第38話 惑い


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 天界、何処かの部屋にて────


「アレを止めなければあの場にいる全員が死ぬ事になる」


 リューアはフィールドに突如現れたラーゼの身体を乗っ取った『何か』を睨みながらすぐにフィールドに向かう準備を始める。


「リューア様、あれは一体……」


 そんなリューアを見て召使いの役職を与えられている女神の一人が質問を投げかける。

 するとリューアは顳顬こめかみに汗を流しながらその質問に答える。


「あれは……俺の昔の友人であり、最大の敵だ」


 そしてリューアは準備が終わったのか部屋の扉を開けてフィールドへと向かい始める。

 足速に向かうリューアの姿に周りの女神や他の神々が何事かという視線を向けているがリューアはそんな視線に気を配る事もなく苦虫を噛み潰した様な表情で足を進める。


 ────薄々感じていた。しかし顕現するなど考えていなかった……!


 そんな自身の考えの甘さを恥じながら足を早めるリューアに対して突如それをいさめるかのような連絡が入った────


【まさかフィールドに向かうとか言わないよね?今の君じゃ勝てないよ】


 声色的にそれは先程リューアと会話をしていた『星を魅せる者ステラ・ビジョン』ことフィーリアであった。


【僕もあの男の気配を感じてしまった。だからこそまずは君に連絡をする事にした。君は向かうな。繰り返すがアイツ相手に今の君は────】


「わかっている」


 フィーリアの忠告を最後まで聞かずにリューアは返事をし、言葉を肉付けしていく。


「わかっているが俺の判断ミスで人が死ぬのは駄目だ。既に一人死者が出てしまった。これは俺がアイツの魔力相手に少なからずおののき、民にその役目を押し付けたからだ」


【冷酷な事を言うぞ馬鹿リューア。君は最高神だ。神々の中で最も上の存在だ。そんな君がこんな所で死んでいく事は許されないと言う事を理解しろ】


 フィーリアは声だけで伝わる様な怒りを含みながらリューアに対して身を弁えろと伝える。

 しかしリューアは────


「死にはしないさ。時間稼ぎをするだけだ。後釜を育てずに死ぬなんてヘマはしないさ」


 何処となく自嘲的に呟いたリューアの言葉にいよいよフィーリアは堪忍かんにん袋の緒が切れたのか声色を更に強めて言葉を返す。


【何もわかってないな。お前の今の我武者羅と無鉄砲さで天界が揺れ動くかも知れないんだぞ。万が一にも死ぬ可能性がある以上お前を行かす事などできる訳がないだろう】


「では!俺に!俺の命令で命が危ぶまれている民を見殺しにしろと言うのか!」


 フィーリアに感化されたのかリューアの言葉も焦燥を帯び始め、言葉紡ぐスピードが増していく。


【ああ!そうだとも!お前はそんな事百も承知で今の地位を選んだのだろう!今更その在り方を変えるなど友である俺が許さない】


「時と場合によるだろう!俺の友……が絡んでいるとなれば尚更だ!」


 『ラグナ』その名前が出た瞬間にフィーリアは一瞬言葉を詰まらせ舌打ちを鳴らした後に再び怒気を含んだ言葉を紡ぐ。


【ラグナに関してお前がどれだけの執着と後悔を抱えているかは知っているつもりだ。しかし堪えろ。お前が今ここで仮に死んだとして例の世界線で起きた『偽りの神』の件はどうなる?誰が死祖の非行を食い止める?】


 フィーリアの具体的な言葉にリューアは足を止めて頭の中に思考を巡らせる。

 そんなリューアを他所に更にフィーリアは言葉を続けていく。


【少なくとも偽りの神相手にはお前がいなきゃ勝てない。ケースバイケースだ。戦いなんざ相性の問題なんだ。今は苦虫を噛み砕け。この件は黒江が何とかする】


 フィーリアは極め付けとして『死神ブラック・モルテ』の名前を出しリューアの気を諌めた。

 流石のリューアも偽りの神の名前を聞いてからは冷静さを取り戻したのか一度大きく深呼吸をしたのちにフィーリアに謝罪の言葉を述べようとしたが────


「すまな────」


【謝るな。気持ち悪い。そんな暇があるなら部屋に戻ってやっても大して意味のない事務作業でもしていろ】


 フィーリアは綺麗にリューアの言葉を遮り、思わず遮られた側のリューアを目を丸くしている。そんなリューアにフィーリアは言葉を付け加えていく。


【間違いは誰でもある。最高神のお前にだってだ。それを手助けするのが使徒十二神祖だったり他の最高神達の仕事だ。これは当たり前の行動なんだ。だから謝るな。お前が述べるべき言葉は────】


「ありがとう」


 フィーリアの言葉を聞いてリューアは何処か敵わないなという自嘲の笑みを浮かべながらフィーリアの最後の助言を聞かずして本来答えるべきであった言葉を答えた。


【やっぱり後五年はお前から連絡を入れるな────】


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