第14話 Past - Alternative


 次の日、リクの目には信じられない光景が映し出されていた。


「なんだよこれ……」


 リクのスマホに入っているメッセージアプリに突如辞めた筈の学校の同級生から連絡が入ったのだ。

 そのメッセージに目を通すとリクはあの喧嘩の時と同じぐらいの絶望感を感じていた。


 メッセージの内容は一本の動画のURLに「これお前だろ?」と一言付け加えられたものだった。


 その動画のURLをタップすると大手動画投稿サイトに移行し、その画面には昨日起こったリクと同級生の喧嘩の様子が映し出されていた。

 しかしその内容はあまりにも悪意のある撮り方でありそれはまるで────


「これじゃあ俺が一方的に殴ってるみたいじゃないか……!」


 体を揺らしながら殴られ続ける同級生に追い討ちの如く自身が拳を突き出している。

 それは誰がどう見ても明らかにリクが言い訳の仕様がない程悪者に見えた。


 そんな動画を見ていると突如部屋に母親の声が響いた。


「さっき学校から連絡が入ったのだけど……あなた何をしたの?」


 母親は今にも泣きそうな顔で自身のスマホを握りしめている。

 文字通り先程学校側から動画について言及されたのだろうとリクは瞬時に理解すると同時に言葉を失った。


「か……母さん……違うんだ……これはっ……ちっ、違ッ……違うんだよ……そう、違うんだ……」


 リクは母親の目を見る事が出来ずに下を向きながら否定の言葉を重ねるがそれはなんの弁解にもなっていない。


「あなた、学校でも何をしていたの?」


 ────違うんだ、違うんだ。


 ────悪いのらアイツらで……俺は俺はただ……!


 言葉が浮かぶがうまく喉元を通過せず口籠もってしまう。


 そうしてリクはその場に耐えられなくなり突如走り家を出た。

 母親の横を横切った直後「どこにいくの!」と聞こえて来たが敢えてリクは無視をし、夢中である場所へ向かった。


 ────現在時刻は八時四分……登校時間だな!


 リクは動画を撮影していた事実の確認とそれを土下座してでも消す様に促す為、昨日殴った同級生の元へ走り出していた。

 これ以上親に迷惑もかけられない。何としてもあの動画は削除させる、その一心で激しく酸素を取り込んでは二酸化炭素を放出させる。


 最もそんな行為をした所で動画を撮ったのは悪趣味なであり、リクにはもうどうしようも出来ない歪な歯車のパーツに強制的に加えられている訳であり、もうどう足掻いても手遅れなのだが彼はそれを知る由もない。


 一心で走っているとその同級生と見事に鉢合わせをした。


 同級生の顔は所々に絆創膏が貼っており、昨日の傷を彷彿とさせ中々に痛々しい外見になっている。


「お前、ことごとく不運なやつだな」


 同級生はリクよりも先に口を開き今回の件を心底哀れむ言葉を口にした。

 露骨な喜び方などはしないがその表情は確かに笑っているように見える。

 リクはそんな同級生に殴りかかる事などはせず呼吸を整えたのちに、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「あの動画────」


「あれは俺じゃねえ」


「え?」


 リクが聞こうとした内容をすぐさま同級生は否定したので思わず疑問の声が浮かんだ。


「じゃあ誰が……」


「知らねえ」


「んだよそれ……」


 この時のリクの頭にはまた周りの奴と協力して自身をおとしいれようとしているのだろうという考えが浮かんだが、そんな苦虫をグッと噛み潰しリクは膝を地面につけ、続いて頭を地面に落とし土下座のポーズを取り、動画の削除を懇願した。


「お願いします……消してください」


「だから俺は知らねって。こんな所でそんな事やめろ」


 同級生が周りの視線を気にして頭を上げる様促すが、リクは一向に頭を上げることをしない。


「本当にお願いします……家族にだけはこれ以上迷惑をかけられないんです」


「わかんねえ奴だな!俺は知らねえって!」



「じゃあ誰が撮ったんだよ!」



 同級生の言葉が言い終わると同時にリクは勢いよく立ち上がり再びその襟を力強く掴んでいた。


「知らねえ!少なくとも俺はな!他のやつに聞け!」


「んな訳ねえだろ!どうせまたグルでやってんだろ!動画を載せたのも拡散したのも全部!全部!全部!」


「放せよ!お前のそういう自分の意見を押し通そうとする所もうざいんだよ!」


「うるせぇ!人の人生めちゃくちゃにしやがって!ぶっ殺してやろうか!」


 気付けばリクは昨日より数倍強い力で同級生の首元を掴んでいた。

 同級生は次第にその力によって呼吸に困難をきたし、嗚咽の様な声を上げている。


「お前らがいなければ……こんな事にはならなかったんだ……」


「やっ……やめ……」


「お前達とがいるから母さんや身内の人が困るんだ」


「なっ…………」


 同級生は頭の中で今何が行われようとしているのかを瞬時に理解し必死に体をバタつかせて抵抗するが不思議とリクの力は常人のそれを同級生は全く抵抗出来ずにただ苦しむだけであった。



「殺してやる」



 確かな殺気と共に放たれた言葉は同級生を絶望に堕とす事は実に容易であった。

 同級生はこいつはマジで殺すつもりだと察し、更に抵抗を試みるがそれを無念に終わる。


 気付けば河川敷の上の道と川沿いの道を結ぶ長い階段の前に立たされておりリクはその何十にも及ぶ階段の前で同級生を落とそうとしていた。


「やめ…………て……くだ……」


 同級生は最早命乞いを始めているがリクにその言葉は届かない。

 リクは昨日以上に狂気を孕んだ目で同級生を睨みつけ、そして次の瞬間その手をいともあっさり離した。


 同級生は呼吸困難と血の巡りの悪さが急に解消された為、よろめき、そしてその結果階段の上から勢いよく落ちていった。


 その時の同級生の目には確かに、怨みが込められていた様に見える。

 しかしリクはそんな同級生を見てもその時は特に動じなかった。


 勢いよく落ちた同級生は階段の下で頭を打ったのか血を流しながら倒れ伏している。

 そんなドラマの様な光景を見て初めてリクは自身の過ちに気づいた。それと同時にある狂った決心を翳す。


 ────そうだ、アイツらの正義を俺の正義が残るんじゃないか。


 常軌を逸したその発想を咎める者は今ここにはいない。

 彼の信念が完全に狂い、捻れた。


 しかしそれは彼の




「いやぁ、え?あんなに狂う?僕が彼の頭をってのもあると思うけど……ハハッ!笑うよあんなん!」


 彼……否、神は高らかと笑う。

 これから起こる序章に期待を馳せて。



「あと何人殺すのかな〜?楽しみだな〜」

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