覚では5キロ以上減ったようなものだ。

 明らかに自分でも体が軽くなったというのが分かるのだろう。おやつの戦いだけではなく、自らマメに体操をしたり、一緒に敷地内の森の散策をしたりというのも積極的に行うようになった。

 

 ……まあ後半は疲れておんぶをせがまれるのだが。

 

 しかし以前より6キロ違うと言うのはかなりの差だ。

 5キロの米袋が無くなったようなもので、私の腰と腕の負担も確実に減っている。

 まだ私の筋肉は減らないのだけど。

 

 

 

 

 そして、本日はサラ様の誕生日である。

 

 

 この国では貴族というのは同じ年頃のご友人、というか友人そのものが社交界に出てからでないと作りにくい。ハーマンの息子ハリーのように学校には行かないからだ。なので、サラ様も当然ながらご友人はゼロだ。

 

 そのため子供の時の誕生日パーティーというのも、精々外食か身内からプレゼントを貰う程度である。

 

 貴族は学校には通わず、社交界デビューまでに男女ともに屋敷の中で自分を磨くのが基本。

 

 最近はサラ様にも週に2回家庭教師が付くようになった。近所に住むエリザベートさんという元学校教師だった60前後のふくよかな未亡人だ。

 

 おおらかな人柄がサラ様にも親しみやすいようで、リズ先生に計算を教えて貰ったとか、綺麗な文字を書く練習をしたとか色々とサラ様が報告してくれる。

 

 

 話はそれたが、グロスロード家での初めての誕生日。

 

 本当ならサラ様の大好きな脂身たっぷりのサーロインステーキやら、生クリームてんこ盛りのショートケーキ、チョコレートムースなどを好きなだけ食べて頂きたいところではあるが、まだ2ヶ月ちょっとのダイエット生活である。

 

 油断すると、すぐ以前の高脂質でハイカロリーの生活に逆戻りだ。2ヶ月かけて落とした肉も、以前のペースで食べていたら多分1ヶ月もしない内に戻る。

 私の気力がかなり落ちるのは間違いない。

 

 

 だが、祝う気持ちは伝えたい。

 

 となると、サラ様が喜ぶ食事は何よりお肉だ。

 そしてスイーツ。

 

 スイーツは、小さくスクエアカットにしたスポンジケーキにオレンジリキュールを塗り、スライスしたイチゴと生クリームをふんだんに真ん中に挟んで周りをチョコレートクリームで覆い、細かく砕いたアーモンドをまぶした特別のケーキを涙を飲んで用意した。

 誕生日位は好きなものがあってもいい。

 

 だが、全部をハイカロリーにする訳にはいかない。

 

 

 

 ……夕食はハンバーグだわね。

 

 

 私は頷いた。

 

 

 ステーキは肉そのものがドーンと出るので誤魔化しようがない。ヒレなどの赤身ならばとも考えたが、脂身が少ないし固いのでサラ様は嫌がるとハーマンは言っていたので却下だ。

 

 その点ハンバーグなら加工し放題だ。

 

 牛の赤身40%、鳥のむね肉20%、豆腐40%。

 誕生日だから肉も大サービスだが、高タンパクのむね肉を入れる事でカロリーをおさえつつもボリューム感と肉テイストを高める。

 

 肉は挽き肉にして水気を切った豆腐は繋ぎ。更に炒めた玉ねぎも加えて混ぜ合わせ、味をつけて丸めて小さな小判型にする。

 

 大きいものを1つ作るより、小さなハンバーグを沢山作った方が一杯あるような気がして、サラ様には嬉しいのではないかと思ったからだ。

 

 そしてニンジンを甘く煮たグラッセを作る。

 

 普段なら絶対に食べないであろう見た目を隠さないニンジンも、今回は是非とも召し上がって頂こう。

 

 

 ハンバーグには最終兵器が存在するのだ。

 

 わは、わはははは。

 

 

 

 

 

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