第34話 新たな女友達はお願いがある
四人目の女友達、サンライザー。
湊がネットで知り合った彼女は、一人ではなかった。
朝日奈あかりと、朝日奈ひかり。
そっくりな双子の高校二年生で、名前まで似ている。
「私は、“朝日”ってアカウントも持ってるんだよねー。今度からそっち使うよー」
「ちなみにボクの別アカは“ひぃな”! 二人合わせて、朝日奈なんですよ!」
「まあ、そっちのほうが呼びやすいな、二人とも」
サンライザー、というのも女子高生への呼称としては微妙だ。
しかも、二人いるとなるとややこしい。
それに、湊は茜をたまに下の名前で呼ぶくらい。
女子は基本的に苗字呼びなので、苗字をもじった呼び方はありがたい。
「元々、トナミくんはPC勢だったんだねー。ウチはPCないからちょっと羨ましいかも」
ここは、湊の家、自室――
湊はカフェを出るとサンライザーの二人を連れてきていた。
サンライザーの姉、朝日奈生徒会長は部屋のテーブルに置かれたキーボードとマウスを操作している。
「ですよね! 猛者揃いだっていうPCでボクらの実力を試したい!」
「シュオッチ勢、クロスマッチだとフルボッコされてるぞ」
「マジでー。そのうち、クロスマッチにも参加するつもりだったのにー」
えーっ、とサンライザーの姉――いや、“朝日”が残念そうにしている。
「それで、マジでボクらもトナミのアカウントで遊んでいいんですか!」
「ああ、どうぞ。ちょっとくらい、人にアカウント貸したって犯罪ってわけじゃねぇし」
メインの目的は、レジェンディスを遊ぶことだ。
朝日とひぃなが、実はPC版レジェンディスを遊んだことがない、というので――
湊は自分のPCとアカウントを双子に使わせることにした。
「じゃ、始めてみるねー。ふーん、コントローラーのアナログスティックで動かすか、マウスで動かすかの違いだけだねー」
「そうそう、基本操作はシュオッチもPCも変わらないから、サンライザー……じゃないや、朝日ならすぐにできるだろ」
「あはは、まだ呼び方に慣れてないねー」
「そりゃ、3ヶ月もサンライザーって呼んできたんだからな」
湊は、苦笑してしまう。
「ボクは学校では“ひぃな”って呼ばれてるんですよね。お姉ちゃんも、“朝日”ってあだ名ありますし」
「ふーん、生徒会長のそのあだ名は知らなかった」
湊は、ちらりと隣でマウスを操作している朝日を見る。
三つ編みにした長い黒髪、見慣れた制服。
前髪は長いが、今は眼鏡をかけていないので、くりっとした大きな目がよく見える。
いかにも生徒会長らしい真面目な外見でありつつ、めちゃくちゃに可愛い。
「……朝日、眼鏡なくても見えるのか?」
「うん、そこまで視力悪くないからー。前は勉強のときだけかけてたんだけど、最近は面倒くさくてずっとかけてるだけー」
「ボクは視力いいんですよ。お姉ちゃんは、子供の頃から勉強しすぎて、視力落ちちゃったんですよね」
「要するに、ひぃなのほうは勉強してなかったわけか」
「はいっ!」
「……いい返事だな」
「昔から返事だけはいいんだよねー、この子」
「返事の良さだけで世の中渡ってきたまでありますね、ボクは!」
「そりゃすげぇな……」
湊は、今度はひぃなのほうに目を向ける。
黒髪をツインテールにして、白いセーラー服姿の少女。
なぜか、二人は湊を間に挟むようにして座っている。
瓜二つな美少女に挟まれるのは、いろいろと経験を積んできた湊でも、かなりドキドキしてしまうシチュエーションだった。
つーか、この二人、マジで可愛い――湊は理性を保つので精一杯だ。
ほっそりしていて、それでいて特にひぃなのほうは胸のふくらみがセーラー服の上からでもよくわかる。
美少女とのお付き合いには多少慣れたと思っていたが、間違いだったようだ。
湊はあくまで、葉月・瀬里奈・茜の三人に慣れただけで、女子に慣れたわけではない。
こんな可愛い女子――しかも双子となると普通に可愛い女子とはまったく違う魅力がある。
さっきから双子と肩が何度もくっついていて、そのたびに良い匂いもして、正直たまらない。
「お、マッチングしたねー。じゃ、やらせてもらうよー」
「あ、ああ、好きに楽しんでくれ」
だが、ゲームを楽しもうとしている二人に水を差すようなマネはできない。
湊は二人をできるだけ見ないように、自制する。
「朝日、負けても気にしなくていいからな」
「うん、ありがとー」
レジェンディスは勝ち負けでポイントが増減する。
ポイント次第でランクが上下するのだが、湊は今はさほどランクにこだわっていない。
少しばかり連敗が続いたとしても、別にどうということはない。
「で、トナミ。ホントにボクらのアカウント使い回し、気にしてないんですか?」
「え? ああ、さっきも言ったろ」
この双子姉妹は“サンライザー”アカウントを二人で運用していた。
湊はもちろん、そんなことは想像もしていなかったが――
「規則には複数で同一アカウントを使っちゃいけないとは書いてないし……そんなもん、運営には判断つかないからだろうが。まあ、腑に落ちたところはあるな」
「なんです?」
「俺は前衛がメインだったが、サンライザーは前衛も後衛もどっちも器用にこなしてただろ。あれ、中の人が入れ替わってたんだな」
「あ、そうです! ボクが前衛で、お姉ちゃんが後衛やってました!」
「まあ、どっちもこなせるプレイヤーは珍しくないが……俺なんて後衛に回ると全然ヘッタクソだからな。サンライザーがどっちも上手にこなしてて、ちょっと凹んでた」
「ご、ごめんねー、トナミくん。でも、君の前衛はひぃなより上だよ」
「ちょっと待った、お姉ちゃん! ボクの前衛でもけっこう勝ってましたよ!」
「ま、まあ、俺の後衛が特に下手なだけで、サンライザーはどっちも上手かったって」
揉め始めた姉妹を、湊が制止する。
「うおっ、敵来てる来てるー! 前衛、仕事してー!」
湊が画面のほうを見ると、朝日と野良プレイヤーが籠もっていた建物に敵が突入して、銃撃戦が始まっていた。
敵コンビはかなり戦い慣れているらしく、あっという間に朝日と野良は体力を削られて――
「うはー、やられたーっ! 記念すべき初PCプレイだったのに瞬殺とかー!」
「はっはっは、残念でした、お姉ちゃん!」
「ま、キーボードとマウスでプレイするの初めてだろ。いつもどおりにはいかねぇって」
湊も、ずっとキーマウでプレイしていて、コントローラーに慣れるには時間がかかった。
逆も当然、難しいだろう。
「エイムはマウスのほうがやりやすいって聞くけどな。スナイパーの朝日のプレイをもうちょい見たいな」
「じゃ、もう少しやってみるかー。ひぃな、いい?」
「おっけおっけー。ボクは見てるだけでもいいですよ、お姉ちゃん」
朝日が妹の許可を得て、再チャレンジする。
二戦目にして朝日は慣れたらしく、すぐにコントローラーと変わらない立ち回りができてきている。
「ふーん、さすがだな、朝日」
「へへ、それほどでもないけどー」
「そうそう、いつだったか、サンライザーが――朝日がタワーから落ちながらの狙撃で二枚抜きしたのは凄かったな」
「ああ、あれボクも一緒に観てましたけど、神でしたね! 我が姉ながら!」
「いやー、完全にマグレだけどねー。あ、トナミくんがサブマシンガンで1対3の撃ち合いに勝ったのも、びっくりしたよー。リロードのタイミングとか、絶妙すぎたねー」
「そんなこともあったなあ」
さすがに、3ヶ月も毎日のようにディスコ通話してただけあって、話が弾む。
長年の友人のような気さえしてきてしまう。
湊とひぃなが口を出しつつ、朝日が狙撃で敵を仕留めていく。
さすがに、ラウンド優勝とまではいかなかったが――
「おー、ラスト3組まで残ったよー! キーマウ初めてで凄くないー?」
「すげぇ、すげぇ。やべぇな、PC版でも後衛じゃ朝日にはかなわねぇな」
「ふふーん、もうトナミくんを越えちゃったかー。どうよ、妹ー」
「くっ、この姉は無駄に優秀なんですよ! ボクも勉強でも運動でも負けないんですけどね!」
「見た目もそっくりだが、スペックも近いのか。あ、そういや」
「なにー?」
「ディスコで話してたのって、朝日のほうだったのか? サンライザーの口調は、朝日のほうだよな?」
「あ、それはちゃんと操作中のほうが話してたよー。だよね、ひぃな」
「そうだよ、私もお姉ちゃんもプレイしてるほうが話してたよー」
「……口調のモノマネもできるのかよ」
今、ひぃなのほうが朝日の口調を完全にコピーしていた。
湊は気づいていなかったが、この双子は声もそっくりだ。
おまけに、その気になれば口調も似せられるらしい。
「口調が変わると、トナミとかHALとかふっゆとかが混乱しちゃうからねー。そこは統一してたんだよー」
「そりゃそうだな。ディスコで急に知らん人が話し始めたらびっくりするわ……」
湊は別に、二人で一つのアカウントを使っても気にしないが。
一瞬の油断でゲームオーバーになるゲームで無駄に驚かされては困る。
「あー、でもPC版面白かったー。私もPC買っちゃおうかなー」
「ボクと貯金を合わせれば、そこまで高くないのなら買えるかもですね!」
「デスクトップなら安くてもある程度のスペックのPCを組めるぞ。そういうのなら、瀬里奈が詳しいしな」
「そうなんだー。るっかちゃんがPC詳しいってちょっと意外だねー。そういえば、るっかちゃんは――」
と、朝日が言いかけたところで、トントンとドアがノックされた。
湊が応えると、その瀬里奈が姿を現した。
「すみません、遅くなりました。猫ちゃんたちが甘えてきて、離してくれなくて」
瀬里奈のツヤツヤした黒髪が少し乱れている。
湊のマンションに到着してすぐに、瀬里奈は葉月家の猫たちの様子を見に行っていたのだ。
もちろん、飼い主の葉月に頼まれてのこと。
葉月は今日は帰りが遅くなるので、愛猫たちの様子を確認してほしかったらしい。
実はまだ、湊は葉月家の合鍵を預かりっぱなしなので、出入りは問題ない。
「るっかちゃん、このマンションに友達がいるんだっけー」
「ええ、私と湊くんの共通の友達がいるんです」
今のところ、葉月の名前は双子には明かしていない。
湊と葉月が同じマンションに暮らしていることは、あまり人に知られたくない。
「いいですね、猫! ボクらも飼いたいけど、ウチって洋食屋さんなんですよね。食べ物扱ってると、ペット飼えなくて」
「ああ、そりゃ難しいだろうな」
双子姉妹の家は店舗と自宅が兼用になっているらしい。
「本当にネネちゃんは甘えん坊で。甘えてこられたら、私のほうも離したくなくなりますよね」
「お疲れだったな、瀬里奈」
「いえ、猫ちゃんたち可愛いのでご褒美です。少し疲れましたけど。んっ、ちゅっ♡」
瀬里奈は湊の前で屈んで、いつものように軽くキスをしてくる。
湊はキスを受けつつ、瀬里奈のスカートの中に手を入れて尻を撫で回し――
「えーっ! い、いきなりちゅーしちゃうのー!」
「えぇっ! い、いきなりお尻撫で撫でですか!」
「「あ」」
湊と瀬里奈は、双子に絶叫されて、自分たちのミスに気づいた。
つい、いつものクセで普通にキスして、湊のほうは尻まで撫でてしまった。
もう湊の部屋では当たり前のようにしているので、今日は新顔がいることに気が回らなかった。
「す、すみません! へ、変なところをお見せしました!」
「わ、悪い。驚かせた……よな?」
「う、うん。人がちゅーしてるところをこんな近くで見ちゃうなんてー……」
「す、すっごくナチュラルにお尻撫でてましたよね、トナミ……」
双子姉妹は、若干引いているようだ。
というか、当然の反応と言える。
「まあ……湊寿也くんと瀬里奈瑠伽さんが……空き教室で、もっと凄いことしてるトコ見てるけどねー……」
「…………」
湊は、どう反応していいかわからない。
湊が瀬里奈と茜、二人の美少女と空き教室でヤってきたことを生徒会長の朝日奈あかりは知っている――
カフェでそんなことを匂わせてはいたが、本当に目撃されていたとは。
「マ、マジで凄かったです。お姉ちゃんが撮ってきた動画で観るだけでも、生々しくて……す、すっごい奥までくわえたり、おっぱいちゅーちゅーしたり……」
「茜ちゃんと瀬里奈さんと三人でヤってたりもしてて、びっくりしたー……」
「まさか、学校で三人でなんて……お姉ちゃんの学校、凄いですよね」
「ちょ、ちょっと待て! ひぃなも観てるのかよ! つーか朝日、動画撮影してたのか!」
「ご、ごめーん。あんまり凄すぎて、つい……で、でも妹にしか見せてないからー」
「それならいいですけど……」
「いいのかよ、瀬里奈」
相変わらず、瀬里奈は繊細に見えて大胆だ。
湊と瀬里奈が空き教室でヤっていたようなことを人に見られた場合――
ダメージが大きいのは女子のほうだと思うのだが。
「朝日さんとひぃなさん……お二人はもうお友達……ですよね?」
「もちろんですよ!」
「そ、そうですよね。でしたら……お友達になら……観られても……は、恥ずかしいですけど……大丈夫です。女の子ですし」
「マジか、瀬里奈」
「男の人に観られてたら、困りますけど……はい、お友達で、女の人になら……私はいいです」
瀬里奈は顔を真っ赤にしているが、本当にかまわないらしい。
未だに瀬里奈は、湊の想像を越えてくる。
「はい、友達ですよ! トナミほどじゃなくても、るっかちゃんともいっぱい遊びましたし! 同じ敬語キャラですし!」
「キャラの問題か?」
「友達でもなきゃ、お家まで来ないよー」
「初対面ではなかなか来ないだろうけどな……」
湊もかなり感覚が麻痺しているが、生徒会長とは一応面識があると言えるものの、妹のほうは完全に初対面だ。
普通、同性の友達でもいきなり自宅には来ないだろう。
「ていうかー、トナミくん」
「というかですね、トナミ」
「え?」
双子がまったく同じタイミングで、さっと立ち上がる。
朝日の膝下スカートと、ひぃなのミニスカートの裾がひらりと揺れた。
二人は急に真剣な顔になって――
その頬が、わずかに赤らんでいる。
唐突に部屋の空気が変わって、湊はきょとんとしてしまう。
「私たちも」
「ボクたちも――」
「友達なんだよねー?」「友達だよね!」
「……あ、ああ」
双子がぴったりタイミングを合わせて話しているので、ちょっと驚いてしまう。
可愛すぎる双子のスカートが湊の目の前にあって――圧倒されるものも感じる。
「るっかちゃん、るっかちゃんは……トナミくんのお友達で」
「友達だけど、やらしーこともしてるんですよね?」
「や、やらしーって……し、していますけど……はい、お友達です」
瀬里奈は湊の隣に座り、腕に抱きつきながら答えている。
黒髪ロングの友人も、この状況に驚いているようだ。
「じゃ、じゃあ、私たちもトナミくんのお友達なんだしー」
「こ、こういうことしたっていいんですよね!」
「いいんですよねって、それじゃまるで朝日たちがヤりたいみたいな……」
「そうだよー」
「そうですよ!」
双子が、またタイミングを合わせて答える。
「ま、まずはパンツからでいいかなー?」
「ボクらの……パンツ、見てもらっていいかな……?」
「み、見てもらうって……なんかおかしくねぇ!?」
「ボクら、男友達って初めてなんですよ! だからわからないけど――」
「男友達って、お願いしたら――」
「…………っ!」
朝日とひぃなが、同時にぱっとスカートをめくり上げた。
二人はスパッツなどははいていなくて――
白のレースの可愛いパンツが二枚、同時に湊の目に飛び込んできた。
双子は制服は別だが、パンツのデザインはまったく同じだった。
白いパンツと太もも――コピーしたように、デザインも太ももの太さもまったく同じ。
あまりに同じすぎて、現実感に欠ける光景ですらあった。
「お、おい……朝日、ひぃな!?」
「ね、トナミくん……男友達ってお願いしたらヤってくれるのかなー?」
「友達だから、ヤってほしいってお願いしてもいいんですよね?」
「…………」
湊は、ごくりと唾を呑み込む。
目の前に、まったく同じ双子の太ももと――白いパンツがあって。
これは夢じゃないかと思ってしまう。
女友達は頼めば意外とヤらせてくれる。
だが、男友達のほうも――頼まれたらヤってやるべきなんだろうか?
そんな馬鹿なことを考えつつも――湊は真っ白な太ももに向かって、手をゆっくりと伸ばしてしまう。
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