まずオーバードライブな胃をニュートラルに
「シシリア、このポタージュはなんのスープなの?
コーンはうかんでるけど、色がオレンジっぽいよ」
「良くお気づきになりました。
いつもコーンポタージュだけでは飽きてしまわれると思いまして、ジャガイモやらコーンやら、サラ様のお好きな物もひとまとめにしてポタージュにしてみました。是非お召し上がり下さいませ」
大嘘である。
サラ様が好んで食べるものなどスープの上にダミーで振り撒いた数粒のコーンしかない。
私は嘘は苦手だし好きではないが、サラ様が食べる物に対しては出来る限り嘘をつく事にした。
人間誰しも大なり小なり苦手な物はあるが、克服しようとしても最初に「これは玉ねぎが入ってる」「ニンジンが入ってる」と知ると脳で警戒する。
普通なら満足する美味しさでも、「ニンジンが入ってなければもっと美味しかった」とか、「トマトが無ければ」といきなりグルメ舌になる。
つまり美味しいと感じるボーダーが跳ね上がるのだ。
それならば最初からちょっとおかしいと思われてもしらばっくれる方がいい。
浮気の言い訳のようなもので、ほぼ真っ黒な物証が出たとしても「冤罪だ」と頑なに言い切れば最終的には何とか逃げ切れる。
サラ様の健康とボディーメイクがかかっているのだ。
私はどんな詐欺師にだってなる。
以前誰かが言っていた。
自分のためにつくのは嘘で、人のためにつくのは思いやりだと。己の良心を守れるいい言葉である。
「……いかがですか?」
スープを一口飲んだサラ様は、少しだけ首を捻り、
「コーンとジャガイモが少ない気がするけど……でも甘くておいしいね」
と普通に飲んでいた。
まあ少ないっていうか、擬似餌レベルのコーンしか入ってませんけどね。
「あと、リンゴのジュースにしようかと思ったのですが、たまたまバナナもあったので混ぜてみたんですが、どうでしょうか?」
「ああ、これ?」
グラスに注がれたピーマンと青菜も投入したスムージーだ。やはり少し緑がかってしまったので、青ガラスを使ったグラスに注いでいる。
一口飲んだサラ様は、
「うーん……バナナはもっと少なくてもいいかな。
こんどはリンゴ多めにしてね」
といいつつもゴクゴク飲んでいた。
よし良くやったぞ私の3万円! これからも粉々とドロドロにするため精進するのだぞ。
「かしこまりました」
「サラは今日から別メニューなんだねえシシリア」
チーズのたっぷりかかったトーストと目玉焼き2つ、3本のぶっといソーセージに山盛りポテトフライ、クロワッサンという、「テメエ朝から1000キロカロリー楽勝で超えてんじゃねえぇぇ」とグーパンしたくなるようなモーニングを食べながらご主人様が微笑んだ。
「はい。3ヶ月よろしくお願いいたします」
私は頭を下げた。
……くっ、だけど何て美味しそうに食べてらっしゃるのかしら。艶々した頬っぺたにえくぼを浮かべた幸せそうな笑みが心に沁みる。
尊い……だがいつまでも許すまじハイカロリー。
「あ、サラ様そこまで! パンは2つまでですわ」
オムレツと戦いつつ丸パンに手を伸ばしたサラ様の手を止めた。
「えー、でもいつも4つは食べるよ? いきなり半分なの?」
2つでも充分過ぎるわ。
「実は、サラ様は本日からお食事の回数が5回になります。ですから、朝の7時から始まり、10時、13時、16時、19時となるので、1度に沢山食べる必要がないのです」
ダイエットするのは約束したけど、いきなり半分の量になるのはつらい、というガッカリした表情になっていたサラ様はえ、というように私を見た。
「でもシシリア……私やせるんでしょう?」
「はいそうですよ。でも5回です。
その代わり1回の量は控えめです。1回でお腹いっぱい食べられないのは残念かも知れませんが、5回も違ったメニュー食べられるのも楽しくないですか?」
「そうね! 5回もあるならガマン出来るし! だって10時にはまた食べられるんでしょう?」
「はい。10時はシシリア特製のコロッケサンドですわよ!ジャガイモたっぷりソースもたっぷり!」
「わあ! コロッケ大好き! 楽しみー♪」
──まぁ、別の野菜もワッサワッサ入れますけどね。
私はご機嫌になったサラ様に若干黒い笑みを浮かべた。ここ2週間のメニューは既に考えてノートに控えてある。
サラ様は、肉全般とエビやサーモンなど一部の魚介類、そしてコーンとジャガイモが好きで、それ以外はほぼ食べない。そしてケーキとチョコレートが大好きである。
基本的に子供が好きなものだ。それは認めよう。食べたくなるのも仕方ない。
だが、サラ様は成人男性の1日の食事量位平気で食べるのである。
ハイカロリーなものが好きだから太るのではない。
単純に食べ過ぎるから太るのである。
そして日がな1日砂場やブランコで遊ぶか、絵本を読む、絵を描く位しかしない。
一見すると小さな子供らしい趣味だと思うだろうが、私はほぼ動かないで済むからではないかと睨んでいる。
まずは、回数を増やすのは手間が掛かるが食事の回数を増やし、1回の摂取量ならびに1日の摂取量を徐々に落とす。
もう胃袋が完全に広がってしまっているので、これを標準に近づけて行くのが目的だ。
短時間待てばまたご飯があると思えば、ちょっと少なくても耐えられる。
そして、手を替え品を替え、体にいい栄養素も摂取させる。胃さえ小さくなってしまえば、チョコレートやポテトフライなどあげたところで、どうせ山盛りなんか食べられない。
そこまでくればこっちのものである。
昨日、体重計に乗って貰ったが、サラ様は現在身長120センチ程度なのに、体重は43キロあった。
約20キロ近く一般的な体重をオーバーしている。
私が156センチで48キロだ。身長差30センチ以上あるのに体重が5キロしか変わらない。
そら、腰も痛むし腕もパンパンになるよねえ。
自分でも良く持ててるなと感心した。
まずは1ヶ月で3キロ。落とし始めは結構落ちるものなので、目標としては悪くないはずだ。
後は運動だ。
これも、知らず知らずにさせる方法を考えている。
私は食事を終えた皿を片づけながら、スケジュールを細かく練っていく。
私はかなり凝り性だったようである。
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