第25話 Preface


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「お前、あんな大口叩いたんだからこのゲームじゃ誰よりも活躍してくれよ」


「ほんと、勝手に巻き込んでくれちゃってさ。しかも君は転生者じゃないんでしょ?」


「ハハ!まあ良いじゃねえか!活躍してくれりゃ文句はねえよ!」


「これで死んだらどうしてくれるんだよ……」


 大きな通路の真ん中を四人の男と一匹のが歩いていた。狼は普通の人間が見れば違和感を感じざる負えない見た目であり、まずは口で人の言葉を話しており更には大きな笑い声すら上げている。

 他にも二足歩行をしているなど違和感を挙げればキリが無いのだが周りの男達は特にそれにツッコミを入れることも無く淡々と会話を続けていた。


 そんな会話の最中に気弱そうな髪が一際長い女性のような見た目の男が事の発端を生み出した転生者では無いに愚痴を零した。


 死んだらどうするのかという問いを聞いてメガネが特徴的な転生者では無い普通の人間は迷う様子も無く淡々とその愚痴に自身の言葉を返した。


「僕がゲームマスターである以上、誰も死なせませんよ」


 予想以上に淡白に告げられたその言葉に転生者達は顔を見合わしその内の獣人がせきを切ったようにドット笑い出した。


「それはそれは頼もしいぜ!ハハッ!転生者でもねえお前さんが一番頼もしいぜ」


「頼もしいなんてまさか。僕は戦闘になれば安全圏からただ指示を飛ばしたりゲームをだけですから。前戦で戦うあなた方の方がよっぽど頼もしいですよ」


 そんな獣人のテンションに揺られることも無く淡々と言葉を紡ぐ普通の人間は最後に顔を引き締めて目標を呟いた。


「目指すは、完璧勝利パーフェクトゲームですよ」


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「どうして転生者の中に普通の人間を混ぜたのでしょうか……?」


「少し面倒事が重なっていてね。人を派遣出来ないんだ。出来れば今回は使徒十二神祖しんそを向かわせたかったんだが全員連絡が中々付かなくてね」


「はい!?あの使徒達を!?」


 先程転生者との会話が繰り広げられていた大きな部屋で女神と最高神と呼ばれていたリューアが二人で会話を続けていた。

 そんな最中リューアの言葉から放たれた単語に対して女神が一際大きな声で驚きを露わにした。その挙動からしても彼女にとってリューアの言葉がいかに不可思議で常識外れなのかが窺えた。


「で……でも、そんな重大な事なのでしょうか?」


「まぁ……彼の魔力が感じられたって言うのもあるし……念のためだけどね。裏に何か面倒な奴が潜んでいる気がする」


「しかし……リューア様に選ばれたこの世界の基準を調律する人智を越えた方々が出向く程では……」


 女神の最もな意見にリューアは少し顔を逸らしながらその意見に自身の言葉を肉付けた。


「僕は心配性でね……特にが絡むとね」


 そうして同時にリューアは最初の質問への回答を始めた。


「普通の民を巻き込むのは些か仁義が許さない所もあったが……そうも言ってられない。偽りの神の件やフィル・デルシアの件。そして二千二十二年、北国で起きた沙羅さら家で起きた身内殺しその他諸々……中々他の面倒ごとで戦力を当てられない。そこで彼を頼った訳だ」


「彼……あのメガネをかけた普通の人間にそこまで期待を寄せている理由とは?」


「彼は条件さえ揃えば使徒達と同じ力を発揮するよ」


「えっ!?そんなに……流石に買い被りすぎでは?」


「条件さえ揃えば、だよ。そのための条件を彼に提供してあげるのさ。必ず彼を死なせはしない、そんなフィールドをね」


「フィールド……?」


「そう、ゲームフィールドさ」


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 数十分後、作成されたフィールド内にて────


「この時間でここまでの空間を作り出せるんですか」


「それはもう神様だからね」


 フィールドを一面見渡せる上空にてリューアとその彼は期待を寄せられている転生者では無い普通の人間が話をしていた。


「未だに信じられませんよ、神様なんて」


「そうは言われてもいるものはいるのさ。目に映るものが全てだよ」


「そういう所ですよ。貴方は何故か、神様らしくない……」


 リューアの軽い振る舞いに彼は純粋な疑問をぶつけた。普通の神なら今の人間の振る舞いに顔を顰める所だがリューアはそんな事は微塵も気にせずその質問に笑いながら回答をした。


「なんだなんだ、堅苦しい方が良いのか?」


「いえ、そう言う訳じゃ無いですけど」


「ハハッ、わかっている。昔、友人にも君と同じ言葉を言われたことがあるよ」


「友人……?」


「ああ、俺の唯一の友だ」


 リューアの何かを懐かしむ顔を普通の人間は横目で伺い質問を投げかけようとしたがそっとその言葉を胸の内に抑えた。自分が知っても特にならない、踏み込んではいけないプライベートゾーンのようなものを彼なりに感じていたのであろう。

 そんな人間を見兼ねてリューアは少し申し訳無さそうな表情を露にしたのち、会話を発展させるためにある質問をした。


「そういえば君の名前をまだ直接聞いていなかったね」


「事前に知っているでしょうに」


「何、直接聞く事に意味があるのさ。名前とはそういうものだ」


 実際リューアは彼を選ぶ際に名前や性格まで全てに目を通していた。それでもリューアは彼に名前を問いた。

 人間はその言葉になんの不快感も思わずそっと、その名前を口にした。


灰羽李仁はいばね りひと


「そうか、李仁。これから少しの間だが君の力を貸してくれ」


「ええ」


 二人は最後に軽い握手を交わし再度フィールドに目を向けた。


 これから歯車がまた大きく、そして歪に周り出す運命のフィールドを────


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