第34話 千変万化


 ラックのスナイパーライフルから放たれた鉛玉が魔力を孕み空中を切り裂く閃光の如く『罪を喰らう者クライム・イーター』へ向かっていく────


 先程の自由落下をしている時とは違い『罪を喰らう者クライム・イーター』はすぐさま横から音速で向かって来る鉛玉に気付き咄嗟に対応を取る。


 『罪を喰らう者クライム・イーター』は多大な魔力を消費しながらもまたもや身体の半分はあろうかという盾を作り出し弾が飛んでくる方向にその盾を展開する。

 しかし『罪を喰らう者クライム・イーター』の本能的な勘が「それではぬるい」と訴える。


 明らかに先程より魔力で強化された鉛玉は盾を間に仲介させようとも盾事身体にダメージを与える気がしてならないのである。

 それ故に『罪を喰らう者クライム・イーター』は考える────


 ────どうする……


 ────最善の手は何だ?


 ────先程と同じ手では防げないぞ。


 ────どうする……


 ────目の前の敵の能力を探らなければ窮地を打開する術はない。


 ────どうする……


 ────先程何故動けた……?


 そしてコンマ数秒の間、恐らく『罪を喰らう者クライム・イーター』は最善の手を思いつく。


「女神よ!先程の魔術を辺りにもう一度展開しろ!」


「えっ?あっ、はい!」


 唐突な振りに女神は狼狽の表情を浮かべるもすぐさま何か考えがあるのだろうと察し同時に魔術を展開する。


「もう気付くのかよ……」


 ラーゼは『罪を喰らう者クライム・イーター』の打開となる策にあからさまにたゆい表情を浮かべてその場から一時離れる。


「────風花散……あれ?動ける!?」


「やはりか」


 『罪を喰らう者クライム・イーター』は一先ず動けることに安堵の言葉を漏らしたがすぐさま注意を盾の向こう側から迫る鉛玉に向ける。

 撃ち始めてから六秒が経過しようとした瞬間、盾に強い衝撃が走りそれと同時に『罪を喰らう者クライム・イーター』は常人離れした瞬発力を駆使し、女神を横から抱えその場から大きく跳躍する事でその攻撃を回避した。

 その場で鉛玉を受けた盾には鉛玉が貫通した跡が残っており『罪を喰らう者クライム・イーター』は思わず煩わしい表情を浮かべている。



「クソッ!どんだけスナイパー泣かせなんだあいつ?」


 崖の上にてラックは再度仕留め切れなかった『罪を喰らう者クライム・イーター』に愚痴を溢し再びその場から移動を開始する。

 するとそんなラックに再び李仁がどこからともなくフォローを入れる。


「惜しかったですね。今のは相手を称賛しましょう」


「まあ……確かに。にしてもあの敵は何者なんだ?強い奴とは聞いてたけど予想以上だよほんと」


「得体が知れないとはまさにこの事ですね。僕がリューアさんから聞いた時はあんなに武器を展開するなんて聞いてもいなかったですしとにかく慎重に行きましょう」


「そうだな」


 ラーゼは崖を降りながら再び森の中に入り込み仄暗い木々の中にその身を隠して好機を待ち始めた。


「所であと何分で上書きとやらは終わるんだ?」


「予定通り三分で終わらせます。なので後一分欲しいです」


 李仁がいる部屋では絶えることなくタイピングの音が響き渡り一音が響く度に李仁の眼鏡のレンズに映る光景は目まぐるしく変わっていく。

 そんな事をしているにも関わらずため息ひとつ付かず更には会話をしている李仁に対して最低限ラックはその努力には答えなければと考え再びスナイパーライフル越しに戦場を覗き見る。

 しかし移動中戦場では怒涛の展開が繰り広げられており────


「この間に何が起きたんだ……?」



 時はラックが移動を始めた直後に遡る────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る