【鶴子と種まきじじい】

カクヨム誕生祭2020

4回目お題「拡散する種」


鶴の恩返しのような

花咲じいさんのようなお話。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



"新しいニュースが入って来ました!

トイレットペーパーなどの紙製品が品切れの

ドラッグストアやホームセンターが全国で続出している模様です。原因はおそらく

今猛威をふるっている新型ウイルスに関する

SNS上での心ない匿名の書き込みが……。"



「お母さん!最近ずっとこんなニュース

ばかりで退屈だから、本を読んでよ~?」


『また~?仕方ないわね~

"新鶴の恩返し"始まり始まり~!』



むか~し、むかし、そこまででもない

むかしの事じゃった…。


"ギャー!ギャー!"


『なんだ今の鳴き声は?なんとも辛そうな

鳴き声が聴こえてくるぞ…?』


お爺さんが辺りを見渡してみると動物を捕まえる為のワナに、一羽の鶴がかかっているのを見つけました。

優しいお爺さんは、ワナから鶴を助けだし

傷ついた鶴を家に連れて帰りました。

その話を聞いたお婆さんは、


「それは良い事をしましたね~、お爺さん、この子に名前を付けましょうよ!」


『そうだな?…鶴だけに鶴子?』


「お爺さんは、単純ですね~?でもいい名です。お前は今日から鶴子だよ~。」


二人の介抱のお陰で鶴子の傷は順調に回復し、空を飛べるくらい元気になりました。


『婆さん、傷も治ったようだし、そろそろ

鶴子を山へ帰さなくてはならないね~?』


「お爺さん、そうですね。寂しいですけど、仕方ありませんね~。」


この話を聞いていた鶴子。

突然、流暢な言葉で話し出しました。


"お爺さん、お婆さん。私の事を助けて頂き

本当にありがとうございました。

恩返しの意味も込めまして、これからしばらく私の自慢の羽で綺麗な反物を織りますので

それを売って、少しでもお金に替えて下さい。"


『婆さん!これはあの有名な、鶴の恩返し

ではないか?でもあれは確か鶴が人間の姿に

化けていたはずじゃが…。』


「お爺さん!細かい事はいいじゃないですか?鶴子のしたいようにさせましょうよ!」


その日から毎日、鶴子は必死に反物を

織り続けました。鶴子が織る反物は、いつしか有名になり、ネットオークションなどで

かなりの高値で取り引きされるようになったのです。鶴子のお陰で、お爺さんとお婆さんは、以前とは比べ物にならないくらい、裕福な暮らしができるようになりました。


そんなお爺さんとお婆さんを面白く思わない人が、一人だけ居ました。《種撒きジジィ》と呼ばれる、隣に住む意地悪爺さんです。


何故、種撒きジジィと呼ばれているのか?

それは、嘘やデマの情報を撒いては、

近所の住人を困らす性格の悪い爺さん

だからでした。そんな種撒きジジィは最近

少し退屈をしていました。そこで目をつけたのが鶴子だったのです。ある日の事。

お爺さんとお婆さんの留守を見計らい

種撒きジジィは鶴子を訪ねて来ました。


「おーい!鶴子ちゃんはいるかい?」


『どちら様ですか?』


「俺だよ~隣に住んでる…」


『あ!イジ!?あ、隣のお爺さん?どうしたんですか?お爺さんもお婆さんも今は留守ですが。』


「今日は鶴子ちゃんに用事があってね?

少し俺の話を聞いてくれるかい?」


『何でしょう?私で良ければ聞きますよ。』


「鶴子ちゃんはどうして、この家の爺さんと

婆さんに恩返しをしているんだい?助けてもらったのはわかるが、そもそも鶴子ちゃんが

怪我をしたのは、人間が仕掛けたワナが原因だろ?それなのに人間に恩返しっておかしいだろ?そう思わないかい?そこでだよ!俺は面白い事を思い付いたんだよ!ちょっと耳を貸しな!」


なにやら、こそこそと鶴子に良からぬ事を

吹き込んでいるようです。

話が終わると、種撒きジジィはニヤニヤと

笑いながら帰って行きました。


その日の夕方、帰って来たお爺さんとお婆さんに鶴子はこんなお願いをするのです。


"お爺さん、私パソコンが欲しいの!"


『なんだい?そのパソコンと言うのは?』


"わかりませんか?とにかく便利な道具なんですよ!世の中の事が小さい画面で何でもわかる上、家にいながらにお買い物まで出来てしまうんですよ?買ってもいいでしょ?"


「お爺さん…鶴子が頑張って働いてくれたお陰で私たちは今の暮らしができているんです。買ってもいいんじゃないですか?」


『そうだの~鶴子!好きにしなさい!』


二日後、パソコンが家に届きました。

すると鶴子は、部屋に閉じ籠りがちに

なり、反物も一切織らなくなりました。

何かに取り憑かれたように、朝から晩まで

パソコンとにらめっこ状態です。


『婆さんや、鶴子はどうなってしまったんだ?毎日、毎日あのパソコンとやらから、

離れようとはしないじゃないか?一度、

部屋を覗こうと思うのじゃが…。』


「お爺さん、それは止めたほうがいいですよ。私がこの前ご飯を持って行こうとして

部屋の扉を開けたとたん、凄い剣幕で怒られましたよ…、もう前の鶴子ではなくなったのかもしれません…。」


悲しい想いをしているお爺さんとお婆さんのことなど露知らずの鶴子はというと…。


種撒きジジィに言われた通り、世間に対する悪口を手当たり次第に投稿サイトやSNSに書き込んでいました。初めは近所の噂話程度だったのですが、自分の書き込みを見た人間達の慌てる様子があまりにも滑稽なものだったので味をしめた鶴子は内容を徐々にエスカレートさせていくのでした。


そんな日が続いたある日、またしても諸悪の根元である種撒きジジィが、お爺さんとお婆さんが家を出るのを確認して鶴子に会いに来たのです。


「鶴子ちゃん!調子はどうだい?」


『あ!お爺さんこんにちは。言われた通りにやっていたんですけど、私の書いたことに右往左往する人間達が面白くて!もっと刺激的なのが欲しくなってきました!』


「それじゃあ…こう言うのはどうだい?

今まで発見されてない………。」


種撒きジジィは鶴子に耳打ちをして、

またニヤニヤしながら帰って行きました。

種撒きジジィが帰るとすぐに作業に取りかかる鶴子。先ほど助言された、嘘のニュースを書き込みます。


【今まで国内で確認されていなかったウイルスが、遂に日本に上陸しました。】


【致死率は50%。】


【高熱と激しい体の痛みを伴います。】


ありとあらゆる言葉で

人間の恐怖心を煽っていきます。

悪い噂というものは良いニュースの倍以上の

速度で拡散されるという実験報告もあるように、鶴子の書いたフェイクニュースは瞬く間に国内へと拡がっていきました。


しかし、いつまでもこんな事がバレずに

済むわけがありません。 インターネットの

アドレスから発信元を突き止められた鶴子の元に現れたのは警察官でした。

鶴子はパソコンを没収されて、今までしてきたことを全て正直に話しました。

もちろん、種撒きジジィの事も。

鶴子は、地方の動物園へ引き取られ、

種撒きジジィは刑務所に入れられました。

お爺さんとお婆さんは、今でもたまに鶴子が引き取られた動物園に会いに行っているそうです…。


『はい!おしまい。そろそろ寝てよね?』


「…お母さん、この話の教えとか

教訓って何だろうね?」


『それはね、嘘のニュースを広めるのは

犯罪です!悪いことをしてバレずに済むなんて事はありません。あなたは、そんなくだらないことに時間を使うくらいなら、本の一冊でも読んで勉強してよね?』


「そうだね、悪い事をしているといつかは

バレてバチが当たるよねお母さん!」


『そうよ!はい寝ましょうね~おやすみ~』


「おやすみなさい。」





お母さん、僕は知っているんだよ?

お母さんが、ニュースで言っていた

匿名でフェイクニュースを拡散している

人達の中の一人だって事を……。

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