おやつは自分の力でどうぞ

 サラ様が絵本を読んでいる間に、マリリンやエレンたちと屋敷の掃除をし、朝のうちにふかしておいたジャガイモに少量の豚肉、ニンジンやグリンピース、そしてこの国にもある豆腐を、私の愛機1号(フードプロセッサー)で粉々にした上、2号(ミキサー)で練り練りにする。

 

 ジャガイモは結構なカロリーがあるので、嵩ましの為に豆腐を投入し普段の「ほぼ100%ジャガイモ」のコロッケから50%程に減らし、豆腐と野菜をスタメンに加える。

 揚げ物だからどうしてもカロリーが増えるのは仕方ないので、少しでも抑えつつ必要な栄養補給だ。

 

 なに、日本では5%の果汁しか含まれてなくてもオレンジジュースやらグレープジュースで堂々と売れるのである。テイストさえあればいいのよテイストさえ。

 

 そして、サラ様にアピール出来るコーンも少量入れる。食感で好きなモノが入っていればご機嫌メーターが上がる。そして多少の違和感は見逃して貰おうという姑息な手段だ。

 

 ぺったらぺったら小さく丸め、衣を付けて揚げる。

 

 味見をしたが、しっかりコロッケである。

 そして豆腐を入れたせいかフワフワと食感も柔らかくて食べやすい。成功だ。

 

 

 そして、隠さない野菜、キャベツである。

 

 千切りにした物をフライパンで軽く炒めて塩コショウする。しんなりしたところで皿に移して粗熱が取れたら薄切りのパンに乗せ、ソースをつけたコロッケを挟む。

 

 生の千切りというのは好きな人にはしゃきしゃきして良いのだと思うが、苦手な人間には野菜の存在感アピールがウザい。そしてこぼれやすい。

 

 私も小さい頃は苦手だったが、前世で母がホットドッグを作る時にはいつも、こうやって炒めたキャベツを入れてくれた。これなら食べられたからだ。

 

 調理の工夫で苦手な物を如何に誤魔化すかも必要だが、ある程度サラ様にも「野菜を食べるよう頑張っている」という実感も持たせなくてはならない。

 

 何の努力もせずに痩せられると軽く思われてはいけないし、食べやすく調理した野菜から私のように好きになる物が生まれる可能性もある。

 全部ドロドロに粉々にでは誤魔化しは出来てもベースの野菜が何なのかも分からない。これはデメリットでもあるのだ。

 

 

 案の定、キャベツの姿にうえー、という嫌な顔をしたサラ様だったが、ソースの手助けもあり、

 

「これなら食べられるわ。コロッケもあるし。おいしいねーコロッケサンド♪」

 

 とペロリと完食し、通りかかったご主人様に、

 

「おじ様、サラねー、キャベツ食べられたよ!」

 

 と自慢していた。

 

「すごいじゃないかサラ! シシリア、どうやって食べさせたんだい?」

 

 私は余分に作っていた自分用のコロッケサンドを差し出した。

 

「炒めると食べやすくなるのです。好きなコロッケもあるのでサラ様も頑張れたんですわね」

 

 パクリ、と一口かじったご主人様は、驚いたような目をして笑顔になり、

 

「美味しいね。これ、私が貰ってもいいかな?」

 

 と言うので、てっきり手元に掴んだ物だと思ってどうぞと言ったらお皿ごと持って行かれた。

 まあご主人様のお願いにノーと言える筈もない。

 

 私のご飯……ていうかご主人様はこれからお昼でしょうに。きっと、お昼もがっつり食べるんでしょうねえ。

 

 

 私がご主人様に不要なカロリーを与えてしまった。

 反省せねば。

 

 これからはご主人様と一緒に食べる朝と夜の食事以外は、サラ様の食事は見られないように気をつけよう。

 それで普段の食事を抜いてくれるならいいけれど、まずそれは期待できないものね。

 

 

「ごちそうさまでしたー」

 

 サラ様もボリュームのあるサンドイッチを2つ食べると、ぱんぱん、と手の汚れを叩いて落とした。

 

「はい、それでは13時を楽しみにしてて下さい……ああ、そうでしたわ!」

 

 

 濡れたタオルで手を拭うと、私は思い出したようにサラ様に1つ提案をした。

 

「先日買い物に付き合って下さった時に購入したのですが、是非サラ様にやって頂きたいなーと思っている遊びがあるのです」

 

「え? どんなのかしら? やるやるっ!」

 

「それでは少々お待ちを」

 

 いつもならこの時間はお昼寝タイムだ。

 

 しかしサラ様のヘルシーダイエットに進退を賭けているこのシシリアが、食べてすぐなんて眠らせる訳なかろう。少し位はカロリー消費してもらわねば。

 

 


 

 

「……これは?」

 

「輪投げ遊びですわ」

 

 カラフルな輪っかを手首に通し、私は30センチ四方ほどの薄い板で出来た輪投げ台を部屋から運んで来た。

 

「この棒の所に輪っかを入れるゲームです」

 

 ひょい、と手首から抜いた輪っかを投げて、9つある右上の棒に見事入った。まぐれだが当然のような顔をしておこう。

 

「スゴいわシシリア! 私もやる!」

 

「はいどうぞ、3分だけ練習の時間を差し上げます」

 

 私は輪を全てサラ様へ渡した。

 

「……れんしゅう?」

 

「こちらは、ただの遊びではございません。

 本日のおやつはこちらになります」

 

 私は、画用紙に9つのマスを引いて、それぞれに【クッキー3枚】【プリン1つ】【アーモンドチョコレート1枚(大当たり)】【ハズレ】等と書いた紙を見せた。

 

「3回のチャンスで当てた物が全ておやつになります」

 

「……はずれたら?」

 

「当然ございません」

 

「きたないわシシリア……私はじめてやるのに……」

 

 悔しそうにサラ様が唇を噛んだ。

 

「あ、宜しいんですよ、やりたくなければやらなくて。その代わりおやつはございませんけれど。

 これはシシリアが、頑張るサラ様へのご褒美もなければ、と思っただけでございますから」

 

 お辞儀をして片づけようとする私の手を慌てて止めて、

 

「やる! やるから!!

 れんしゅう今からスタートだから!」

 

 と輪っかを投げ始めた。

 

 当然ながら、初めてでコツは掴めず、本番では辛うじて1つ棒に入って喜んだものの、ハズレ枠だった。

 サラ様は半泣きである。

 

「はい。本日はおやつはございません。惜しかったですねえ。でもこれはフェアな戦いですからね」

 

 板を片づけようとする私に、

 

「ちょっとまだかたづけないでシシリア! 私れんしゅうするから! 明日は3つとも当たりに入れてみせるんだからね」

 

「左様でございますか。頑張って下さいましね」

 

 せっせと輪っかを拾い、また投げ始めたサラ様に、

 

 

(これで睡魔は飛んだ、と。まあ大した運動量ではないけど、手を動かすのも運動だものね)

 

 と思いつつも、

 

(──ですが、明日もこれで決めると私は言いましたかねえサラ様?

 そんなもの練習したのを忘れた頃にまたやるに決まってるじゃありませんか。イヤですわあ、このシシリア、ダイエットの女神に魂を売った女ですわよ)

 

 内心の高笑いをこらえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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