ゴージャス&マーベラス!
「サラ様、8歳の誕生日おめでとうございます!」
「みんなありがとー♪」
夕食の際に食堂で使用人全員が集まり、拍手と祝いの言葉を述べた。
……しかし私とエレンとハリー以外は一気に年齢層が上がるわねー。40代のハーマンさんですら若手に見えるし。私たちを加えても平均年齢50代の圧を感じる。
「サラ、おめでとう。
何だかとても可愛らしくなったね」
ぽよぽよと麗しいご主人様も笑顔でサラ様の変化を喜んでいた。
2回りほど小さくなったサラ様は、まだジューシー過ぎるのではあるが、激ぽちゃからぽちゃぽちゃへの進化を遂げているのだ。
お気に入りのピンクの裾にレースがあしらわれたワンピースもゆるゆるになったので、新調したらどうだい、とご主人様が仰ったのだが、サラ様は新しいのはいらないと断った。
「少し細くなったぞーって分かるからこれでいいの。
新しいのはもっと細くなってからにする!」
サラ様がなんて前向き……!!
シシリアは嬉しいです。
でも何故かおやつの時には本気でバトルを挑んでくるんですけどねえ。
先日それを聞いてみると、
「……それはそれこれはこれ」
とかわされた。
【痩せたいでも食べたい】はダイエットする者全てが越えねばならぬ高い山。
ですが大丈夫。ベテランガイド・シシリアが必ずやサラ様を頂上にご案内致しますともさ。
ま、それはまた明日からでいい。
本日は誕生日だものね。
「サラ様、本日はデザートにシシリア特製の【中にイチゴもたっぷりチョコレートケーキ・クラッシュアーモンド添え】をご用意致しました!
本日は戦いはございませんからお楽しみに」
「きゃー、チョコレートケーキ!!」
そーかそーか、目を見開くほど好きか。
分かってたけどね、殆ど与えてなかったし。
だが、それだけではないのだよサラ様。
「そ、し、てー、今夜のメニューは」
私はクローシュをぱかーんと持ち上げた。
「ハンバーグでございます! サラ様お好きですよね?」
「きゃー、お好きよーお好き!」
誕生日ばんざーい、と喜ぶサラ様にホロリとしてしまいそうになる。
現在お皿の上にはこじんまりしたハンバーグにデミグラスソースがかかった、いわゆる普通のハンバーグである。そして横にはコーンのバター炒めに、少し甘く煮たニンジンのグラッセが添えてある。
「早く食べたいわ……まって。そのニンジンはどけて」
お皿をサラ様の前に置いた途端、ニンジンのグラッセに鋭い目を向けた。
「それはいいんですけれど……残念ですわねえ」
私はわざとらしく溜め息をついた。
「誕生日ぐらいワガママ言ってもいいでしょう? ニンジンなんて食べたくないわ」
ナイフとフォークでスタンバイしているサラ様が私を恨めしそうに見つめた。
「いえ、本当に、それで良いのでしょうか?」
「……それはどういういみ? シシリア」
「ハンバーグ……それは単独で主役といってもいい強烈な存在感がございます。……ですが」
「ですが……?」
私はワゴンの下に隠していた1つの皿をクローシュごと持ち上げる。
「主役には必ず最高の引き立て役が存在します。例えば……目玉焼きですとか」
クローシュをぱかーんと開いて目玉焼き乗せハンバーグをチラ見させて直ぐに閉じた。冷めるし。
「っっっ!!」
もう1つある皿も引っ張り出してぱかーん。閉じる。
「チーズ、ですとか」
湯気の立っているハンバーグに乗ってとろけたチーズが鼻孔をくすぐる。
「……チーズ様……このところまったくお目にかかっていなかったチーズ様……目玉焼きも最高よね……」
サラ様、ヨダレを拭きましょうか。
「さあ、何故こちらに目玉焼きハンバーグとチーズハンバーグがあるのか、理由はもうお分かりですね?」
「……ニンジンもぜんぶ食べたらお代わりできる」
「ピンポンピンポンピンポーン♪
あ、勿論、そちら残して頂いてもシシリアは一向に構いません。私の楽しい夕食になりますので」
「なんて、なんて汚い手を……」
「サラ様、こんなハイカロリーな食事を用意したのはひとえに誕生日のお祝いだからですわ。
シシリアは涙を飲んでケーキもご用意致しましたのに、汚いとか仰るなんてひどいではありませんか」
「っ、あり、ありがたいと思ってるわよもちろん!」
「そして、シシリアは強制致しません。
そちらのごく平凡な、主役だけの小ぶりなハンバーグとコーンを食べて終了か、ニンジンを食べてゴージャス&マーベラスな夢のコラボレーションハンバーグをお代わりするか。サラ様がお選び下さいませ」
ニッコリと微笑んだ私は、サラ様にはさぞかし悪魔のように映っているであろう。
まあ全部お代わりされたところで、大きな脂肪分たっぷりの牛肉100%のハンバーグほどのカロリーはないのだけど。
「……るわ」
「え? よく聞こえませんでしたが」
「食べるわよ! 見てなさいよシシリア!」
サラ様はそう叫ぶと、ガシッ、とフォークでグラッセを刺し、口に放り込んだ。
そのままハンバーグを切って口に入れようとして、あれ? と少し首をひねった。
「どうされましたかサラ様?」
「前に食べた時はものすごくマズいと思ったんだけれど……食べられるわ。……おいしいとは思わないけど」
始終だまくらかしてジュースに入れたりスープに混ぜたりしてますからねえ。
体が拒否しなくなったんですかねえ、ほほほ。
「良かったですわね。これで2皿目にはいけそうですわね!」
ハンバーグを改めて食べたサラ様は嬉しそうな顔になり、
「おいしー……ハンバーグってなんてつみぶかい食べ物かしらね。いくらでも食べられそうな気がするわ」
とパクパクとコーンも平らげつつ食べている。
幾らでも食べられては困りますけどもね。
「誕生日ですから。シシリアの気持ちを分かって下されば嬉しいですわ」
「ありがとうシシリア! ……次はチーズかしら……でも目玉焼きとろーりも……んん? ねえシシリア」
「はい?」
「もうニンジンは食べなくていいのよね?」
「──ご覧になりますか?」
目玉焼きハンバーグの付け合わせは茹でたいんげん、チーズハンバーグの方はほうれん草のソテーである。
どちらにしろサラ様の大っ嫌いな野菜である。
「……」
「まあ、ニンジンでなくて良かったですわねえ。
ちなみにお分かりかと思いますが、完食でないと次へのステップはございませんので」
「──やっぱりありがとうは返して」
「嫌ですー。ほらサラ様、温かい内に食べてとチーズハンバーグ様と目玉焼きハンバーグ様が呼んでますよ」
「食べる。……おじ様ぁ、シシリアひどいのよー」
少し離れた席で楽しそうに見ていたご主人様は、
「ん? 別にひどくないじゃないか。
サラがごちそう様してくれたら、私がシシリアのチーズハンバーグを頂くから、遠慮なく──」
「ダメ!」
小さなハンバーグはあっという間になくなり、
「シシリア、チーズハンバーグお代わり!」
「はいどうぞ」
サラ様はほうれん草のソテーを睨み、涙目で口に入れたが、その後チーズハンバーグを一口食べて幸せそうな顔をして、
「チーズをはつめいした人は天才よねー」
とうっとりとしていた。
ケーキがあるからまさか3つ全部は食べまいと思ったのに、
「目玉焼きハンバーグさんが呼んでいる」
と綺麗に全部無くなり、ケーキもそのままサラ様の胃の中へ旅立った。
翌日、1キロ戻っていたのは当然の流れだろう。
誕生日だから。うん。
だけど良いこともあった。
ご主人様から3ヶ月終了を待たずして『結果を出しているからね』と継続を許して頂けたのだ。
わは、わはははは。
頑張ってるぞ私。えらいぞ私!
サラ様が健康に美しくなられたその暁には、ハーマンさんと共謀してご主人様のリフォームスタートですからねー。
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