第7話 スキル【×××】


「スキル発動『模倣イミテーション』」


 『罪を喰らう者クライム・イーター』が迫り来る中、男は微かにスキル発動の言葉を呟き、同時に先程の動きからはな有り得ないスピードで後ろへ下がった。


 ────何……?


 その一連の動きを見た『罪を喰らう者クライム・イーター』は一度追撃をストップし、訝しげな表情で今起こった現象を頭の中でおもいみていた。


 明らかに今までには無かった動き。

 しかし、その動きには何処か


 一連の動作を『罪を喰らう者クライム・イーター』はすぐに理解すると同時に厄介だと感じ、訝しげな表情は更に極まった。


 ────此奴、俺の動きをコピーしたのか。


 感覚的に感じた自身と全く同じスピードと身体の往なし方。あまりにも全てが自身と似過ぎていた。


「雑種風情がコピーまでするとは、思い上がりもここまで来れば清々しい物だな」


「えっ?もうバレたの?速くない?今までの敵で初めてだよ、一発で見抜かれたの」


 『罪を喰らう者クライム・イーター』は未だに心の底から絶望の表情が見受けられない転生者に対して「こいつはなるべく早く始末せねば厄介だな」と思考を張り巡らせ、再度戦闘体勢を取った。


 ────今までのスピードをコピーされたのなら、そのスピードを良いだけの事。


 『罪を喰らう者クライム・イーター』は姿勢を先程の構えからもう一段階低くし、まるで獣の様な構えを取った。

 それは第一の転生者を殺した世界で見せた城へ突っ込む際に見せた俊足、否、躍動の構えであった。

 あの時と同じ様に脚に多少の魔力を込めて、視線の矛先を転生者の元へ向ける。


 少なくとも、この時点では『罪を喰らう者クライム・イーター』の圧勝といっても良かったであろう。

 転生者があるスキルを使うまでは────


 『罪を喰らう者クライム・イーター』の身体能力を模倣したからなのか、転生者にはその行動が先程とは別次元なのではと思う程、行動の細密さが見て取れた。

 それと同時に多少の魔力が脚に込められている事にも。


 転生者は薄笑みを浮かべ、ゆっくりと向かってくる男に右手をかざした。

 そして、同時にある言葉を口にする。


「スキル発動『盗使スティール』」


 実にわかりやすく、単純。故に一番厄介と言っても過言ではない神から与えられたスキル。

 転生者の言葉が言い終わると同時に転生者と『罪を喰らう者クライム・イーター』の身体は同じ光に包まれた。


 『罪を喰らう者クライム・イーター』は何が起こっているのか一瞬足を止め、思考を張り巡らせたがコンマ数秒で考えている暇は無いと再び駆け出そうとしていた。

 彼は本能的に今ここで止まれば戦況的に不利な状況になると理解したのだ。故に再度光の向こうにいる男に駆け出す。


 しかし、己の身体が走る事を始めた瞬間にそれを越すかの様に違和感が走り抜けた。


 ────脚に、魔力が回らないだと……?


 嫌な予感が的中してしまった。

 『罪を喰らう者クライム・イーター』はすぐさま状況を理解し、見るからに不快な顔を浮かべ転生者へ鋭い眼光を飛ばした。


 光が消えていくうちに再度二人は邂逅かいこうを果たす。

 『罪を喰らう者クライム・イーター』は不快な顔を隠そうともせずに睨みつけ続けるが転生者は全く別の表情を浮かべていた。

 例えるなら愉悦、満悦、快感、悦楽 、恍惚、忘我、エクスタシー、法悦。

 その全てが当てはまるかのような圧倒的な喜びを顔で体現していた。


「貴様、模倣では飽き足らずに盗みを働くか」

 忌々しげに『罪を喰らう者クライム・イーター』は言葉を投げつけるがその言葉は今の転生者には聞こえていない。

 ただただ、愉悦に浸かっている転生者にその言葉は届くはずも無い。


「ハハッ、凄いな。こんな歪な魔力は……魔王にも匹敵するんじゃないか?いやはや……」

 男は己の脚を見つめながら感嘆の言葉を漏らし続けている。

 そして、ふとした時に『罪を喰らう者クライム・イーター』を見つめ直し、剣を構えた。


「第二ラウンド、かな?」

 転生者の満悦な表情は消える事なく、その態度のまま男へ戦闘開始の言葉を投げる。


「神も厄介な力を与えた物だ」

 『罪を喰らう者クライム・イーター』は怯む事なく、再度剣を構え直す。

 しかし、その力は圧倒的に────

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