第15話 Past - Finish...?


 彼の思想はイジられていた。


 気付かぬうちに神の劣悪な思想に染め上げられていたのだ。


 彼はもう……この世界に存在していい様な正義を振りかざす人間では無くなっていた。


 リクは次の場所へ向かう。

 正義を喰らう為に。されど正義を振り翳す為に。



 八時十二分────


「お前……なんでここに居るんだよ?学校辞めたんだろ?」


 リクは同級生の一人を殺害した後にすぐさま次のターゲットの元へ向かっていた。

 そのターゲットとは先程の同級生と同様、同じグループにいたメンバーの一人だった。


 そんな彼は目の前に突如として現れたリクに殺されるとも知らずにおちょくる様な態度で言葉を投げかけている。


「暴れたくなったとかやめてくれよ?そういうキャラ作りしたいとか思ってるなら痛々しいしさ────」


 突如として、目の前に銀色の閃光が走った。


 何が起こったのかわからないまま同級生は疑問の声を少しあげるが徐々に痛みが遅れてやって来て何が起きたのかを理解した瞬間疑問の声は大きな恐怖の声へ変わった。


 彼の首は切られたのだ。


 リクの右腕には細いカッターが握られており、その銀色の刃には若干の赤い血が滴っている。


「おま……なんで……」


 際限なく流れ出る血を手のひらで押さえながら同級生はリクに質問を投げかける。


「なんで?なんでってそりゃ……あれ?なんでだろうな」


「……は?」


 リクの解答に同級生は心の底から疑問の声を上げるがそれを見てリクは言葉を再度紡いでいく。


「理由って大事か?俺にはもう何が何だがわからなくなったんだよ。冗談じゃないぜ?俺は俺じゃない気がするんだ。なんかが狂ったていうかさ、まあだから考えるのは後だ。理由なんて後付けで充分だろ」


 リクのそんな解答に同級生は顔を赤くしながら叫ぶ。


「ふざけるな!そんなんでこんな……こんな!」


 叫ぶ度に喉からでる血が荒ぶるがそんな光景を見てもリクはまるで人形の様に顔を変えなかった。

 それはまるで人格を奪われているかの様に。


「そうか……でもそれはこっちのセリフだろ?」


 喉から血が出過ぎたのか同級生の口が上手く回らずにおまけに視界まで暗くなっていく。そんな状況で同級生は疑問を投げかけるかの様なうめき声の様なものをあげてリクの顔を覗いた。


「お前達は俺と同じ理由で俺の人生を棒に振ったんだろ?ならいいじゃないか……」


 そうしてリクはもう少しで出血多量でコイツは死ぬと踏んだのかその場をゆっくりと歩き出した。


 後ろでは声にならない声を上げている同級生の姿があるが今のリクにそれを思う程の感情はない。


 リクはそんな同級生を細い目で、まるでゴミを見る様な目で睨みつけたのち、その場を後にした。


 八時十四分────


「三人目はお前か」


 リクの瞳に三人目の元同じだった同級生が映った。

 その同級生は最初に自分に嫌悪の言葉を投げかけた人物であった。


「学校辞めたって聞いてたけど……」


「そうだな」


「じゃあなんで……」


「何でだろうな」


 淡白な会話が続いていく。


「復讐とか辞めてくれよ!俺はその……」


「復讐か……どうかな」


「なんだよそれ」


「さあな」


 淡々とした会話が続く中でもリクの目の奥には確かな殺気が宿っており、右手に握っていた小型カッターをどのタイミングで相手の首元に伸ばそうか常にタイミングを測っていた。


 目の前の殺そうとした同級生は道の脇にある階段に少し上りリクから少しずつ距離を取りながら会話を続ける。


「まあ、取り敢えず何の様?」


「知ってどうする」


「場合による……かな」


「そうか……じゃあ敢えてハッキリ言う。今すぐその首元を切り裂いてやる」


「んな事だと思ったよ!」


 同級生は殺されるとまでは考えていなかったが何かしら自分に危害を加えてくるかもと考えていた為すぐに階段の上へ走り出していた。

 その光景を見てリクも同級生を追う為に階段の上へ駆け出していた。

 リク自身は気付いていないがその体もタチの悪い神によって一時的に弄られている為身体能力が通常の何倍にも上昇していた。


 同級生が階段を登り切った辺りでリクが後ろに追いつき、服を鷲掴みにして前へ進むことを強制的に終了させた。


「放せ!」


 同級生は振り返り、リクの腕を掴み抵抗を試みるがリクの腕は全く動かず、何なら力が更に強まっている始末だった。


 リクは顔色を一切変えずに同級生の身体を押さえ込んでいたが一瞬だけ身体を離し、すぐさま自身の腕を掴んでいた腕を振り払い瞬時に相手の両腕を今度は逆に片手で掴んだ。


 ────ヤバッ……!


 同級生は両腕を相手の片腕で抑えられている現状にすぐさま危機感を覚えた。

 相手の片腕は空いている。

 そしてその片腕はゆっくりと後ろポケットへ回され何かを掴む様な動作をしたのち、ゆっくりと引き出される。その手の中には鋭利な銀色のカッターが握られていた。


「お前!マジで殺す気かよ!」


 身体を揺らしたり脚で蹴りを入れるなど必死の抵抗をするがリクの顔は一向に歪まない。

 先程から変わらない表情は逆に同級生に恐怖感を与えた。


「お前の正義を喰うために────」


 そうして、リクがカッターを首筋に伸ばした瞬間、横から衝撃が訪れた。


 リクは華麗に宙に舞った。

 坂を繋ぐ階段の上を仰向きの形で堕ちていく。


 ────あれ、俺何して……


 リクはふと我に帰るとそこには同級生がおり、一人は腕を抑えながら今にも泣きそうな顔をしている。

 もう一人、即ち自分を階段の上から落とした人物はこちらをゴミの様に睨みつけている。


 ────あぁ、死ぬんだなぁ。


 ある程度の高さを誇る階段の上から落ちたのでリクは自身が死ぬと言うことを嫌でも理解させられた。


 ────あれ、


 次の瞬間、リクの頭の後ろに強い衝撃が走り、ほぼ即死という形でこの世から姿を消した。


 その後のリクは女神との会話を交わし、転生者となり第二の世界を闊歩かっぽする訳なのだがそれはまた別の話である。

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