外伝 第2話 勇者誕生

 頭が痛い。ここはどこだろうか。

 肌には久しく感じていなかった柔らかい羽毛布団の感触。

 ただの病院にしては豪奢な空間。

 身体を起こそうとすると、眼が回ってまともに体を起こすことができない。


「ど、どうなってるんだ……?俺はグールに噛まれて――」

「おや、目を覚ましましたか、勇者様。まだ安静にしていてくださいね」

「……勇者……?」


 部屋には自分と、白い神官服を身に包んだこのお姉さん。

 それしかいない。


「ええっと……俺の事ですかね……?」

「ええ、もちろん。」


 朗らかに笑う神官服のお姉さん。

 ここ最近こちらでは見かける事のあまりない黒髪で長髪の美人さんだ。

 水差しで水を飲ませてくれたり、落としてしまった冷えた水タオルを乗せてくれたりと、甲斐甲斐しくお世話してくれている。


 どうなってるんだこれ。病院での看病にしては手厚すぎる。

 そもそもここは病室には見えない。しばらく気を失っていたんだろうか。


「勇者様は先日、グール約6000もの数を屠りなさったとお聞きしました。覚えていらっしゃいますか?」


「グールを6000……?そんなはずは……」


 いや、そうだ。そういえば俺はあの日に――――



 * * *




『塵となって消えろ』


 その一言で粉々に砕け散るグール達。

 今のだけで、ここ一帯の周囲の魔物達は死んだとわかった。


「まだ、関所の方には居るのか」


 突然与えられた力だが、どうやら多少なり自分の身体も強化された様だった。

 耳は良くなり、鼻も敏感になっている。目を凝らせばぼやけて見えないはずの距離もよく見える。


 そして、何より肌に感じられるようになった魔物達のドス黒いオーラ。

 きっと魔力というのを身体で感じられるようになったのだと思う。


 空気中は大量の魔力で埋め尽くされており、この世界には空気と同じか、それ以上の密度で魔力が存在している様だ。


 そして、その空気中の魔力に対して命令語を放つ。


『北の関所へ俺を飛ばせ』


 え?地面から足が離れて――――


「うおおおおおおおあああああ!?」


 ――――凄まじい速度で俺の身体は射出された。


 関所の場所まで大体3キロ程度はあったが、ほんの5秒で北の関所に到着した。


 勢いはそのままに。


「ああああ!?『俺を守れ』えええ!!」


 この命令語で良いのかわからないが、咄嗟に出た言葉はしっかり作用し、卵の様な殻が身体の周りに構築されていく。



 衝撃波が周囲を吹き飛ばし、爆音が鳴り響く。

 それだけの勢いの中、殻の中は何の衝撃もなく五体満足での着地だ。


「あぶねえええ!!なんだよ、もっとこう瞬間移動とかで飛ばしてくれればいいのに」


 悪態をついたものの、この権能は凄い。一瞬で関所に着いたことには変わりない。

 それだけの力を手に入れられたのだと実感が湧いてくる。


「今の音はなんだ!?今度はなにが起きた!?」

「ウワアアア!奴ら、入ってきたぞ!!」


 自分が着地した場所は関所で食い止められていた無数のグールの集団の真っただ中。

 あの勢いで関所のど真ん中に着地しなくて良かった……最悪人を殺すところだった。

 どうやら関所には兵士たちが槍衾などを用いて侵入を防いでいた様だが、俺の到着の衝撃で関所の門も吹き飛んでしまっていた様だ。


「……『グール達よ、死ね』」


 単純な命令語。その一言は小さいながら大気に響き、一帯のグール達は力なく倒れた。


「あ、あれ?奴ら突然動かなくなったぞ」

「なにが起きたんだ一体……」


 先程まで死を覚悟する死闘を繰り広げていたであろう兵士や民兵たちは困惑しながらも、恐る恐るグールの反応を剣先で突いて確認していた。

 一度に数千のグール達が倒れ動かずに死屍累々と化している現実を、兵士たちは徐々に理解していった。


「た、助かったのか?俺たちは……」

「あ、ああ!!勝ったぞ!!おおおおおおおお!!!」


 グールの全滅を確認し、勝鬨をあげる。

 何故全滅したかよりも守り切って生き残った事実が大事だったのだろう。

 困惑している者達も、周りの勝鬨を聞き伝播していく。

 よくよく見れば兵士達は300……いや500人程度しかいなかった。街でおやっさんが掛け合ってくれるとは言っていたが援軍は間に合わなかったんだろうか。

 それでもこの人数で数千のグールを数時間は食い止めていたことを考えると凄いな。


 そんな勝鬨を眺めていると、関所の中から大慌てで一人の兵士が出てきた。


「まてまてまて!!ここを超えて行った亜人のグール達が街に行ってしまっただろ!アレをどうにかしないとさっき以上のグールが出来上がるぞ!」


 その兵士の一言に勝鬨を上げていた兵士たちは一瞬で静まり返った。

 どうやら指揮官のようで、この兵士だけは身なりが整っている。


「あ~~……そのグールも全滅しました」

「は?」


 挙手しながら答えた俺の言葉に指揮官は、冷や水をぶっかけられた様な顔をしている。


「えっ?あ、いや、だからその……獣族のグールは討伐できてますよ……?」

「は?……貴殿は何処から来た?身なりからして兵士ではないだろう」

「街から飛んできました。あ、比喩じゃなくて物理的に」

「?????」


 この兵士の困惑の色が深まり、面白い顔になっているが、事実なのだからしょうがない。

 それに正直俺も"できる"とは自覚しても、この力について理解ができているわけではないし。

 ただの言葉で伝えても信じて貰えなさそうなので、別の"言葉"を使おう。


 関所に向かって手を伸ばし、命令語を使う。

 対象は壊れた関所の門。そしてその周囲の魔力へ命じる。


『壊れる前の姿に戻れ』


 吹き飛んでいた関所の門がひとりでに浮き上がり、元の形に戻ってゆく。

 その光景は時間が巻き戻っている様にも見える。


 それを見ていた兵士たちは「おぉっ……」と驚いた顔をしている。

 話に聞く魔法……魔術?違いは分からないけど、ああいう物だとやっぱりこういう現象は起こせないんだろうか。


 そうしている内に直っていた門を見てみる。


(木端微塵だった部分も直ってる……万能だなこの権能)


 門は綺麗に継ぎ接ぎ跡も無く綺麗に修復されていた。

 自分が壊してしまったみたいなもんだしついでで直せて良かった。

 ぶっちゃけ直せるかは半信半疑だった。


「おい、リン!リーン!!」


 人をパンダみたいに呼ぶなよ一体誰だよ。


「って、カーン!!無事だったのか!!」


 声をかけてきたのはカーンだった。思わず感極まって抱きしめてしまった。

 俺が殺した獣族の中には狼人族も居たので、もしかしたらカーンも巻き込んでしまったのではないかと少し思っていたんだ。


 そして抱きしめてから後悔した。


 カーンの姿はボロボロでグールの返り血なのかどす黒い血の色で染められており、自分の服も血みどろになってしまった。

 いやまあ地面転がりまわったりしまくっていたから今更汚れても気にしないんだけどさ。


「どうしてリンがここにいるんだ?」

「街の方に来たグールは殺したから、こっちに援軍に来たんだよけど……ホント、無事でよかったよカーン。一緒に殺したんじゃないかって心配してたんだよ」


 街で殺した獣種の奴らにカーンが混じっていたんじゃないかってずっと不安だったんだよ。


「援軍おくってやるとか言ってたけどなんでリンが……本当にリンがアレをやったのか?」


 アレ、とグールだった死体に目を向けるカーン。

 元々無力でしかなかった俺が突然こんな力つかってたら驚くよなあ。

 正直なんでこんな事になったのかは俺にもわからないんだけどな……


「なんかグールに噛まれたら力に目覚めた」

「噛まれたのか!?」


 カーンのその一言でザワつき、一瞬で抜剣をする兵士たち。


「うおおおお、ままままってまってくれ!!だからなんかグールになる代わりに力を手に入れたんだよ!!さっきの見ただろ!昨日まで俺はあんな力使えなかったんだぞ!!」


 一気に変わった周りの形相の険しさにびびって思わず上ずった声を出してしまった。


「なんだそれ……だけど本当にグールにはならないのか?」

「なんかグールになるのに失敗したって言うのだけは分かる。多分グールにはならないと思うぞ」


 その話を聞いたカーンは力が抜けたようにその場にへ垂れこんでしまった。


「なんだ、なら良かったよ」


 カーンの表情は気が抜けた様表情で笑っている。

 そんな俺たちの会話を聞いていた指揮官が声をかけてきた。


「では、街の方にいったグールの心配はないんだな?」

「え、ええ。獣種のグールが来ていましたが全部殺しました。街はもう大丈夫ですよ」

「にわかには信じがたいが……先ほどの力を見せられるとな。念のため使者は走らせよう」


 指揮官が指示すると、馬に乗った兵士が街へ走って行った。

 というか馬とか初めてみたよ。


「お、オイ、街には家族がいるんだ……本当に大丈夫なんだよな?」

「……避難誘導に従ってくれていたなら大丈夫だと思います。少なくてももう今から街全体がグールになる心配はありませんよ」

「おお……おお……」


 話を聞いていた他の兵士が再確認をする。

 それを肯定すると聞いていた周りの兵士達は声をひり上げる。


「「「うおおおおおおおお!!」」」


 改めてあがる勝鬨は先ほどの比ではなく、地面が震えているのではと錯覚するほどの絶叫だった。

 そして俺は胴上げされ始めた。

 胴上げというには些か過激すぎるほど高く上げられているが、空を飛んできた時より安心感のある落下だった。

 そして、俺はこの喜んでくれている兵たちの命を守れたのだと実感した。




 ひとしきり胴上げされ続け落ち着いてきたところで兵士達は事後処理を始めた。

 流石に町が一つ丸まるグールになってやってきただけあり、ここからの処理が大変そうだった。

 中には兵士の中に感染してしまった者も結構な数が居た様で、亡くなった兵士に敬礼をしている者も数多くいた。


 そんな中でカーンはへ垂れこんだまま座り込んでいた。


「カーンどうしたんだ―――」

「ゲホッ……ゲホゲホ……ああ。クソ……」


 カーンは口から血を吐き出していた。

「お、おま……どうしたんだよカーン。どこか怪我したのか?」

「ハハ……実は下手こいちまってな……」


 カーンは着ているベストをめくると酷い傷跡が残っていた。

 血みどろになっていたのはグールの血だけではなかったのか。


「そのくらいの傷今俺が直して――」

「いや、無理だ。俺は……噛まれちまった」

「噛まれ……!!」


 落ち着いて見てみると、患部から体内へ浸食している黒い魔力が視えた。

 カーンの身体を構成する筋肉細胞一つ一つが魔力に似た光を発して抗っているが、その浸食をとめられていない。

 全身をこの黒い魔力が埋め尽くすのは時間の問題かもしれない。


 俺が固まっていると、指揮官が抜き身の剣で構えていた。


「……すまない。貴殿がいなければ関所は早く陥落していた。それでも、ここで狼人族の貴殿がグールになられるわけにはいけないんだ」

「……ハッ。人間助けなんて慣れない事しなけりゃ良かったぜまったく」

「い、いや、待って……待ってください!!判断が速すぎる!!……カーン!!ここに来て勝手に死ぬんじゃねえよ!!」


 勝手に指揮官とカーンが話を付けようとしている間に割って入った。

 カーンの胸倉を掴み大声で叫んだ。


「気合で耐えてたけど。気が抜けたら限界になってきた」

「俺と酒を飲むんだろ!!祝杯するんだろ!!」


 悪いな、と力なく笑うカーンは指揮官へ目を向けていた。


「グールに噛まれた者はグールになる前に殺す。それがしきたりというものでな。この者もその牙で友人である貴殿を食むことは望まないだろう。だから――」

「俺が治します!あの扉の様に!俺のこの権能ならできるはずです!」


 できる。言葉一つで殺し、言葉一つで直せるこの権能なら、カーンを治すことができる。


「ば、バカなことを!グールの感染は毒や菌とは話が違う!穢れた魔力による変質だ!それを元に戻すだなんてできるはずがない!」

「なら、その魔力を取り除けばいいんですよね?」


 俺の目には浸食している黒い魔力が見える。この黒い魔力に対して命令すればいいんだ。


『黒い魔力よ、浄化しその身体を癒せ』


 カーンを魔力の風が吹き荒れる。

 この黒い魔力は普通の魔力よりも濃い力を持っているようだ。

 俺の眼には、この風一つ一つがとても濃い魔力となってカーンの身体から抜け出して行っているのが見える。


「ア゛!!ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」


 カーンは声にならない様なうめき声をあげ苦しんでいる。

 身体の半分以上をこの黒い魔力が埋めていたのだ。それを無理やり弄ろうとすると肉体にも負担がかかる様だ。


「耐えてくれカーン!あと少し浄化できればお前はグールにはならない!」

「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!!」


 歯を噛みしめ、その苦痛に耐えてるカーン。

 なんの騒ぎかと周りの兵士たちも様子をうかがっている。


 風が止み、地に伏せるカーン。

 肩で大きく息をしながらも、意識は保っているようだ。


「カーン、大丈夫か?もう黒い魔力は見えないぞ」

「こんなに辛いんだったら先に言ってくれよ……死んだほうがマシだと思ったぞ」


 地面に倒れながら悪態を吐くカーンだが、その顔は安堵に満ちていた。

 この力ならなんだってできそうだ――――


「オイ!!」


 突然兵士の一人が怒声を上げながら胸倉を掴んできた。

 ……掴むなんて優しいものじゃない。胸倉で持ち上げられてる。


「なんでこんな亜人を……獣を助けた!!」

「えっ!?はっ?『離せ』よ」


 バチンッと魔力が爆ぜ、突然掴みかかってきた兵士がのけ反り手が離れる。


 一体何なんだよ。狼人族とかそういう亜人種ってそんなに嫌われてるのかよ。

 助けるくらいいいだろ。


「なんでそんな亜人を助けられるなら、俺達の仲間達を見殺しに……!!この手で……殺しちまったんだぞ!!」

「いや、そんなの俺は――」

「それに!!お前のその力ならグールになった人間も治せたんじゃないのか!?そんな人間のなり損ないなんかより、お前が殺した数千人の命の方が大事なはずだろ!」


 ズグンッ、とそんな擬音が自分の身体の中聞こえた気がした。

 俺は自分の身を守る為にこの力を使ったけど。もしもカーンを治せたように本来治せる数千のグールも治せるとしたら――――


「そ、そうだ、確かに治す力があるならグール達も治せたはずだろ……!?」

「なんで、もっと早く来てくれなかったんだ……その力があればアイツは……」


 話を聞いていた兵士達もその事実に気づき責め立ててくる。


「おい、リン!気にするな!治せるほうがイレギュラーだ!しかも実際治せるかもわからない!いや、治せるはずがないだろ!俺はまだ感染しきってないから回復できたんだ!」


 ――――いや。できる。グールの治療はできる。

 頭の中で出来るか否かを問うと出来るという結論がでてくる。

 理由は分からないが、治すことができると断言ができる。

 だが――――


『生き返れ』


 一度完全に死んだ人間はもう生き返らないのもわかってしまった。

 死体に命令をしても反応することは無い。

 ただ俺の声が魔力をもって響き渡るだけ。


『生き返れ』

『生き返れ』

『生き返れ』

「おい!無理だ!あきらめろ!」


『生き返れ』

『生き返ってくれ』


 静かに響く俺の言葉はいくら呟いても亡骸は答えない。

 俺は、数千人を殺してしまったんだ。


 元々日本という国で過ごしていた中で、ゲームでモンスターを殺す、人を殺す、動物を殺す。そんな機会には幾度となく触れた。

 何かを殺す事に対してこんな感想を抱くとは思わなかった。


( 逃げたい )


 そんな思考をしている自分を冷めた目で見ている自分も居て。

 殺してしまったという自覚と、殺してしまった自分を認められない自分が心をかき回している。


( 逃げないと )


 逃げるって言っても何処に。逃げる場所なんて。他の国……イメージが付かない場所には飛びようがない。

 目撃者はここで全員殺す?バカか、そんなことをしてどうするんだ。

 安全な場所に。

 安全な、世界に。


( 元の世界に戻りたい )

『俺を元の世界に戻せ』


 思わず口からでたその命令語。

 空気中の魔力が乱れ、雷に似た炸裂音が響きわたる。


「おい!何を――――」


 誰の声だったか、カーンか兵士か。

 その声の主が誰かを考えるよりも早く。


 俺は塩水に吹き飛ばされた。


 * * *



 ――――思い出した。

 俺はあの日、力に目覚めて調子に乗り、数多の人間を殺してしまったんだ。

 まだこの世界にいるっていう事は元の世界には戻っていないようだけど……


「俺はどうなるんですか?もしかして処刑とか……」

「えっ!?いえまさか!勇者様を殺すだなんて絶対にありませんよ!」


 唐突に処刑を危惧した発言に大慌てする神官服のお姉さん。


 そうか、殺されはしないか。少しホッとした……日本じゃそんな大量虐殺したら死刑だよな。

 いや一応グールだったわけだし温情という可能性も……。


 ……どれくらい寝たのかはわからないが、寝たら少しは心が落ち着いたのだろうか。

 あの時は人を殺してしまった自責の念で思わず逃げ出そうとしてしまったけど、今はとても心が穏やかだ。


 そうか……それで勇者になったのか。勇者。

 いやいや。


「……なんで俺が勇者……?」

「それは勿論悪しき者どもを屠るお力を神より賜った勇ましき者だからですよ!」


 うわぁ、眼をキラキラさせながらこちらを見ていらっしゃる。

 俺が本来治せる筈だった人間を殺してしまったという事は伝わっていないんだろうか。

 もし知ってたらこんな尊敬の眼差しを向けてはこないんだろうか……向けてこないんだろうなあ……。


 というよりこの豪華なお部屋は何処なんだろうか。


「ここは、ノーステリ領主のマーヴィン・アストラル様のお屋敷ですよ」


 領主!?と驚いているとクスクスと笑う神官服の女性。

 領主の屋敷にいるという事実も不思議だが、なんでその領主のお屋敷に修道女がいるんだろうか。

 街でもいつもは教会とか病院とかに入るのを見かけていたんだけど。

 領主さまとやらはよっぽど信心深いんだろうか。


「あなたは一体?」

「申し遅れました。ミストと申します。アストラル様にご下命を賜り、勇者様の治療をさせていただく為に参りました。勇者様一度は呼吸が止まっていたんですよ?」


 笑いながらとんでもないことを言うミストという名の女性。

 どうやら俺は5日程意識を失っていたらしいが、治癒魔術と魔法薬による治療を行っていてくれていたようだ。なんか異様に気持ちが落ち着いているのは魔法薬の副作用らしい。


 そしてそんな自分が気を失った原因は、魔力の暴走と暴走時に生まれた水で溺れたのが原因らしい。

 自分の能力以上の魔術の行使は魔力が暴走して術者に襲うのだそうだ。

 今自分が立つこともできないのはその際の魔力の残滓が体内で駆け巡っているのが原因で、これが抜けきるまでは魔力操作は控えた方がいいともいわれてしまった。




「そして、勇者様が全快なられたら大々的に発表させていただく予定です」

「え、何を?」



「もちろん、勇者様が魔王を倒すという発表をです!」



 この異世界に飛ばされて一ヵ月ちょっと。

 俺は元の世界に戻るという目標の他に、魔王の討伐という目標を強制されるみたいです。


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