【本棚の夜会】

KAC2021第六回お題

「私と読者と仲間たち」


エッセイ、ノンフィクション

カテゴリー多めだと思いますが

現代ファンタジーで勝負!

2分で読めます。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


"あ、その本持ってるよ~!

明日会う時、持っていくね~♪"


本棚でひそひそとざわめく仲間たち。

持ち主が寝静まった夜

作戦会議が始まった。


「なぁなぁ、さっきの電話って最近できたご主人様の新しい彼氏だよな?誰か行ったことあるやついる?」


私たちの書庫のリーダーである、

川端が先陣をきって話し出す。


「この前、我輩連れて行かれそうになったんだけど…ご主人様バタバタしてて助かったのよねぇ~。ということは、あなたが初めてになるんじゃなくって?太宰さん。」


「あ、夏目さん置いて行かれていたねそういえば!まじかー、どうしよー、何か食べながら読むタイプのやつだったら嫌だよな…」


「俺が行った二つ前のやつは、指乾燥しすぎて…あーー!その先は言いたくない!!」


芥川が頭を抱えて身震いをしている。


私達、本というものは持ち主に大事にされると魂を持つということは、あまり知られていない。まぁ、バレないようにしているから知られるはずもないのだけれど。

そんなわけで、私たち紙の本は様々な悩みを抱えているのだ。


───翌朝

"さーて、これでよし!この前は頼まれてたやつ持っていくの忘れたから、今日は忘れずに持って行かないとね♪"


いつもより、入念に化粧を施した

我らが持ち主まーちゃん。

鞄の中に入れられた私は、仲間達に

別れの言葉をテレパシーで送った。


「それでは敵の偵察に行ってくる!

本好きに悪いやつはいないと信じて…」


「無事の帰還をお待ちしてるわ!!」

「危ないと思ったら、奥の手使えよ!!」

「太宰!偵察、頼んだぞ!!」


そして、デートの終盤いよいよ私が

引き渡される時がきた。


"ひーくん、これ!今日は忘れなかったよ~

また、感想聴かせてね♪"


彼女の柔らかな手から、ゴツゴツとした

男の手へと引き渡され、居心地の悪さと

これからどんな扱いを受けるのかという

恐怖により、体が強ばる。

よし、まーちゃんの為だ!

暫し我慢してやろうではないか。



"ただいま~、寂しかったでちゅか?"


電気をつけた男は誰もいないはずの部屋の中にむかって一人で帰宅を告げている。

すると、カラカラと何かが激しく回る音が

部屋に響き渡る。

な、なんの音なんだ?

まだ鞄の中に入れられている為

周囲の様子は確認できない…。

恐怖に震えていると、鞄の中に大きな手が

入り込んできた。よし、敵の配置を確認だ!


リビングのソファーの前に置かれた

ローテーブルの上に、投げられた俺。

彼女の本だぞ!!もっと丁寧に扱え!!

ひーくんと呼ばれていた男は、冷蔵庫から

ビールを出してくると、先ほどカラカラと

音を出していた物へと近付き手のひらに

何か小さいフワフワとした物を乗せて

ソファーへと戻ってきた。


"さーて、はむちゃん何して遊ぶ~?"


ネズミらしき生き物を腕に這わせたり

手の平に包んで頬擦りしている男…

部屋は綺麗に整頓されているし

そこはポイントが高い、フライパンなどの調理器具もきちんと用意されている様子から恐らく自炊もキチンとしているのであろう。


しかし、時折出る赤ちゃん言葉…

動物を心から愛でることができる人間

と言えば聞こえはいいが、私達のご主人

まーちゃんはこの男の本性を知っているのか?


"さーて、はむちゃん?パパはお風呂に入ってくるから大人しく待っててね?"


ん?パパだって?

こいつだいぶヤバいやつだ!!

どうにかしてまーちゃんに知らせたいが…


っって、今お風呂って言ったよな?

何で、私とビールを片手に風呂場に

向かっているんだこの男は!!

せめて、防水カバーぐらいつけてくれ!!

や、や、やめてーーー!!!


───二週間後

"まーちゃん、この本ありがとう!

いや~面白くて一気に読んだよ。

またお勧めあったら貸してね~"


ようやく、まーちゃんの柔らかな手に包まれた私は安堵の涙を流してしまいそうだ…。

早く仲間の元へと戻りたい!!

そして、あの男の悪行を皆に知らせねば!!


そして、まーちゃんが寝静まった夜。


「太宰、無事の帰還おめでとう!

…って体がボロボロじゃないか!

一体何があったというのだ…」


表面上は綺麗だが、中を開くと所々に見える破損の後。そう、読書は風呂でゆっくりとでも決めているのか、あの男は毎日のように私を風呂場へと持ち込み、湿気を浴びせた後…ネズミを私の上で遊ばせるという暴挙を繰り返していた…。

私の姿、話を聞いて戦慄く仲間たち。


「本当…酷いところでしたよ…。

あの男は、人間失格だ!!! 」


私の決め台詞を聞き沸き立つ本棚。

これから我々の復讐が始まる。

その物語はまた次回…

あなたの大切な本棚でも毎夜、本達の

夜会が開かれているかもしれませんよ?



~~~~~~~~~~


お分かりかと思いますが…

私→主人公の本(今回は太宰)

読者→読む人間

仲間たち→本棚にいる他の本

でした!!

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