第68話 女友達は真の目的を明かしたい
合宿は、朝から夜まで9
特にたいしたことは起きなかった。
だからこそ、楽しい。
ドラマではないのだから、トラブルなど起きないほうがいいに決まっている。
湊は、葉月たち八人の女友達に主に別荘内で。
時には、貸し切り状態の砂浜でヤらせてもらい、八人それぞれの身体を心行くまで味わった。
だが――
これだけの人数が集まって。
最後までなんのトラブルも起きないほど、甘くはなかった。
二日目の夜遅く、トイレに行ってから。
帰りに二階で寝ている葉月にヤらせてもらおうと、階段を上がりかけたところで。
湊は何者かにいきなり刺され、床に倒れ込んだ。
「誰……なんだ……?」
あたりは真っ暗で、すぐそばに立っている“犯人”の背格好すらはっきりしない。
「私です」
思いのほかに、はっきりした答えだった。
姿を見せずにいきなり襲ってきた割に、あっさりと――
「瀬里奈、か……?」
「はい、そうです。瀬里奈瑠伽です」
影はそう答えると、湊のそばに座り込んだ。
そこまで近づいてきて、ようやくおぼろげに姿が見えた。
さらに、ぱっと灯りがついた。
小型のランタンで、元から別荘に非常用としてあったものだ。
トレードマークの長い黒髪。
部屋着に使っている、白のサマードレス。
足首まで届くほど丈が長く、瀬里奈はスカートを折って座り込んでいる。
「俺、刺されたのか……?」
「はい、マイ包丁を見てもらいましたよね。あれを使いました」
ちらり、と湊は床を見た。
そこには、確かに瀬里奈が使っていた包丁が転がっている。
「そういや、瀬里奈はなんか武術みたいなのを習ってたな」
以前、瀬里奈に軽く投げ飛ばされたことは忘れられない。
「女子のたしなみで、短刀の使い方も学んでいます」
「いつの時代のたしなみだよ?」
「瀬里奈家は時代錯誤なんです。あの家を見ればおわかりでしょうけど」
「まあ、な」
武家屋敷のような瀬里奈家は、現代では多少浮いている。
「そのたしなんだ剣術で、急所を一撃ってわけか? 不思議とあまり痛くないが」
「痛みも出血も最小限です。大きな血管や臓器の隙間を縫うように刺したので」
「バトル漫画か?」
現実に、そんな器用な真似ができるとは信じられない。
だが、床にこぼれた血をよく見ると、出血もさほどではない。
湊は、前にガラスで手を切った人を見たことがある。
そのときのほうが血がどくどくと出ていた気もする。
「どうせなら、臓器を狙ったほうが確実だったんじゃないか?」
「え? なぜですか?」
「なぜって……俺を殺したいんじゃないのか?」
「いいえ」
瀬里奈は、ふるふると首を振った。
「湊くんとの遊びが一番楽しいんです。私には初めてのことばかりで、本当に楽しいんです」
「そりゃ……そうみたいだが」
葉月と並んで、もっとも積極的にヤらせてくれるのが瀬里奈だ。
彼女が本気で楽しんでいたことは疑いない。
「ちょっと待て。さすがに俺もわかってるぞ」
「なにをですか?」
「俺がその……ちょっとばかりヤりすぎたんだろ? もう八人にもヤらせてもらって、しかも毎日何回も何回も」
再び、瀬里奈はふるふると首を振る。
「嫌だったら拒否できますし、湊くんは嫌がる女の子に無理矢理ってことはないですよね」
「無理矢理ではないが、必死に頼み込みはしたよな」
葉月にパンツを見せてくれとお願いしてから。
女友達にヤらせてくれと、全力で頼み込んできた。
勢いに押されてヤらせて、瀬里奈は後悔していたのかも――
そう思っていたが、違うのだろうか。
「そうだよ、湊。あたしたちは頼まれたからヤらせてあげただけ。恨んだりするわけないじゃん。ばーか」
「葉月……?」
いつの間にか、葉月がそばに立って、にっこりと笑っていた。
「ええ、わたしたちもミナと楽しんでいたのよ」
「だよねー。双子をまとめてヤる人なんて、実際はそういないだろうしー」
「しかも、ボクもお姉ちゃんも楽しませてくれる人なんていないですよ!」
「麦みたいな面倒くさいギャルの配信にも付き合ってくれるしねぇ」
「おまけにゲーマーだから、アタシには最高!」
「私はまだいろいろ納得いかないけどね……この状況もなんなんだか」
さらに、六人の女友達も集まってきている。
廊下はたいして広くないので、さすがに人でぎっしりだ。
「犯人は瀬里奈――じゃなくて、全員ってわけか?」
「そういうことね。さすがに刺すのは、梓だけ反対したけど」
「俺を除けば、唯一の常識人枠だな」
湊は自分を常識人だと強く信じ込んでいる。
「でも、こうしなきゃいけなかったのよ、湊」
「たぶん、俺は刺されても文句は言えないんだろうが……」
「まったくだよね……」
ぼそりとツッコミを入れたのは常識人の梓。
「刺さなきゃいけなかったっていうのは、よくわからんぞ」
「理由はたった一つよ」
瀬里奈が場所を空け、そこに葉月が座り込んだ。
「湊、あたしたちはいくらでもあんたにヤらせてあげるくらい、一緒にいることが楽しい」
「…………?」
「湊はあたしたちを独り占めにして楽しめるけど、あたしたちは湊を独占できないんだよね」
「それで……?」
「湊の命をあたしたちが握ってる今は、独占できてるって思えるんだよね」
「
そう言いつつも、湊は思わず笑ってしまいそうだった。
なぜか、こんなヤバい状況でも。
八人の女友達、八人の美少女たちに独占されているのが嬉しい。
もしかすると、俺はヤバいヤツなのだろうか――
そんなことを思って苦笑しつつ。
そろそろ救急車を呼んでもらえないかと、今さらながら思いついた。
※ミニあとがき
「ちょっとエッチなラブコメ」をうたっている割に、エロくない展開が続いてすみません。次か、その次あたりまでお待ちください。
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