第75話 女友達にさよならを2

「うーん、湊のことだから『赤ちゃんできた女友達に一回ヤらせてほしい』って言い出すかと思ったよ」

「葉月は、俺をなんだと思ってるんだ?」


 衝撃の発言から3時間ほどが経過している。

 デリバリーで夕食を済ませ、今は湊家のリビングにいる。


 さすがに、湊はろくに食事が喉を通らなかったが。


「今日は父さん帰ってこない日だから、ゆっくり話はできる……が」

「さて、なんの話からってことだよね」


「まず、私の知り合いのお医者さんに連絡を取るのがいいと思うのですけど……」

「だねぇ。ガチかどうか確認しないと、話は始まらないよ」


 瀬里奈と穂波も、まだ湊家にいる。


 もちろん、「じゃ、あとは二人だけで」と帰るわけにもいかないだろう。

 あんな話を聞いたあとで、帰れるはずがない。


「そのお医者さんは、私の親戚でもあってお姉さんみたいなものですから。こっそり診てもらえますよ」

「瀬里奈の親戚、やっぱ医者もいるのか。弁護士とか官僚もいるのか?」

「え? はい、何人かいますね」

「だよな……」


 瀬里奈はごく当たり前のことだと思っているらしい。

 だが、頼れる医者がいるというのはありがたい。


「ああ、連絡を取ってもらえたら、あとは俺が話す。悪いが瀬里奈、電話だけ頼めるか? もちろん、俺らが直接会いに行っても――」

「待った、待った、湊。それって、あたしの問題なんだから、どんどん話進めないでよ」

「葉月の話って……俺の話でもあるだろ」


 湊としても、強引にことを進めたくない。

 とはいえ、のんびりしていていい話でもない。


 当たり前だが、放っておけばおくほど、事態は進んでしまうのだから。


「まあまあ、まずはあたしたちで話をしようよ。今日明日でどうにかなるもんでもないんだからさ」

「それはそうだが……」


 もちろん、一週間やそこらの余裕はあるだろう。


「それに、ただ遅れてるだけかもしんない。前にもなかったわけじゃないから」

「でも、心当たりは……ありすぎるくらいだろ?」


「ヤらせてないのはここ数日だけで、ほとんど毎日、最低でも五回以上はヤってたからね」

「それは、私たちも一緒ですけど」

「麦は新入りだけど、もういつデキちゃってもおかしくないねぇ」


「…………いっそ、八人全員まとめて検査してもらうか」


 湊は、ここしばらく12個入りのアレはまったく使っていなかった。


「麦とかサララ、あとアズなんか、一回もアレ着けてもらったことないかもぉ」

「……すみません」


「私も着けてもらったのは最初のほうだけでしたね。まあ、私のほうが着けないでいいって言ったんですけど」

「あたしだって、そうだよ。湊がナシでヤりたがってたんだけど、こっちもナシのほうが気持ちいいしね」


「本当に、すみません……」


 湊はもう土下座したい気分だった。

 可愛い女友達にヤらせてもらうために必死に頼み込んできたが――


 好きなだけアレ無しでヤらせてもらっても、やはり必死に頭を下げなければならない。


「ですけど、やっぱり着けるとイマイチですね……さっきの二回も凄くよかったですけど、どうしてももう一つ物足りなかったです」

「だよねぇ。終わってから、溢れてくるのも好きなのにぃ」


 じーっ、と瀬里奈と穂波が半目で睨んでくる。

 この二人に睨まれるのは珍しい。


「あたしは、瑠伽たちといつもどおりヤっていいって言ったのにね」

「そ、そういうわけにはいかないだろ。さすがに今日は……」


「あ、でもいつもよりちょっと激しかった気はするねぇ♡ すんごい気持ちよかったぁ♡」

「もしかして湊くん……葵さんにデキちゃったかもで興奮してたんですか?」


「そ、そんなことは」

「湊って、どこまでも女友達と気持ちよくヤれるかが重要だよね」

「い、いや、だから今はさすがにそんなことないって」


 葉月の衝撃発言のあと。

 とりあえず、瀬里奈と穂波との3ピーは続行させてもらった。


 さすがに二回プラスお掃除では物足りなかったので、まずは二人の女友達にヤらせてもらって、落ち着く必要もあったからだ。


「さっきの湊くん、激しかったですから……私と穂波さん、二回ずつでも五回くらいヤられたみたいな満足感です♡」


 さっきの瀬里奈と穂波との3ピーは、当然だがアレを使った。

 アレはしばらく放置していたので、ほこりをかぶってはいたが、中身は問題なく使えたのが幸いだ。


「だって、麦は初めて見たしぃ♡ いつも、あんなにたっぷりだったんだねぇ♡」

「私のときは、二回目は……ここでしたけど♡ いっぱい……ごっくんしました♡」


 瀬里奈は、唇に指を当てて意味ありげに微笑む。


「瑠伽と麦はまだいいじゃん。あたしなんて、ゼロ回だよ? さっきは、口と胸だけだったもん」

「だ、だからさすがに、葉月にヤらせてもらうわけにはいかないだろ」


 葉月んは結局、ヤらせてもらってはいない。


 あんな話を聞かされたあとで、葉月とヤれるはずもない。

 湊の神経も、鋼でできているわけではないのだ。


「とにかく、葉月――」

「な、なに? いきなりマジな顔しちゃって」


 湊は葉月の前に座り――

 ぎゅっと、彼女の細い身体を抱きしめた。


「これは、俺と葉月、二人の話だ。だから、俺の意思だけでなにかを決めるわけにもいかない」

「う、うん」


「でも俺は、葉月に必死に頼んでヤらせてもらった。ヤらせてもらった結果がどうなるとしても、必死になって責任を取る」

「……あたしたち、高校生だよ?」

「高校生じゃなくなっても、友達ではいられる。そうだろ」

「そ、そう……だね」


 湊はぎゅうっと葉月をもう一度強く抱きしめてから。


「だから、病院に行こう。なにより、まず葉月の身体が大事だ」

「……そうだね。でも、ホントは……」

「ん?」


「こ、こんな理由で病院行くのって、ちょっと恥ずかしいんだからね?」

「……そうだよな」


 湊は女子ではないので、実感があるわけではない。

 ただ、葉月が恥ずかしがる理由もわからないでもない。


「私が付き添いますから。こういうのは、男の人が一緒じゃないほうがいいんですよ」

「何人も一緒なのも嫌だろうから、るっかちゃんに任せるねぇ」

「ありがと、瑠伽。麦もね」


 女子三人の間で、話はまとまったようだ。

 どうやら、湊には付き添いは許されないらしい。


「でもさ、湊」

「なんか、この流れで『でも』って怖いな」


 湊はドキリとしつつ、軽口で返す。

 実のところ、葉月の衝撃の発言からドキドキしっぱなしではあるが。


「ちょっと変だよね。デキてたときの心配ばっかしてるよね?」

「は? それは……そうだろ?」


 もし、葉月にデキていたら彼女自身はもちろん、湊の人生も一変するのだ。

 心配しないほうがおかしいだろう。


「逆に、デキてなかったときのことは考えてないの?」

「それは……」


 ただ遅れてるだけでした、ではないのだろうか?


「あたしはさ、湊はいい友達だと思ってるし、頼まれたら何回でもヤらせてあげてもいいと思ってるし」

「あ、ああ、そうだな」


 ダメになっていた湊を復活させてくれたのも、葉月だった。

 葉月に頼んでヤらせてもらうことが、二度も湊の人生が変わるきっかけになっている。


「もしもデキても……イヤじゃないよ。てゆーか……」


「お、おい、葉月……」

「もしデキてなかったら、ちょっと……残念かな」

「…………」


 これは予想外の反応だった。

 湊が想像すらしなかった、と言ってもいい。


 葉月が、最高に可愛い女友達がそこまで自分を受け入れてくれていたとは――


「だったら、葉月」

「な、なに?」


 湊は、がしっと葉月の肩を掴むと。


「もしもデキてなくても――また数打てばいつか当たるかもしれないよな」

「そ、それはそうかな」


 葉月も湊にそっと寄り添うように、身体をくっつけてくる。


 すぐそばで、瀬里奈と穂波が目を丸くして二人を見ている。

 だが、湊にも今はこの二人にまで声を掛ける余裕はない。


 これから、一世一代の台詞を葉月にぶつけなくてはならないのだから。


「なあ、葉月。このあと、どうなるにしても――」

「う、うん。あたし、カノジョじゃなくて友達だけど……わかってるよね?」


 湊は、葉月の質問にこくりと頷いてから。

 遂に、言った。


「葉月がデキるまで何回でも好きなだけヤらせてくれ!」

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