第6話 Hunter × ???


「あぁ、もう始まるのか。仕事早いなあ」


 薄暗い部屋の中で一人の男が鏡の様な物を見つめながらぼそりと呟いた。

 鏡の中には『罪を喰らう者クライム・イーター』の姿が映し出されており、今まさに新たな転生者と邂逅する寸前の所だった。


「初戦は見逃しちゃったしせいぜい楽しませてよ?」


「僕の


 ×                         ×


 街中に住んでいる実力者達は様々な感情を浮かべていた。

 ある人は今までに感じたことのない程の恐怖を。

 ある人は今までに感じたことのない程の高揚を。

 ある人は今までに感じたことのない程の危機を。

 ある人は今までに感じたことのない程の違和感を。


 それぞれが思う所は違えどその感情の終着点は全て先程空から顕現した『罪を喰らう者クライム・イーター』に向けられていた。


 当の本人は転生者の魔力残穢が無いかを神経を研ぎ澄まして感知しようとしている。

 ごく僅かな魔力の特徴は転生者相手ならば簡単に男は察知できるのだ。

 最もそれは男にとってはなのだが今の彼はまだその後ろ盾を知らない。


 それ故に己の力ではないと疑念を抱くことすら無く男はその力を使用していた。

 しかしその力を使用している途中にその過程は必要が無くなった。


「わざわざ感知なんてしなくても出向くよ僕は」


「随分と余裕なのだな」


罪を喰らう者クライム・イーター』を名乗る男の前に鉄剣を携えた冒険者風のリュックや軽装を身構えた青年が現れた。

 その青年は男の感知魔術など使わずとも転生者とわかる様なこの国に住む者とは明らかに違った魔力を纏っていた。


「やはり、貴様も神の力を受け与えられた身か」


 転生者は人の魔術とはかけ離れた何処か歪で、しかし何処か神秘的な魔力を纏っている。


 男はそんな転生者を睨みつけながらいつ戦闘になってもいいように手に持つ前の世界から拝借した剣を強く握り締めている。


「君って何者?どちらかと言えば僕みたいな転生者に近いものを感じるんだけど……」


「貴様の穢れた血と俺を同類にするか雑種風情よ。その返答は万死に値すると知れ」


「おお、怖。めちゃくちゃに短気じゃ無いか」

 少年は男の素性、そして戦闘力を詳しく知る筈もないのだが、煽りを入れていく。

 その言葉に『罪を喰らう者クライム・イーター』は眉を顰めながら転生者に鋭い眼光を向けた。


「どうやら、余程おごり高ぶっている愚者の様だな」


「今まで俺に倒されてきた魔王やら他の勇者はみんなそんな高圧的な態度を取ってたよ。ほら、何だっけ?強い言葉ほど弱く見え────」


 転生者の飄々ひょうひょうとした態度に痺れを切らしたのか『罪を喰らう者クライム・イーター』が一気に転生者の目の前まで踏み込み、その剣を振り上げた。


 転生者は思わず剣を抜き出し、コンマ数秒のうちに剣を目の前に横側に構え、縦から振り下ろされる男の剣を止めた。


 ────うわ、こいつ強いじゃん。


 今の一瞬で理解できる。『速さ』が桁違いだと。


 特段魔力を使った様子を伺えないので転生者の顔には少量の汗が流れ始めていた。

 もし使転生者は余裕の表情を見せていた筈なのだが。


「チッ、めんどいじゃん!」

 転生者は振り下ろされる殺気を孕んだ剣を一気に力を入れる事で何とかなした。


 しかし、その次の瞬間から猛攻が始まる。


 往なされた体の重心は前であった。しかし男はその重心移動を逆手に取り、その場で一回転をしたのだ。

 身体の勢いを殺さぬまま、何なら威力とスピードが更に強化された剣が男の回転と共に転生者の元へ襲ってくる。


「マジ!?」


 転生者はあっさりと身体を斬られた。

 真っ二つに、上半身と下半身が離れされた。


 しかし、その違和感に『罪を喰らう者クライム・イーター』は気付いていた。その手応えの無さに。


 ────幻影紛いのものか。


 思考を張り巡らせた瞬間、後ろから再度転生者の声が響いた。


「君、ヤバイね。本気出さないとマジで死にそうなんだけど」

 先程の飄々とした態度は変わっていないが転生者の顔には明らかに焦りを象徴するかの様な汗が滲み出ていた。


「特有の魔術でも使用したのか」


「まあね、魔術とは少し違うけど固有スキル『幻影』だよ」


「ペラペラと詳細を話してしまって良いのか?次は逃がさんぞ」


「このスキルはそう簡単に見破られないのさ。この立地なら尚更ね」

 開けた野原に優しい風が吹いた。

 風は二人を吹き、両者の髪を軽く揺らす。


 まるで、二人の勝負を「仕切り直し」と言わんばかりに。


「じゃあ行こうか、スキル『冷却』」

 その掛け声と共に転生者の周りには冷たい冷気が立ち込み、その冷気は段々と形を成し、氷柱つららと化していく。

 氷柱は男の方へその矛先を向け、自動的に発射された。


罪を喰らう者クライム・イーター』はすぐさま常人離れした脚力から繰り出させる音速に等しいスピードで氷を交わしていく。

 当たりそうになるものは自らの剣で打ち払い、段々と距離を詰めていく。


 そんな『罪を喰らう者クライムイーター』が迫る中、男は新たなスキルを同時に発動していた。


「スキル『×××』」


 果たしてそれがこの戦いにおいて吉と出るか凶と出るかはまだわからないが───。

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