第3話 人間の扱い


魔王の眼に映ったのは首の喪失した鎧、もといその身体。


人間の振りぬかれた掌は魔王の脳天だけを壁に吹き飛ばしたのだった。


そして、その壁へ吹き飛ばされた頭部はというと――――


「おい!!お前!そこの犬人族のお前だよ!!俺の身体に触れない様に俺の頭をもってあの鎧に乗せてくれ!!」

「ひっ!」


頭部だけになったソレは、兜は砕け、一時は骨まで露出していたが数秒で顔の形を取り戻す。

声を掛けられた犬人族は腰を抜かして体を震わせながら小さく悲鳴をあげていた。

周囲の獣種達は同様の反応をしていた。



「クソ!誰でもいいから誰か俺の頭をあの身体に戻してくれ!どうなるかわからない!」


腕や足等が欠損しても即座に再生したが、頭部と胴体が切断された場合両方がゆっくりと再生するとは思わなかっただけに魔王はパニックに陥っていた。


魔王は絶叫しながら助けを求めるが、それに動ける者はこの場にはいなかった。


唯一動けたのは――――暴走している人間だけだった。


頭の喪失した身体より、声を発する頭部の方へ視線を這わす。


こちらへ視線が合うと共に周りにいた魔物や獣種達は悲鳴を上げながらアリの子を散らす様に逃げた。


そしてその悲鳴のする方へ人間が意識を向けている。


(アイツ、声のする方へだれかれ構わず襲う気か!)


その焦燥と共に何か注意を引かなければ、と魔王が声を上げようとしたとき、人間を抱きしめるように羽交い絞めにする。


魔王の胴体が。


「エエエエエエ、勝手に動くのか俺の身体ァ!?ていうか首再生し始めてる!誰かァアアアア!助けてくださァアアアアイ!」

「■■■■、■■■■ッ!!」


凡そ魔王と呼ばれる存在が上げる事の無いであろう情けない絶叫。


血走った眼で振りほどこうと叫び暴れる人間。


「って俺の身体のほうもかなり再生してるし、ヤバイヤバイ!やっぱりこの場合って二つに分裂しちまうのか!?」


魔王が一人慌てふためいている間に人間は暴れもがいているが身動きが取れないでいる。その間に身体は顎周りまでの修復をしていた。


「......なにがどうなっているんダ......」


魔王に助けられ、魚人憲兵が困惑している。


「うおおお、俺の頭をその上に載せてくれえええ!!あとその人間どうにかしてくれえええ!!」


魚人は一瞬呆けた顔をするが、即座に動きだして人間の頭を両の手で挟む様に掴む。


「【 svefn眠れ 】」


魚人の呪文により人間は意識を失う。


「ヤバイヤバイ!早ォ!はよォ!!?」


頭だけだった魔王は肩周りまで、胴体だけだった魔王は鼻回りまで既に再生し始めていた。


「まあまあ、落ち着いてくださいよ。陛下。」


そういって俺の頭を壁から引っこ抜きながら運ぶ、狼人の憲兵。


先ほど人間に吹き飛ばされていたが特にダメージも負っていなかったようだ。


「ってお前生きてたのか!よく無事だったな!って言うか俺の身体に直に触れたらまずい!」

「いえ、我々狼人族は基本は魔力を持たないので陛下に触れても問題はありませんよ」

「え、何ソレ初耳なんだが」


そんな会話をしながらも狼人は丁寧に頭部を壁から引っこ抜き、胴体を近づける。


すると魔王の肉体の再生は止まり、互いに細胞が伸び合って接合して元の姿に変形していく。


「お、おお……痛くはないがなんかもぞもぞして気持ちわるいな……」

「……………………。」


狼人はそれを黙って眺めているが、表情にはその光景に対して別の気持ち悪さを抱いているのがありありと浮かんでいた。


周囲の魔族や獣族達も同じような心境だったが、それを魔王へ直接口に出せる程の不届き(勇気ある)ものはこの場にいなかった。


「元に戻ったか……?すまんな、助かった。あー、狼人の……」


酒の場で名前を聞いていなかった、と気づいた魔王は言葉を濁すが、狼人は片膝を付いて頭を垂れる。


「お初にお目にかかります、陛下。私は魔族軍幹部の四柱が一人、ヴォルフでございます。この度は全軍の指揮権を承っております」

「お、おう、そこまで畏まらなくて良い、居心地が悪い。ヴォルフ……?ああ、お前がそうだったのか」


名前と存在だけは知っていたが実際見たのは始めての魔王。


そして今さっきまで酒を飲み交わしていた相手が話で聞いていた将軍という事に、感動に似た感情を抱く魔王。


だがそれに対して頭を垂れたままのヴォルフの反応は芳しくない。


「全軍指揮を委ねられた身でありながらの失態、如何様にでも処分を受けます」


身を硬くして次の言葉を待つヴォルフ。


「……?酒を飲んでたからって処分したりもしねーよ」

「いえ……それもありますが、御身を危険に晒し、あまつさえ副隊長の命を助けてくださったので」


副隊長?とヴォルフの視線に這わせて振り返ると魚人族の憲兵も片膝をついていた。


「……副隊長、の、ポ、ポワンと、いいマス。さ、先程は助けて頂き、ありがとう、ございマス」


カタカタと震えながら感謝の言葉を贈るポワン魚人族


「だから、そこまで畏まるなって。……ヴォルフもポワンもさっき飲んでたノリを頼みたいんだが……」

「そ、そんな畏れ多い……デス……!」


畏まる、以上に恐怖の色が濃いポワン。


(ああ……先代魔王から知っているから単純に怖い、のか)


先代魔王の話をこの二人から聞いていただけにこの対応は忠誠や尊敬といったものより恐怖から来ている事に気づく魔王。


そうして魔王が落ち着いて考えていると、周囲にいた街の人々も皆魔王であることに気づき、両膝、両手の甲、そして額を地に付けている。


兵士以外の一般人が王に対し、敵意がないことを示す平伏姿勢だ。


「オレはこういう大事になるのが嫌だったんだが……そうだな、処分の話だったが」


ポワンとヴォルフが身を更に強ばらせ、次の言を待つ。


「さっきの人間がやらかした事の後始末にお前ら憲兵も手伝え。それが終わったらまた酒を飲もう」


二人が驚きで顔をあげ、ハッと気づきまた顔を伏せる。


「それだけでよろしいのでしょうか、あまりに……」

「さっき暴れたせいで出店が壊れちまってるところも多い。さっさと直すぞ。皆もオレへの平伏はやめて良いから普段通り過ごせ」


その言葉を受け、含めて周りにいた者たちは困惑しながらも動き始める。


「……承知しました、陛下。また後ほど」


ヴォルフはその言葉を受けて困惑の色を残しながらも兵士を集め後始末を行う。


その中でポワンが意識の失っている人間を連れてくる。


「ヘ、陛下……こちらのニンゲンは如何なさいますカ……?」

「普段やってる対応でいいぞ。眠らせたってことは殺処分ってわけじゃないんだろ?」


魔王としては下手な指示を行いたくなかっただけ―――であったがポワンの顔にも困惑の色が浮かぶ。


「……ヴォルフといいポワンといい俺の行動はそんなに驚くことなのか……?」


ほかの街の者達に対してこの二名は旧くからの配下というのもあり、ズレが大きいようだ。


そもそもが酒の場で先代魔王の恐怖を散々吐露していた一人。


今回の件がもしも先代魔王の目前で行われた場合、人間には少なくても拷問した後に殺処分が為され、逃がした件に関わった者にも相応な罰が与えられる、と震えながらも話をしていると、徐々に口調の硬さが取れてきたポワン。


「では陛下、ニンゲンは実験場に戻してきまス」


ポワンが部下と共に人間を連行する場所は、実験場。

――――先代魔王が生前に様々な生物兵器の創造、その生物の強みについての研究、新魔術や投薬の実験等様々な事を行っている、研究所とも実験場とも言える場所。


そして罪人などもここに送還され、死刑場の側面もある。


「オレも連れて行ってくれるか?名前だけで見たことがないんだ」


そんな場所の存在を魔王が興味を持っていないはずがなかった。


「わかりましタ。ご一緒しましょウ」


快諾を受け、魔王とポワン達は実験場へ向かう。



◇ ◇ ◇ 



そうして魔王場から見て北西、30分以上歩いて着いた実験場前。


「クソォォォォ、目前で結界かよォオオオオ!」


地団駄を踏んで悔しがる魔王。実験場の門を目の前にして結界に阻まれたのだ。


もちろんこの結界の影響を受けるのは魔王だけであり、ポワンやその部下達は普通に素通り出来てしまった。


「……見たかったがしょうがない。後は頼んだぞ」


落胆が隠しきれない魔王は溜息を漏らしながらも帰路につこうとする。


だが、ポワンが引き止めた。


「お待ちくださイ、陛下、中を見る方法はありマス」


ポワンの得意分野は精神魔術系統。直接的な破壊力や殺傷力はないが、使い手の少ない分野の一つだ。


自己や他己の精神に干渉し、様々な影響をもたらす。幻覚や幻影を見せる等のような事ができるのだ。


その応用により、ポワンが見ている情景を魔王の視覚に投影するというのだ。

だが―――

「……体質でオレは魔術の類は効かないんだが」


魔王の体質。魔族の中でもあまり知られていない情報の一つ。隠しているわけでもない情報ではあるが公言するものでもない情報。そしてこの情報は――――


(魔王として、畏怖の対象にしかならない。ヴォルフには大丈夫だったが、ポワンにも大丈夫という確証が無い……)


「大丈夫でス。少々お待ちヲ。」


そんな魔王の仄暗い危惧を、ポワンは否定し地面に絵を描き始める。


円、四角形、三角形そして魔術語を組み合わせた図案。それを描きながらボソボソと詠唱をしている。


「【spegill auga投影 】」


そうすると、地面に描かれた絵の中に景色が映し出された。


ポワンの視界だ。


「すごいな、絵の中で景色が動いているぞ」

「これは魔術陣と言いまス。詠唱と共に魔術文字を刻んだ陣を組むことで色々な魔術の能力が上がりまス。これで視界だけでもお伝えすることはできまス」


そうして視界を魔術陣に映しながらポワンとその部下は人間を連れて実験場内へ入っていった。


実験場自体の広さも中々あったが、昇降機により地下への施設も大きく広がっている様で、基本的に人間達は地下深くに収容されている様だ。


「……にしても、何というか……他人の視点というのは何か変な気持ちというか、気持ち悪くなりそうだ…」


普段、当然自分の目線で過ごしているわけで、他人の目線にはどうしても違和感がある。しかも映しているのは魚人の目の位置が基準の為、普段見慣れない目線には不快感が強かった。


「でもコレ、元々は他人の目線を見せる幻覚みたいな用途なんだよな……。敵と敵の目線を入れ替えるなんて妨害にも使えるな……百貌の魔物とかが使えれば警備とかにも使えそうだな……」


ぶつぶつと応用方法を妄想する魔王。


ベルには普段から魔術を覚えろ覚えろ言われつつも言われると逆にやる気をなくしていた魔王だったが、実際に魔術を使っているのを見ると好奇心や妄想力が膨らんでしまうのだった。


しかも見えているのは普段見れない結界外。視界が不快だとはいえ、それを超えるワクワク感が魔王の中にはあった。


『鳥人族や竜族で空からの俯瞰をしてもらっても面白そうだな。』なんて事を呟いているところで、昇降機が到着し、人間を収監する場所についた様だった。


だがポワンの視界は暗く、映されない。


その光景を視界に収めるのを躊躇っているのか。

その光景を魔王に見せるのを躊躇っているのか。


そんな感情がポワンの視線には感じられた。


そして、その心中はきっと両方だったのだろう。



中は凄惨だった。



元から処刑場や拷問場を兼用している側面もある実験場だ。魔王にはその存在を軽く見ているつもりもなく、人間という存在を初めて見た魔王にとっては自分たち魔族に似たような所があるのだな、程度の認識だった。


そんな似通った生物が、様々な方法を用いて苦しめられていた。


廊下に対して両端に透明な板が張られ、その向こう側は石で閾をされた小部屋になっており、中が監視できる状態になっていた――――


――――いや、見て愉しむ為だったのだろう。


ある部屋では番いと思われる二人の人間が入れられていた。


その内の拘束された男が暴れている。自らの力で裂けた肉から出る血液と、顔を涙や粘液でぐしゃぐしゃにしながら何かを叫んでいる。共有されているのは視界だけで音声は聞こえない。だが何を言っているのかはわかった。


男の手が届かないギリギリの距離で、女体が下級の小鬼族――ゴブリン――達に犯されていた。


女はもはや正気を失い、目の瞳孔は男を捉えてはいない。



ある部屋では人間が10人以上は入れられていた。


その中に大量の黒蟲が解き放たれる。雑食で食欲旺盛なその虫は、一匹では踏み潰されて終わりな非力な存在だが、繁殖力も凄まじく共食いをしながらもその個体数を増やしてしまう様な害虫だ。


そして、それが群れをなしてしまった時。

もしも、共食い以上のご馳走があった時。

相手が、自分達を一瞬で全滅できない時。


その害虫は、暴食の王の異名に相応しい力を発揮する。


人間達は足元から齧り尽くされ、痛みに悶える。人間達が踏み潰して殺してもそれ以上の繁殖力で産卵し孵化し成長する。


その部屋には、もはや人間はいない。


ある部屋では、泣きながら自らの子を喰らう親がいた。

ある部屋では、限界まで人を流し込まれ圧死した人間がいた。

ある部屋では、熱せられた鉄板で生を捨てた肉がいた。

ある部屋では――――



……


………


拷問には目的がある。

処刑には理由がある。


だが、この空間にあったのはただの狂気の具現だった。人間だけがその対象となり、ただ苦しめられていた。


魔族の王である魔王は、その光景はただただ怒りを催すだけだった。腹を立てる理由も、不快な理由も分からないが、心地良くないのだけは理解していた。



この狂った空間を見ながら笑っている魔族達がいる。ここの兵士だろうか。ポワンを見つけて敬礼をする魔族達。何かポワンに話しかけている。話している内容は伝わってこないが、魔族達に街に逃げてきた人間を引き渡していた。


ここで見世物にされている人間達にくらべて、幾分か丁寧に扱われていた。理由はわからないが、あれだけの力を持って居た人間は特別なのかも知れない。


それを見届けた後、ポワンが魔力で文字を描く。


『陛下、見学を続けますか?続けるのであればこのまま、続けないのであれば魔術陣を擦り消して下さい』

と描かれて居た。


魔王は足で鬱憤を晴らした。



少しするとポワンが帰ってきた。どうやら視界共有が切れたのは感じられるらしい。


「いかがでしたカ、陛下」

「…………なんだあの場所は」


魔王が不快感をあらわにしながら答えると、ポワンはびくりと肩を震わせる。


「ア、アレが、人間の研究場でス。実験内容についてはわかりませン。ですが先代魔王様から引き継がれていると聞きまス」

「あんなのが100年以上続いてるのか?」


研究の理由なんて無い、ただの先代魔王の悪趣味を形にした様な場所。そんな場所を続けさせる理由は今の魔王には無い。


「あそこは廃止だ。権限はオレにあるんだろ?」

「ハ、ハイ!もちろんでございまス!対象は…人間だけでいいですカ?」

「まて、人間だけじゃないのか?他にもいるのか?」


あの場所は人間に味合わせるだけの空間ではなかった。軍門に下らなかった種族を末代まで根絶やしにする空間だったのだろう。


「ハイ。生き残っているのは……エルフ族、巨人族、樹人族……あたりでしょうカ。あとは実験の中で生まれた混血などもいまス」


言われてもどんな種族か魔王には知識が足りていなかったが、先ほど見た光景の焼き直しが起きているのであれば同じ事だった。


 「全てだ。全て廃止だ。最低でも奴隷以上の待遇にしろ。奴隷の仕打ちもろくに知らないがアレよりはマシだろ?」

「かしこまりました、陛下」


命令されたポワンの表情にはどことなく安堵の表情が浮かんでいた。あの実験場の中で笑っていた魔族に対してポワンはあの光景を見たくて見ていたわけではなく、見せるために見ていたのではないか――――


「ポワン、お前本当はあの研究所を止めてもらうつもりだったんじゃないのか?」

「いえ、先代様の行っていた研究所でス。陛下がどう思われるかについてはわかりませんでしタ」

「……そう言うことにしておく」


元々、実験場を魔術を用いてまで見せなくても良かったのだ。


その意図は追求してもいい結果にはならないと言うことだろう。


「でハ、ワタシは閉鎖する為の手続きを行って参りますのデ、ここで失礼しまス」


そう言うとポワンは実験場へ踵を返す。ポワンの部下たちは魔王へ追従しようとするが、辞去する。


「事後処理とかは手伝ってあげてくれ。俺は一人で戻る」


部下たちは魔王を護衛無しで見送る事に若干のためらいはあったようだが、ポワンの元へ向かっていった。


「街を見て回る気分でも無くなったし、帰るか」


独りごちながら、帰路に着く。


◇ ◇ ◇


――――魔王城・料理場。


鎧姿のまま、調理台に向き合う人物がいた。


本来なら数十人単位の料理人達がいる場所だが人払いを済ませ、一人で料理をしている。


「ウオオオオラアアア!」


巨大な燃え盛る大鍋を豪快に振り回しながら雄叫びをあげている。


鍋へ怒りをぶつける様に火鍋を振るい、あるときは静かに瞑想するように煮込んでいる鍋の味を確認する。そんな作業量をテキパキと無駄なくこなしつつ、大量の料理を完成させて行く。


そんな状況を呆けた顔で目撃する狼人がいた。


「――――なにやってんですか、陛下」

「うおっ、なんだヴォルフ……か。お前達の分も作ってるから一緒に仕事してた兵士達でも呼んで来いよ」

「了解で……いやいや、なんで陛下がご自分で作られてんですか。そういうことは料理人に任せてくださいよ」


思わず勢いで流されかけるヴォルフ。魔王の趣味に料理というものがある事を知らされていなかっただけに状況に困惑していた。


料理は魔王の趣味の一つであり、ストレスの発散方法でもある。


これまでは多く作ってもベルと二人で食べれる範囲でしか作ってはいなかったが、今回の一件での大きさが量の多さに繋がったのだった。とはいえベルが不在の今、全て一人で食せるとも考えて居なかったため、兵士達に振舞おうという考えだった。


「まあこれは憂さ晴らしみたいなところもあるからな……今回は無理を言って料理人達には休ませた。オレが手作りで振舞ってやるぞ」

「は、はあ、それはまた……ではお言葉に甘えさせていただきます」

「もっと砕けた感じで話していいんだぞ?」

「これでもかなり砕いてるんですから、お手柔らかにお願いしますよ、陛下」


そう言ってヴォルフはすんなりと兵士達を呼びに出て行く。


(確かに昼間は萎縮していたが、それと比べれば結構解けたようで良かったな)


人知れず、魔王は一人安堵していた。


兵士たちに食べさせるのにお粗末なモノは与えられないな、と更に張り切る魔王の顔は幾分かスッキリとしていた。



――――その日、魔王の晩餐会が史上初めて行われる事になった。


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