第26話 転生者達と一人の天才


 フィールド内 地上にて────


「なあ、ぶっちゃけあのメガネ君どう思う?」


「どうもこうも無いでしょ。こんな事に無理矢理巻き込んでくれちゃってさ……俺は早く元の世界に帰ってスローライフを満喫したいんだよ……」


 フィールド内。主に地上は深い木々に囲まれており戦闘面では遮蔽物しゃへいぶつの多さが圧倒的に目立つステージであった。

 場所によってはあまりの木々の多さに空に鎮座ちんざする太陽の光すらも届かず、一部だけ闇夜なのかと錯覚する暗闇すら存在している。

 そんな森の中で今回の件で収集された転生者の内の二人が木々に背中を預けながら今回の件の了承を勝手に答え、あまつさえ他の転生者の参加を余儀なくさせた普通の人間、灰羽李仁はいばね りひとについて話し合いをしていた。


「まあ、確かに……強気なのは良いけど勝手に巻き込むのはなぁ……俺は良いけどラックさんみたいな人からしたら溜まったもんじゃ無いですよね〜」


 その内の一人、歳は十七程の好青年に見える少年が目の前の最高神と呼ばれていた男が事の詳細を話している時からやけに陰気な雰囲気を放っている髪が男性とは思えない程長く、側からみれば女性にも見えるラックと呼ばれている男と話しをしていた。

 その一人の髪が異様に長いラックと呼ばれた男は肩に自身の身長は優に越えていると思わしきスナイパーライフルを構えているのが実に深い印象を与える人物であった。

 ラック自身、身長はパッと見ただけでも百八十はあると思われそのスナイパーライフルがいかに長いものなのかを証明していた。

 そんなスナイパーライフルに目を向けながらもう一人の少年は言葉を続ける。


「でも……そんなセリフ、スナイパーライフル持ってる人が言っても信憑性が無いと言いますか……」


「まあ確かに……俺もそう思う……。でもこれが無いと俺は仕事が果たせないし、駆り出されちゃった以上成果は出さないと暗殺屋としてのプライドが泣くんだよ」


 ラックはスナイパーライフルを揺らしてカチャカチャと遊ばせながら自身の仕事の信念を説き始めた。その目には先程の気怠げで陰気な雰囲気を放っていた人物とは思えない何か熱いものを青年は感じ取っていたがそれと同時に今の会話の中で放たれた彼の職業について若干怯えつつ、その仕事についての言及をせがんだ。


「暗殺屋って……何かラックさんの性格とチグハグじゃ無いですか?」


 青年にとっての暗殺屋と言えば常にあらゆる組織から託されるが故に都合が悪くなった場合は切り捨てられ最悪の場合死におとしいれられる危険性がある職業のイメージであった。現に青年はそんな映画を生前に見ていたので尚更そのイメージは強かった。


 それなのに目の前のラックはそんな職業をスローライフ呼ばわりしている事に酷く違和感を覚えたのだ。


「まあ……否定はしないよ。でも俺はあの世界ではなんだ。『黄泉の体現者デス・キャリー』なんて巷では呼ばれてたよ」


「じゃあなんで……」


「俺は、依頼者に顔を見せないし雇い主にすらその顔は見せない。街を出歩く時は常に深くフードを被って歩く。それ故に顔を直接見られることはまず無い。俺の世界には防犯カメラなんて無いしな」


「でも殺す時相手から見られたり……」


「しないよ。俺は仕事の時殺すターゲットから必ず十五キロは離れるし必ず一発で仕留めるから」


 淡々と紡がれたラックの言葉に青年はその冷淡れいたんさに恐怖を覚えると同時に強い歓喜を覚えていた。


「じゃあ、今回の仕事もラックさんが仕留めればすぐ終わりますね!」


「こんな遮蔽物だらけの所で本領発揮できるのかはわからないけどな」


「成る程……!じゃあその遮蔽物を打ち消してお相手さんの隙を作るのが俺やあの狼さんの役割って訳ですね!」


 青年のこの深い森で遮蔽物を打ち消すという突拍子もない言葉にラックは少し驚いた表情を露わにしたが自身も神からギフトを与えられた身として恐らくこの少年も何らかの力を付与されているのだろうと考え疑う事はしなかった。


「ああ、期待しておくよ。ええと……」


和馬カズマです!」


「そうか、頼むよ和馬」



「何だ何だ?俺達を省いて二人で作戦会議か?」


 二人の話が一旦盛り上がりを抑えた所で木々の隙間から二つの影が現れた。


 一人は獣の姿を纏っており明らかに今回収集されたメンバーの中では異彩な空気を放っているがその性格は打って変わって社交的で明るく誰でも接しやすいタイプの男だった。本人曰く獣人に転生する気はさらさら無かったらしい。


 そんな獣人とは打って変わってラック同様陰気な空気を放っている生きているならば大学生程に見える青年が後ろから顔を覗かせている。


「まさか、ただの雑談だよ」


「そうそう!お互いを知る為のコミュニケーションっすよ!」


「うわ……陽の気配……」


 後ろから顔を覗かせていた少年が和馬の一言に足を若干後ろに後退させるがすぐさま前に立っていた獣人がその腕を掴み後退を許さなかった。


「まあまあそう言うなよ!これから一緒に戦う仲間なわけなんだから仲良くやろうぜラーゼ君!」


 そう言って自身のモフモフの腕をラーゼと呼んだ少年の腕にわしゃわしゃと押し付けている。

 ラーゼはその腕に「ちょっ!やめて!猫アレルギーなんだよ!」と頭の腕を退かそうとするが獣人、周りからはフリークと呼ばれている狼はその腕を退かすことなく「俺は猫じゃねえよ!どっちかと言えば犬だろ!」とツッコミを入れている。

 そんな二人の光景を見てラックと和馬も笑い合っている。


 そんな空気の中にもう一つの声が突如として現れた。


「皆さん、仲は良好の様ですね」


 突如として四人の頭の中に事の発端を生み出した灰羽李仁はいばね りひとの声が響いた。

 ラーゼはすぐさま「何処が……!」とツッコミを入れるが周りの三人はどうやって頭の中に直接言葉を送っているのか不思議そうな顔をしている。


 その不思議な顔に答えを投げつけるように李仁は今の状況の解説を始めた。


「このステージは今さっきでは完成されました。なのでこのステージのゲームマスターを任された僕の思うままって事です。例えば今みたいに皆さんの脳内に語りかける事もね」


「表面上……なんか企んでる言い方だな少年!俺の獣の勘が言ってる!」

 李仁の言葉にフリークは咄嗟に反応し李仁を目視できないので何となくの方向に言葉を投げかける。


「ええ。というか獣に転生するとその五感も獣として進化するのですね。戦いに思う存分活躍できるよう頭に入れておきます。そんな事はさておきその通りです。表面上で完成していても完全勝利パーフェクトゲームはなし得ません。ならどうするか……このゲームを都合の良いように作り変えましょう」


「ほう……?どう作り変えるかお聞かせ願おうか」

 ラーゼは李仁を信用していないのか相も変わらず陰気な雰囲気を露わにしながら訝しむように質問を投げた。


「そうですね、まずは僕に────」



「その命を貸してくれませんか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る