【坂道の案内人】
カクヨム誕生祭2020【お題】Uターン
人気のない坂道の上で、親に置き去りにされたという男の子に出会った主人公のおじさん、この男の子の秘密は?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「こんな時間に、ここで何をしているの?」
『お父さんに、お仕置きだって言われて
ここに置いていかれたの…。』
私があの場所に到着をすると、入口で
小学生くらいの男の子が泣いていた。
こんな夜中に酷いことをする親もいるものだ…。ここにくる途中に交番があったな。
「君、お名前は?下に交番があったから
そこまで連れていってあげるよ。」
『…まもる。おじさんは、
なんでここにいるの?』
「…、お、おじさんはね、昼間に落とし物をしてどうしても必要なものだったから探しにきたんだよ。まもる君行こうか?」
ゆっくりと立ち上がった少年は
私が差し出した手を取ることはせずに
一人で坂を下り始めた。
街頭の少ない、この坂道が怖くないのだろうか?少々不思議に思いながらも、少年の
後ろをついて歩く。
『…、おじさんは本当に探し物にきたの?』
突然立ち止まったかと思うと、少年は
前を向いたまま、そんな質問をしてきた。
何故そんなことを聞くのだろうか。
咄嗟についた嘘ではあるが、わざわざ
気にするようなことを言ったつもりもない。
「そうだよ?君はよくここに連れてこられているの?慣れているようだけど、暗いのに
この道が怖くないのかい?」
スタスタと歩き続ける少年に
訊ねてみるも返事がない。
はぁ、面倒なことになったな。
今日中に終わらせたかったのに…。
『…おじさん、先に行って?靴紐が
ほどけたから結んだら行くね…?』
少年は立ち止まると街灯の下に座り込み、
靴紐を直しているようだ。
本当に待たなくていいのだろうか?
坂道の下に目をやると、交番の灯りが見えていた。ま、この距離なら大丈夫だろう。
「わかった、ゆっくり歩いておくね。」
暗い坂道を先程よりもゆっくり下る。
後ろを振り返ってみると、男の子はまだ
座り込んでいるようだ。
そのまま進み、交番の前までたどり着く。
「……あ、あれ??」
先程まで一つ前の街灯の下にいたはずの
少年の姿が見えなくなっている。
急いで坂道を駆け上がり先程少年が座り込んでいた街灯のところまで戻ってみたがやはり姿はない。
どういうことなんだ…。俺はとりあえず
交番でお巡りさんに相談することにした。
「…あの、すみません。」
『…こんな時間にどうしましたか?』
眠気と格闘しながら書類を作成していたらしい初老の警察官に今までの経緯を説明する。
『……、あなたもしかして…この上の崖から飛び降りて死のうと考えていませんでしたか?』
驚きすぎて言葉がでなかった。
少年には探し物と言ったがこの坂道の
頂上にきた目的は違う。自死がしたかった。
そしてお巡りさんはこう続けた。
『よくあるんですよ、それも決まって夜。
あなたが言ったみたいに坂の上に男の子がいたから助けてくれって交番を訪ねてくる人がね。話を聞いているとね、その方達はみんな、死にたくてこの坂を登って行っている人達なんです。あなたはこれからどうしますか?もう一度坂を登って自死したいですか?それとも考え直し、Uターンをして自宅に帰りますか?』
その日俺は交番を出ると、坂道は登らずに
自分の家に帰ることにした。
誰かと話をしてしまったこともあり
坂を登るまでの決意が消えてしまっていた。
後日の昼間、俺はもう一度その坂道を登り
頂上まで行ってみることにした。
この前は暗くて見えていなかったが崖の
入口部分の草むらに、小さなお地蔵様が
微笑んで座っていた。
ポケットに入っていたチョコレートを
お地蔵様に供えお礼を言う。
俺がこの場所にくることは
二度とないだろう。
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