第33話 Lase


 和馬かずまによって生み出された巨大な斧は膨大な魔力を孕み、周りに突風を吹かす程の衝撃で『罪を喰らう者クライム・イーター』へ衝突をした。


 風を腕で受けながらもラーゼは自身の能力で止めていた『罪を喰らう者クライム・イーター』に目を向ける。

 しかしそこには────


「やっぱり一筋縄じゃ行かないか」


 巨大な斧の下には自身の魔力で咄嗟に丸型の縦横四十センチ程の盾を作り出し、それを斧が降り掛かろうとしていた首あたりに設置し、攻撃を凌いだ『罪を喰らう者クライム・イーター』の姿があった。


 ラーゼの能力で動けないとはいえ、『罪を喰らう者クライム・イーター』は衝撃により身をかがめており、更に足はあまりの重さに震えていた。


 ────種はなんだ……!


 斧の重さに耐えながらも突如動かなくなった身体にかけられた魔術を『罪を喰らう者クライム・イーター』は考察する。

 しかし右手をかざしたという点しか考察できる要素が無い為その考察が進む筈もなく────


「おりゃああぁぁぁぁぁああああああ!!!」


 そうこうしているうちに上で斧を振り下ろしていた和馬が雄叫びを上げながら更に力を加え始める。


「グッ……!!!」


 あまりの重さに『罪を喰らう者クライム・イーター』は遂に膝を突き、地面がその重さによりえぐれ始めている。


 そうして、それに畳みかけるようにフリークが動き出す────


「正々堂々じゃねえのは俺のプライドが許さない所ではあるんだが状況が状況だ。許せよターゲット」


 動けない『罪を喰らう者クライム・イーター』に対してフリークは無防備な横側に剣を駆り立てる。


 しかしその瞬間────


「────風花散漫!」


 突如女神と『罪を喰らう者クライム・イーター』を中心に強い風が吹き出し、周りの三人を吹き飛ばした。



「何これ!?」


 和馬は唐突な突風に驚きを露わしながら風に身を飛ばされている。

 そしてラーゼとフリークの身体も少しだけ吹き飛ばされ、女神と『罪を喰らう者クライム・イーター』らの間に多少の距離ができた。


「よくやった」


「詠唱するだけの魔術ですので!」


 女神と『罪を喰らう者クライム・イーター』はすぐさま体制を立て直し、ラーゼに注意を向けた。


「随分得体の知れない能力だな」


「もう同じ手は食らいたく無いですね……」


 身体の自由を奪われる能力────

 敵の攻撃を盗むなどよりも複数戦においてはかなり厄介な能力をラーゼは保持している為必然と二人の注意はラーゼに向けられた。

 そして『罪を喰らう者クライム・イーター』の頭の中にはもう一つ注意を向けているものがあった。


 ────先程俺を狙撃した奴はどこだ……?


 それは空中で自由落下をしている際に自身の背中を撃った狙撃手が見当たらない事であった。

 周りを取り囲んでいる三人のうちにスナイパーライフルは愚か、銃らしきものを持っている者すらいない。

 『罪を喰らう者クライム・イーター』は常に集中力を極限に高めた状態で辺りにも注意を払っていた。


「だからさぁ……敵の目の前で堂々と話すのはなんなの?煽りなの?」


 そんな二人に再びラーゼが近付き出す────


「一度攻撃を凌いだからって調子付いた訳?あぁ……ほんと君達みたいな厄介事を持ち込む奴が一番嫌いだ」


「私達からしたら貴方が一番厄介ですよ!」


 忌々しげな表情を包み隠さずこれでもかという程顔に出しながらラーゼが二人に近付きそして気づいた時には────


「何……?」


「嘘!?」


 再び二人の身体は自由を奪われていた。


「今度はちゃんと決めてよ、凄腕スナイパー」


 戦闘が行われている場所から訳二十キロの地点。

 森から少し外れた崖の上に移動していたラックはレンズ越しに身体が動かなくなった女神と『罪を喰らう者クライム・イーター』を確かに見ていた。

 そしてその標準を『罪を喰らう者クライム・イーター』の元に照らし合わせ────


「今度は外しはしないよ」


 ラックはその引き金をゆっくりと引き、空に鉛玉が閃光となって舞った。

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