第21話 三人目の女友達にはお願いしない

 茜沙由香は、服を脱いだら思ったよりもさらに小さかった。

 こんなに小さくて細くて、無事に生きていけるのかと心配になったほどだ。


「すー……すぅー……」

 その茜は、湊の横で寝息を立てている。


 なんとなく掛け布団をめくってみると――


 一部が赤く染まってしまっている。

 以前に二度、葉月と瀬里奈で見た、血に染まったシーツだ。


「んんっ……♡」

 茜の口から小さな声が漏れた。


 湊は、なんとなく茜の乳首を軽くつついてみた。

 当然かもしれないが、葉月とも瀬里奈とも感触が違っている。

 茜は小さな声は漏らしたが、起きはしなかったようだ。


 掛け布団をはがした下の茜は、黒いハイソックスをはいている程度で、ほぼ裸だ。


「んん……ミナ……?」

「…………」


 茜がうっすら目を開けて、湊はその身体を抱き寄せる。

 驚くほどに華奢で、腰などは本当に折れてしまうのではと思ってしまう。


 葉月も細いし、瀬里奈はもっと細いが、茜はその二人以上だ。

 それでいて、直接触れ合う肌の感触はもちもちと柔らかい。


「なに……んっ、ちゅ……」

 寝ぼけ眼で、茜は唇を重ねてくる。


 もちろん、唇の柔らかさも味も二人とは違う。

 よくないとわかっていても、つい二人の女友達と比べてしまう。


「おかしいわよね、今日は葉月さんの家に泊めてもらうはずだったのに」

「……本当に、なんでこんなことに」

「それを君が言うの?」


 茜は身体を起こして、ベッドの上で湊にまたがるような体勢になる。

 小柄な身体、細い腰。

 わずかにふくらんだ二つの胸と、その頂点の桃色の乳首。


 そこはピンと尖っていて、彼女は興奮しているようだ。

 無意識に愛撫されても、身体はきちんと反応していたらしい。


「もっと……っていうなら、わたしは別にいいわ」

「でも、その……茜は、さっき初めてだったんだろ?」


「その初めてのわたしに、三回も悪いことをしたのは誰?」

「……誰だろうなあ」


「ふざけてると、葉月さんにご報告するわよ」

「なんでそこで葉月が出てくるんだ……」


「なんなら、セリでもいいけど」

「葉月より瀬里奈のほうが怖いから、やめてくれ」

「よくわかってるじゃない」


 茜は、くたっと湊の身体の上にもたれかかってきた。

 胸のふくらみは小さくても、ぴったり密着すれば柔らかさが伝わってくる。


「まあ、別にわたしはかまわないのよ。こんなのは――どうせ人生で何百何千回とすることの、最初の一回というだけ」

「すげー考え方だな」


「いえ、最初の三回ね」

「……凄く良かったので、三回もお願いしてしまいました」

「ふうん、良いものなのね」


 わずかに、茜は顔を赤くしているようだ。

 湊はそんな茜の細すぎる身体を抱き寄せ、ちゅばちゅばと唇を重ねる。


 おかしい――いったい、どうしてこんなことになったのだろうか。

 そんなことをあらためて考えながら。

 記憶を数時間前まで遡らせていく――





「ちょ、ちょっと待って、ちょっと待って、湊」

「え?」


 湊は茜沙由香を葉月家まで送り届けた。

 茜がリビングに腰を落ち着け、葉月が用意したあたたかいカフェラテ(インスタント)を出したのを見届けてから。


「それじゃ、俺はこれで」

 と帰ることにした。


 すると、廊下で葉月が慌てて呼び止めてきたのだ。

 葉月は、とりあえず自分の部屋へと湊を引っ張り込んだ。


「な、なんだよ、葉月?」

「こっちの台詞よ。あんた、帰るつもり?」


「当たり前だろ。瀬里奈ならともかく、他の女子もいるのに俺が泊まり込むわけにはいかねぇよ」

「そ、それはそうかもだけど……」


 葉月は、なにやらソワソワしている。


「……茜って瀬里奈の幼なじみとか言ってたな。じゃあ、葉月とも同中じゃないのか?」

「うん、そう。中学んときはクラスも同じだったよ」

「でも、仲良くないのか?」


 葉月の様子から察するに、そうとしか考えられない。


「ま、まあ……あんま話したことないっていうか?」

「それなら、なんで家に泊めるなんて言ったんだよ……」


「だって、瑠伽が困ってるみたいだったし、一応同中のヤツだし、湊もいるからいいかな~って」

「最後がおかしい」


 葉月は明るく気さくな陽キャで、細かいことを気にしないタイプだ。


 かと思えば、妙に繊細なところがあることも、湊は知っている。

 あまり親しくない相手を家に泊めるのはハードルが高いのだろう。


「葉月は俺がいればよくても、茜は俺がいたらダメだろ」

「湊は全然、安全安心じゃん。なにも警戒することないし」

「…………」


 そうだろうか、と湊は我ながら疑わしく思う。


 葉月とは友人との付き合いが何ヶ月かあってから、お願いしてヤらせてもらったが――

 瀬里奈の場合は、話すようになって割とすぐに、ヤってしまった。


 しかも、二人とも初めてをもらう形で。

 客観的に見れば、危険極まりない男だ。


「いいから、湊も泊まって。つーか、考えてみれば三人いたら男女で泊まってもおかしくないんじゃない?」

「うーん……それはそうかもしれないが……」


 男二人に女一人だと女子に危険はありそうだが、逆の組み合わせなら危険度は格段に下がる。

 普通の男女ならば。


「つーか、湊があたしと瑠伽との関係が普通に思えてるだけだから。さ、三人でヤるのって当たり前じゃないよ?」

「どっちかというと、三人いたらなにも起きない……か」


 葉月の言うとおり、それが普通かもしれない。

 茜も湊と二人きりなら警戒して当然だが、葉月がいれば気にしないだろうか。


「茜とは仲良くないけど……話、聞かないわけにもいかないでしょ?」

「瀬里奈の家にいた、今は家出してる――くらいしか聞いてないもんな。確かに、なんでそんなことになったのか」


 一晩泊めるとなれば、事情くらいは確かめておきたい。

 葉月もそうだろうし、湊だって気になっている。


「……茜、可愛いもんね。ちっこいけど、ああいうの好きなヤツ多いし。中学んときも、あたしと瑠伽と同じくらい告られてたんじゃない?」

「そ、それは知らねぇけど」


 なぜか、唐突に睨んでくる葉月。

 湊が茜のことを少し気にしただけだというのに。


「いろいろ相談に乗ってあげたら、茜もパンツくらい見せてくれるかもよ」

「そんなわけねぇだろ」

「茜のパンツ、見たくないの?」

「そりゃ見たいけど」

「ほーう」


 葉月は目を細めて、ぎゅーっと湊の頬をつねってくる。


「な、なんだよ、葉月」

「べっつにー。あ、そうだよ、湊」

「うん?」


「さっき……おっぱいで挟んで軽く一回済ませただけでしょ? そ、そんだけでいいの?」

「い、一応夕方にもヤらせてもらったし……」


「そうだったねー。あたしは着けてたった二回、瑠伽はそのまま二回、あたしに隠れてコソコソお口に一回だっけ」

「トゲがあるな……」


 茜を迎えに出る前も合計すれば、葉月と瀬里奈で同数だ。

 ただ、この状況だといつもの朝の一回――あるいは二回も、ヤれそうにない。


「ウチに泊まれば、隙を見て一回くらいはヤらせてあげられるけど?」

「俺もそこまで野獣じゃないんだが」


「ホントかなあ……? ムラムラしてんじゃないの?」

「…………っ」


 葉月がニヤニヤ笑いつつ、黒のスパッツを軽く脱いでいる。

 ズリ下げられたスパッツから、派手なピンクのパンツが見えている。

 湊は、ごくりと唾を呑み込む。


「ちょ、ちょっとだけ。一回だけいいか?」

「えっ、今? い、いいけど……茜にバレない?」


「すぐに終わらせるから。葉月が声を出さなけりゃ……」

「……茜も、いきなりあたしの部屋には入ってこないか」

「だろ」


「でも一応……茜ー! ごめん、ちょっと待ってて! 湊と話すこと、あるから!」

 葉月は自室のドアを開けて、リビングのほうに叫んだ。


「葉月さん、カフェラテのおかわり、もらっていい?」

「どうぞー! ポットのお湯とか勝手に使っていいから!」


 小さく聞こえてきた茜の返事に、葉月は応える。

 湊と葉月の二人がゴソゴソしていても、茜はあまり気にしてないらしい。


「これで5分は稼げたね……」

 葉月はドアをしっかり閉めつつ言った。


「5分か……短いけど、一回なら間に合うか」

「うん……でも、声を出さないのは無理だから」

「わかった」


 葉月がなにを言いたいのか察して、湊は素早く唇を重ねる。

 お互いに唇を塞ぎ合い、二人はごそごそとズボンとスパッツに手をかけて――



 さすがに五分では慌ただしすぎて――

 すっかり慣れてきた湊も、ちょっとしたミスをしそうになってしまった。


「あ、危なかったー……もうちょっとでカーペット汚すところだったよ」

「ギリギリセーフだったな……ティッシュ、ちゃんと手に届くところに置いておかないとな」


「もー、あんたが勢い凄すぎるから!」

「そんなこと言われても……意図的に勢いを弱められるもんじゃねぇんだよ」

「そ、そうなんだ?」

「そうなんだ」


 湊は女体の神秘を理解しきっていないが、葉月のほうも同様らしい。


「いやでも、葉月が良すぎるからだって。つい、興奮しまくって……」

「そ、そんなに良かったの? それなら……まあ、いいけど♡」


 いいのか、と湊はいつものことながら葉月のチョロさに驚かされる。

 もっとも、自分にだけチョロい女友達なのだから嬉しいが。


「……つーか、マジで茜に気づかれなかったかな? あたし、声大丈夫だった?」

「声は出なかったと思う。ずっとキスしてたしな」


 ちゅばちゅばと互いに唇をむさぼりながら楽しむのは、湊も葉月も大好きだ。

 むしろ葉月のほうが好きで、「キスしてっ♡」とせがまれた回数は数え切れない。


「う、うん……今日はマジでキスしっぱなしだったね。慌ててたから、何回も歯がぶつかっちゃったけど」

「あれ、けっこう痛いよな。大丈夫だったか?」


「めっちゃ気持ちよかったから、痛くは――やんっ……♡」

「あっ……」


 葉月が顔を真っ赤にして、慌てて下半身に身体を伸ばした。

 すべて処理したつもりだったが、まだ残っていたらしい。


 湊がティッシュをさらに葉月に渡して、今度こそきちんと処理してもらう。


「あ、さすがにもうリビングに戻らないと」

「つーか、俺も結局戻るのか?」


「これで、とりあえず茜とヤりたくはならないでしょ?」

「おまえな……茜は友達ですらないぞ。いくら俺でも、茜にヤらせてくれなんてお願いしねぇっつーの。そんなこと頼んだら、頭おかしいだろ」


「でも、茜ってかなり変わってるって噂だよ」

「噂を信じるなよ」


「うっ……そうだね。あたしだって、こんな派手な見てくれでいろいろ言われてるもんね」

「……気にすんな。俺も瀬里奈も、他の友達も葉月のことはわかってるだろ」


 湊は、ぽんと葉月の頭に手を置いた。


 葉月は、見た目が派手な陽キャの女王だ。

 いろんな男を取っ替え引っ替え、のように噂されていてもおかしくない。


 実態はそれどころか、湊がお願いしたときが初めてで、それ以降も他の男とはろくに関わってすらいない。


「別に、茜にヤらせてくれなんてお願いしないから。まず、話を聞こう」

「湊はすっかり賢者モードだし、茜が可愛くてもムラムラしないで済むだろうしね」

「ほっとけ」


「でもさー、前から言ってた“三人目の女友達”にする気なんじゃないの?」

「そうだな、友達になったら茜にもお願いしてみるかな」

「別に、湊に女友達増えてもいいけどさ、あたしの回数が減ったら怒るかもよ?」

「うっ……」

「たぶん、瑠伽も怒るね」


 葉月は、ニヤリと笑っている。

 ただし、目が笑っていないようにも見える。


「い、いや、冗談だろ。茜が三人目の女友達になったって、お願いしてもヤらせてくれないだろ」

「どうかな~」

「おまえなぁ……」


 湊は苦笑して、葉月の部屋のドアを開けた。

 もう5分どころか、10分ほど経っている。


 葉月の言うとおり、さすがにもう戻らなければ――


「「…………っ!?」」


 湊と葉月が部屋を出ると。

 ドアの前、廊下に――


「5分以上経ってるわ」


 茜が壁にもたれて三角座りをして、手に持ったカップの飲み物をすすっていた。

 湊と葉月は、フリーズしてしまう。


「あ、茜……そ、そこにいたのか?」

「5分は待ったわよ」


 茜は無表情で、クールに言った。

 ドア越しとはいえ、湊と葉月の会話が聞こえなかったとは思えない。


 それどころか、廊下にいたなら部屋の中の様子も――

 さっそく、大きなトラブルが起こってしまったようだ――

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