第28話 『星を魅せる者』


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 天界、とある場所にて。『罪を喰らう者クライム・イーター』の作成者とその作品の命を狙う騎士が邂逅した時と同時刻────


「何?どういう事だ?」


「詳細な事はまだ分かっておらず……しかし必ず何かが起こるでしょう」


 部屋の一角で『罪を喰らう者クライム・イーター』を殺すために作成したフィールドから一旦戻ったリューアがその部下と思わしき男の報告を聞いて僅かながら顔を歪ませていた。


 『罪を喰らう者クライム・イーター』によって行われた女神の大量虐殺の件により一時的に女神が配属される部屋の警戒が強くなっていたのである。

 『罪を喰らう者クライム・イーター』に利用されている女神は今後の動向次第という事になりリューアからすればすぐさま助けたいという気持ちも山々だったのだが周りの神達の様子見という意見が大多数を占め、とりあえずはその形で保留となっていた。

 最もその決断は悪手となり女神は『罪を喰らう者クライム・イーター』に協力する事を決意したのだが今の彼らが知る由も無い────


 一方でこの部屋の警戒の強化は緊急事態に気付くという意味では功を成し、直ぐ様この緊急事態にリューアやその部下は気付けた訳である。

 その内容は『罪を喰らう者クライム・イーター』が突如部屋に姿を表し、またその黒幕と思わしき人物も現れたとの事だった。


「すぐに俺が手を打とう。これ以上死人は出させない」


 リューアは言葉通りすぐさま思考を巡らせ、その場に最も適した回答を探り出す。

 この件の裏に居る者の正体を考えれば無策にその他の騎士達を向かわせても命が無駄に散るだけと考えすぐさま部下にはそれ以外の命令を与える。


「君達は一刻も早く使徒十二神祖のうちの誰でもいい。一人だけでも構わないから助力をするよう連絡を続けてくれ。緊急事態だ。早急に取り掛かろう」


「御意」


 リューアの命令を聞くと同時にその部下は音速の如くその場から消え去り同時に周りの仲間達に今の命令を通達していく。

 そしてそれに連動する様に周りの部下の何人かが魔力回路を広げてリューアの命令通り使徒十二神祖のメンバーに通信を図る。

 そしてその通信は思わぬ形で直ぐに成立した────


【やあやあ、こちら『星を魅せる者ステラ・ビジョン』。君達の度重なる熱いラブコールに渋々お応え中だよ。かなり忙しいからあまり仕事には期待しないでくれよ】


 リューアの部下達の焦りとそれによって生み出されたスピード感をガン無視したような実にゆっくりで何処となく投げやりな態度が魔力回路を通じて響き渡る。


 しかしそんな態度に部下達は愚痴をこぼすわけでもなく希望の目を光らせてすぐさまリューアにその回路を受け渡す。


「リューア様、『星を魅せる者ステラ・ビジョン』ことフィーリアさんに連絡が付きました。すぐさまお繋ぎ致します」


「そうか……頼む!」

 リューアもまたその言葉を聞いて一安心したような声を上げてフィーリアと呼ばれた男との会話を始める。このリューアと部下達の対応からもどれだけ信用が寄せられているのか容易に想像ができる程フィーリアと呼ばれる男には部下達の期待が寄せられていた。

 しかしその期待は────


「久しぶりだフィーリア!早速で悪いんだが────」


【断る】


 意気揚々と語り始めたリューアの言葉を僅か数秒でフィーリアと呼ばれた男は要件も聞かずに遮った。

 その反応に思わずリューアは一度口をくぐもらせて苦笑いを作りながら冷静にツッコミを入れる。


「まだ内容言ってないんだが……?」


【内容も何も無い。リューア。君の頼みは大抵面倒だ。それを僕は特に知っている。だから君に回路が繋がった時点で僕は断る魂胆こんたんだった訳】


「そう言うなよ……古い付き合いじゃ無いか」


 そんなフィーリアの失礼極まりない態度に対してリューアは毎度の事で慣れているかのように特段怒りを露わにするわけでもなく淡々と会話を続けていく。


【古い付き合いだからこそだ。君が直々に頼みを申し入れるなんてよっぽどの事じゃない限り無い。しかも使徒十二神祖全員に連絡を入れたらしいじゃ無いか】


 どこで全員に連絡を入れている事を知ったのだろうと部下達の間で少し話題になっているがそんな事はさも当たり前のようにリューアはその事について言及をせずに更に会話を続けていく。


「今全員立て込んでいるのは重々承知だ……!しかし事は一刻を争うんだ。フィーリア、君の力が必要だ」


【ローザスの魔力を感知したのは僕も同じさ。だからこそ断る。僕は彼にはもう直接関わりたく無い】


 ローザスという聞き慣れない人名が出た事により更に部下達の間では喧騒が広まるがそんな中リューアはその名前を聞いた瞬間、一人だけ実に悩ましい顔になっていた。


「しかし……そうも言ってられない。彼の魔力が関わるとなれば相当裏でデカイ何かがうごめいている事になる。君達の中の一人がこの件に当たらなくては駄目なんだ……!」


 ここまでの会話の中で特に力を込めた言葉をリューアは放ち、その真剣さは辺りの喧騒を一旦静まり返らせる程に誠実なものであった。


【断る】

 

 しかし魔力回路の向こう側で喋る男は尚も頑なに拒む。

 次第に部下の一人が「冷たく無いか?」などとささやき始め瞬く間に再び喧騒が起こり始める。


「本当に使徒十二神祖なのか?」

「こんな人だったんだ……」


 などなど一人一人の考えが思い思いに渦巻き始める。

 そんな最中、その渦巻きをたったの一言で封じ込めた言葉が放たれた。


【とは言ってもだけどな】


 その言葉に部下達は何を言っているんだという顔を露骨に出しているがそんな中一人口元を緩めて次の言葉を待つ男がいた。まるでその言葉を最初から待っていたかのように。


【相変わらず君は面倒な奴だ。心底。世界最高の深さを誇るマリアナ海溝の深さじゃ足りないぐらいね】


 男は実に面倒な態度を取っているがやはりリューアはそれをいさめる事はしない。それどころが彼の口から言葉が発せられる度に口元の緩みが悪化している始末であった。


【ローザス絡みとなるなら『死神ブラック・モルテ』に連絡を入れてみよう。恐らく君達の魔力回路には彼の今いる的に連絡は繋がらないだろうから。だから今回は特別に僕が直々に連絡を入れよう。その代わり条件がある】


「ありがとう、なんでも言ってくれ」


 リューアはこの流れをまるで予想していたかのような自信に満ちた顔付きで相手の要望を聞き出す。

 そしてそんなリューアに少なからずの煩わしさを感じながらもどこか喜びを取り混ぜた感情を抱いてフィーリアはその要望を口に出す。


【少なくともこれから三年は僕に連絡を入れるな!】


 煩わしい事柄から解放された喜びを実にわかりやすく体現した勢い余る言葉を口にし、その言葉を言い終わるや否や一瞬で魔力回路を断ち切った。

 周りの部下達は結局なんなんだこの人という感想を抱いているような顔付きをしている。

 噂では『星を魅せる者ステラ・ビジョン』はリューアの右腕であり今現在最も古い仲でありその実力は使徒十二神祖の中でも卓出しているという話があったのだった。


 しかし蓋を開けてみればその噂を真正面から切り裂くような態度から滲み出る怠惰っぷりである。


 そんなフィーリアとリューアの一通りの会話を聞いて周りの部下達の顔が固まるのは必然的だったのやもしれない。

 しかしその後部下の一人が遅れて会話の内容を思い出して歓喜の表情を露わにする。


「使徒十二神祖の一人、『死神ブラック・モルテ』を呼び出してくれるのか!?」


 そういえばそんな事を言っていたと遅れて周りの部下達も気付き一瞬の内に再び『星を魅せる者ステラ・ビジョン』ことフィーリアの株は本人が知る由もなく上がる事となった。


 その反応を見てリューアも一安心したのか次の段階に足を踏み入れた。

 すぐさま別の魔力回路を展開しある相手との通話を試みる。

 その相手はすぐさまその通話に応答し声を上げる。


「なんでしょうリューアさん」


李仁りひと。緊急事態だ。すぐさま戦闘隊形を作ってくれ」


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