些細な、されど大切な変化

「……シシリア……私をだましたわね」

 

「まあ、何の事でしょう? 

 シシリアがサラ様に嘘をついた事がございますでしょうか(食べ物の事以外で)?」

 

「だってっ、輪投げっ……せっかくれんしゅうしたのにっ……」

 

「それは、サラ様が勝手に今日もおやつを決めるのは輪投げだと思っていらっしゃっただけでございますよね? シシリアは明日もこれで決めると申しましたでしょうか? 

 言ってもいない事を言ったと言うのを世間では【冤罪】と呼びますが、まさかサラ様はシシリアに冤罪を着せるおつもりでございますか?」

 

「ちがうけどっ、それはっ、でもふつうはっ」

 

「サラ様……サラ様は侯爵令嬢でございます。

 世の中の【普通】などという枠組みに囚われていては、これから大人になって周囲の悪い人をすり抜けて力強く生きていけないではありませんか。

 大人の世界は、油断してるとすぐに足元を掬われる、怖ーい人たちも沢山いるところなのですよ?」

 

「……そ、そうなの?」

 

「左様でございます。常に周りを注意深く観察し、慎重に行動してこそ貴族。

 サラ様の価値も上がると言うものです。

 ──はい、それでは誤解が解けたところでおやつセレクションです。このロープのどれか1本だけ引いて下さいませ。

 この中の1本がなんとなんと! サラ様の大好きなクランチチョコレート大盤振る舞い2枚の大当たりでございますよ~」

 

 私は10本程の細いロープをサラ様の目の前に差し出した。中央では1つにくくられており、更に先にはクッキーやらシュークリーム、プリン、などと書いた紙がぶら下がっている。

 

「え? あ、本当に2枚ってかいてある!」

 

 サラ様は紙を眺めて顔を輝かせた。

 

「当たればの話ですけれどもね。さあどうぞ1本選んで下さいな」

 

 いくら考えても大当たりというのは当たらないシステムになっているのですよサラ様。

 

 シシリアは、現在たちの悪いテキヤの魂が降りてますから、プリンしか当たらないのです。何故なら昨日作ったものを消費しないと傷むからです。

 

「えーと……これ、待って、やめてこっちにするわ!」

 

 1本のロープを掴んだサラ様が私を見上げた。

 

「それでよろしいんですね? もう変更不可ですわよ」

 

 すっ、と引いたロープの先には【プリン】の文字が。ヤラセを感じさせないように大げさに驚く私。

 

「まあ! 1等のチョコレートではないですが、2等のプリンが当たりましたわサラ様!!」

 

「えー、ざんねん。チョコレートじゃなかったのね……でも、2ばんならすごいわよね?」

 

「もちろんですわ。ほら、ハズレもございますし、クッキー1枚という寂しいおやつもありましたもの。

 悔しいですが、当たりは当たりですものね。本日のおやつはプリンにしますわ」

 

 

 まあ9本のロープは中央で切れてるので、どのロープを選ぼうがプリンのロープに繋がってるんですけど。

 

 

「プリンも好きだからうれしい! わーい」

 

 喜んでいるサラ様は、根が素直なので大変チョロい。

 騙されやすいともいう。

 

 だが、常にハズレでは心がささくれる。

 たまにそこそこの物を手に入れて頂き、満足度をキープしないと、ストレスの緩和にならない。

 

 

 

 

 

 ……まあ、こんな感じで私とサラ様の騙し騙され(100%サラ様の1人負けだが)の日々が続き、2週間が経った。

 

 

 広い屋敷の中にチョコレートケーキと書いた紙を入れた宝石箱を隠し、ヒントをあちこちにばらまいて捜索させるという【放置ウォーキング】をしてもらい、その間にその日の食事の下ごしらえやら、作りおき出来る野菜のペーストを瓶に詰めたり、カロリーオフのお菓子を作ったりと私もかなり忙しい。

 

 夜は夜で次の日の遊びの仕込みをしたりする事もあるので睡眠時間も削られている。

 

 サラ様のお風呂もエレンの仕事だったが、万が一まだ気づいてないだけで、アレルギーや体調不良が現れているといけないと仕事を代わって貰った。

 

 まだ相変わらず丸々とはしているが、体の異常は見当たらないし、ほんの少しだがぽよよーんとしたお腹が引っ込んだ気がする。

 

「はいサラ様流しますよー」

 

 綺麗に髪と体を洗ってる間には、サラ様に好きな歌を歌って貰う。加湿器の中にいるようなものだから、扁桃腺にも少しはいいだろう。

 

 ……もしかしたら少し痩せたのかしら。

 

 タオルドライして、よっこいしょと抱っこした状態で体重計に乗る。私の体重を引いて……と。

 

 

 ……何故1キロ増えてるのだ。絶対に今までより摂取量もカロリーも減っているハズなのに。

 

 

 動揺を隠してパジャマを着せて、ていっとベッドに乗せて毛布をかけ、創作した物語をお休み話として語る。

 

 太っててそれでは子ダヌキよ、と継母と姉にいじめられていた女の子が、魔法使いにダイエットを勧められ頑張ったら、ぶっちぎりで可愛い女の子になって王子さまをゲットした、という何処かで聞いたような話をアレンジして、いやーやっぱりか弱い女の子はモテますからねー、などとソフトに洗脳しておく。

 

 

 くこー、と眠ったサラ様を確認してそっと風呂場に戻った。

 

(いや確かに健康が先ではあるけど、これ以上太るのは困るのよ)

 

 私は確認で改めて体重計に乗る。

 

 

 ……ん? んー? 私太ってる?

 

 先日一緒に計った時には確かに48キロだったのに、今は50キロ。私が太ってどうするのよ。

 

 慌てて自分の部屋に戻り、メジャーを引っ張り出して体のサイズを測る。ドレスを作る時にサイズを測るのは基本なので、自分のサイズは把握している。

 

 ウエストは1センチ減っている。よし。

 バストの変化は残念ながらない。

 

 が、二の腕と太股が1センチほど太くなっている。タルタルしてはおらず、むしろ引き締まったように感じていたのに。

 

 

 ──筋肉か。筋肉がついたのか。

 

 

 ……早くサラ様に痩せて頂かないと、私の体がボディービルダー仕様になってしまう。

 

 いやボディービルを否定してる訳じゃないけれど、この国では女性にムキムキは求められていないのだ。

 156センチのムッキムキな女など、嫁に欲しいと言う男はレアである。

 

 私はグッ、と二の腕に力を込めた。

 ぽこり、と力こぶが出来た。

 

 溜め息をつきながらベッドに腰を下ろし、これ以上太る訳には……と思い、ふっ、と顔を上げた。

 

 待って。

 私が2キロ太って、さっきサラ様抱いて1キロ増なら、サラ様1キロ減ってるじゃないの!!

 

 よし、結果は徐々に出て来てるわ!

 大丈夫、筋肉なんて、サラ様痩せたら使わないもの。すぐに元通りよ。

 

 

 2週間で1キロは微々たる変化ではあるが、常に増加の一途だった物が減り出したのは良いことだ。

 

 今は格闘系女性キャラみたいな筋肉ついてもいい。

 サラ様が痩せるまではどうせ必要なんだもの。

 

 サラ様とご主人様のジューシーなお肉をひっぺがすまでは、私は突き進むのみだ。

 

 

 布団にもぐり込み、すぐ眠りに落ちそうになりつつも、結果が少しずつ目に見えて来はじめた事で、私の中でも自信が芽生えて来たのだった。

 

 

 

 

 

 

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