第12話 女友達は朝からご機嫌

 小皿に少しだけ味噌汁を注ぎ、ずずっと一口。

「うーん……こんなもんか?」

 湊は、わずかに残った汁を舌先で舐めて首を傾げる。


「おはよーっす」

「うっす、葉月」


 湊家のキッチンに、制服姿の葉月が入ってくる。

 秋も終わりに近づき、さすがに葉月もカーディガンの上にブレザーを着るようになった。


「おっ、いい匂いしてるじゃん」

「ああ、ちょうどよかった。葉月、味見してくれ」


 湊は小皿にもう一度味噌汁を少し注ぐ。

 葉月も、ずずっと一口。


「ふーん……こんなもんじゃない?」

「俺とリアクションがまったく同じじゃねぇか」

「同じ物食べて育ってるから?」

「短い間だけどな」

 数ヶ月、同じ夕食を食べているというだけで、似てくるはずもない。


「料理初めて2週間くらいだっけ? めっちゃ上達してるじゃん」

「まあ、味噌汁なんて一回でつくれるようになるだろうけどな」


 湊も、以前に調理実習で味噌汁をつくった覚えはある。

 そのときは班でつくって、家庭科が得意な女子にぶん投げた記憶もある。


「あたしは、ダメだなあ。そもそも味噌汁なんてインスタントでいいじゃんって思っちゃうし」

「俺のやる気をへし折るなよ。まあ、食えるならこれでいいか」


 湊はIHコンロのスイッチを切り、味噌汁をお椀に注ぐ。

 既に仕上げていた玉子焼きと、レンチンしただけのウィンナー、カット済み野菜を盛り付けただけのサラダ。


 あとは、炊きたてのご飯と海苔。

 それらを二人分よそうと、葉月がダイニングテーブルへと運んでくれた。


「まだ半分は出来合いなんだよなー」

「上等、上等。玉子焼きも焦がさなくなったじゃん。おおっ、美しい!」

「うーん……玉子焼きは甘いほうが好みなんだが、ほどよい甘さになってねぇな。レシピ通りにやってんだけど」

「意外にこだわるね、湊」


 葉月が苦笑しながらテーブルに着き、湊もその正面に座る。

 この前、瀬里奈に鍋を振る舞ってもらってから、唐突に湊は料理を始めた。

 同い年の女の子が立派な料理ができるのに、自分がなにもできないことが情けなくなったのだ。

 葉月のほうは、そんなことは特に思わなかったようだが。


「今んところ、朝飯つくるのが精一杯だけどな」

「あたしはあったかい朝ご飯食べられて幸せ♡ シリアルか、菓子パンくらいだったからねー」

「俺も似たようなもんだったな」


 ちなみに、湊の父親は既に出勤している。

 父親は「朝食を食べると頭が回らなくなる」と言って、いつもなにもコーヒーだけ飲んで仕事に出て行く。

 なので、未だに息子の味噌汁を飲めずにいる。

 もっとも、娘ならともかく、高校生の息子がつくった味噌汁など興味ないかもしれないが。


「せっかくだし、冷めないうちに食べたい。いい?」

「ああ、そうだな。どうぞ」

「いただきまーす」

 葉月は味噌汁をずずっと一口飲み、玉子焼きをぱくりと食べた。


「うん、美味い美味い。たいしたもんだよ、湊」

「大げさな……」


 苦笑しながらも、葉月が美味そうに食べてくれるのは嬉しい。

 茶碗も味噌汁の椀も、皿も熱いお茶が入った湯飲みも、それに箸も葉月専用だ。

 湊家に一人分の食器が増えているわけだが、父親は特に気にしていないらしい。


「でも、意外とやればできるもんだな。朝飯だけじゃなくて、チャーハンとかカレーとかにも挑戦してみたい」

「チャ、チャーハン……? カレー……? み、湊、そんな高度な料理にチャレンジすんの?」

「1ミリも高度じゃねぇよ」

 もっとも、まったく自炊をしてこなかった二人にはハードルが高い。


「しょうがないなー、あたしが毒味してあげるよ」

「ホントに毒盛るぞ」

「毒を盛られたハヅキンか」

「ユーチューバーじゃねぇんだよ」


 馬鹿な会話を交わしながら、ゆっくりと二人は食事を終える。

 湊は、なんだか同棲カップル――どころか、夫婦の食卓のようだったと思ってしまう。


 苦笑しそうになりつつ、食洗機に食器を放り込み、ささっと片付けを済ませる。

 料理を始めて、一番面倒なのは後片付けだという真理を悟った湊だった。


「ふうー、いいお天気だね」

「なにくつろいでんだ、葉月」


 リビングに戻ると、葉月がベランダそばの床に座って日光浴をしていた。

 体育座りをしているので、スカートの下のスパッツが丸見えだった。

 パンツを生で見たり撮ったりした今でも、スパッツだけで興奮してしまう。


「お腹いっぱいになったし、出かけんのダルぅ……」

「ダルいって、そろそろ出ないと遅刻すんぞ」


「……ねー、湊。今日はさ、1時間目サボってまったりしねー?」

「は? 俺、授業サボるタイプじゃねぇんだけど」

「別に、湊がサボったって誰も気にしないって」

「うるさいよ。葉月がサボっても気にされないだろうが、揃って2時間目から出たら、変に思われねぇ?」


「ふーん、あたしらが友達だってのはみんなもう知ってるけど……変な誤解されるかな?」

「されないかもしれないが……」


 事実として、湊と葉月はスクールカーストで言えば大きな開きがある。

 まさか、この二人が付き合っているなどとは思わないだろう。


「友達とすら思われてないかもな」

「だったら、なんなの?」

「うーん……パシリとか?」


「あたし、人をパシリにする女じゃねーっつーの。あー、でも、ウチの友達は知ってるけど、あんま仲良くないクラスメイトだと誤解するかも」

「かもなあ。でも、まあいいか」


「そうそう……って、自分で言い出しといて! つーか、湊、さっきからパンツ見てんでしょ! 視線に気づかねーと思うなよ!」

 葉月は手でスパッツのあたりを、ぱっと隠す。


「ちっ、バレてたか……でも、スパッツだろ、それ」

「スパッツだから見てもいいってわけじゃないんだよ」


 見られてもいいようにはいているのでは、と湊は思うが、確かにぶしつけに見るものでもない。


「……うーん、サボリもたまにはいいかもな」

「なに、急に物わかりよくなったじゃん?」

「うん……」

 頷きながら、湊は葉月の前に座り込んだ。


「頼む、葉月……パンツ見せてくれ!」

「……なんかなつかしいなあ、そのイカレた台詞」

 葉月がジト目を向けてくる。


「そんな前の話でもねぇだろ。でも最近は、おっぱいとかキスばっかりで、パンツ見てなかった気がする」

「それどころじゃなかったけどね……」

「ま、まあな……」


 つい先日の、三人でのテスト打ち上げ。

 あの日、葉月と瀬里奈にしてもらったことは未だに――いや、一生忘れられないだろう。


「最高すぎたもんな、あれ……」

「ば、馬鹿! なに思い出してんの! ホント、あれはあたしも瀬里奈もどうかしてた! 一番どうかしてたのは湊だけど!」

「そ、そうだっけか?」


「ちょ、調子に乗って三回も……顔とか口の中とか……メチャクチャだよ、あれは」

「そうは言うが、あれを一回で終わらせるとか絶対無理だろ」


 派手な葉月と清楚な瀬里奈、二人の美少女の口で責められて、一回で満足するなんて聖人にはなれない。

 若干、調子に乗りすぎたのは事実だったが。


「ま、それに比べればパンツくらい可愛いもんか……せっかくサボって時間できたのに、パンツ見たいとか……ばーか」

 葉月は顔を赤らめながら立ち上がって、スカートの中に手を入れて。


「時間そんなにないんだから、ちょっとだけだよ?」

「あ、スパッツ脱ぐところから見たい……ってダメか?」

「ダ、ダメじゃないけど……どんどん要求がエスカレートしてるよね、あんた」


 葉月は制服のミニスカをぺろりとめくってスパッツをあらわにする。

 それから、片手でぐいっとスパッツを下ろした。

 半脱ぎのスパッツから、レースの刺繍が入った白いパンツが現れる。


「うおっ……なんかスパッツ脱ぎかけのほうがエロいな……」

「全然意味がわかんない……こ、こんなのがいいの?」


 めくれたスカート、脱ぎかけスパッツ、一部が見えているパンチラの組み合わせが、普通にパンモロを見るよりエロすぎる。

 女子の葉月には、いまいち理解できないらしい。


「やっぱ、葉月のパンツはエロいな……」

「そりゃ、美少女の葉月葵さんだもの。ね、ねえ、この脱ぎかけ、恥ずかしいんだけど。もういい?」

「あ、ああ。もうちょっとだけ……」


「もうー……そんじゃあさ、このままパンツ見せてもいいけど……最近、美味しい朝ご飯もらってるからさ」

「うん?」


「きょ、今日はちょっとくらい多めにサービスしてもいいよ? この前は、二人だったけど、一人でも……文句ないでしょ?」

 葉月は、自分の唇に手を当てる。

 湊は、つい先日の口内のあたたかさを思い出して、唾を呑み込む。


「い、いいのか?」

「いいのかって、どうせシたいくせに……」


「それじゃあ、ちょっとおっぱいも見せてもらうとか……」

「とか、じゃねーよ。マジで要求多い……そこ、ソファ座ってよ」

「あ、ああ……」

「こんな感じかな……うああ、恥っずい……!」


 葉月はソファに腰を下ろした湊の前に、ぺたりと座って。

 カーディガンを脱ぎ、白ブラウスの前をはだけ、ブラをズラしておっぱいも見せてくれる。

 ぷるんと柔らかそうなふくらみと、つやつやしたピンク色の乳首があらわになる。


「それじゃ、良い子にしててよ……? いきなり口の中とか顔とかは……ダメ、だからね?」

「わ、わかってるって」

「ん、じゃあ……」


 あーん、と恥ずかしそうにしながら大きく口を開ける葉月。

 すぐに湊は、全身に凄まじい快感が走るのを感じた――



「ご、ごめん、ちょっとうがいしてくんね。洗面所、借りるよ!」

「あ、ああ。タオルとか棚に入ってるから」


 ぱたぱたと、葉月がリビングを出て洗面所へと向かう。

 葉月にも勝手知ったる湊家なので、手助けは不要だろう。

 洗面所のほうから、葉月がうがいをしている音が聞こえてくる。


「やっべぇ……死ぬほど気持ちよかった……」

 ソファに座っているのもキツいくらい、気持ちよすぎて腰が抜けそうだった。

 これなら、学校をサボった価値は充分にありすぎる。


「ふぇー、ただいま……って、湊。なに、魂抜けたみたいな顔してんの……」

「いや、葉月があんなに凄いなんて……この前の瀬里奈と二人のときは、手加減してたのか?」


「ば、馬鹿っ! そんな……え、あたしそんなに凄かった?」

「マジで凄かった……どこで習ったんだよ、あんなの」

「な、習ったわけじゃ……! ほら、いろいろ教えてくれる子とかいるし……ちょっとエッチな漫画とか、動画とか観るし。あ、あのね、女子だってエロいことに興味あるんだからね?」


「そ、そういうもんか……」

「そういうもんなの」

 葉月は、湊の隣に腰を下ろす。


「で、でも……今日も三回も……あんた、やる気満々すぎない……?」

「仕方ないだろ……葉月が気持ちよすぎて……」


「そ、そうなんだ……瀬里奈と二人のときよりよかった……んだよね?」

「葉月の技術は確かな向上が見られたな」

「ふ、ふふん、湊との友達歴はあたしのほうが瀬里奈よりちょっと長いもんね」

 それはあまり関係ないのでは、と湊は思ったが口には出さない。


「あのさ、一回キスしようか? ちゃんと、口は洗ってきたよ」

「なんだよ、急に」


「友達同士のキスはいいんだって。ほら、んっ……ちゅっ……」

 葉月は湊に軽く抱きついて、ちゅっと唇を合わせてくる。


「ふー……もう一回なら、キスしてもいいよ?」

「おまえのほうからしてきたんだろ」


「いいから……ちゅっ♡」

 もう一度キスして、葉月はぎゅーっと抱きついてくる。


「お、おい……どうしたんだよ?」

「なーんでもない。瀬里奈と三人もいいけど、やっぱ二人でも遊ばないとって思って」

「そうだなあ……瀬里奈さんはまだ恐れ多いところもあるし」

「あんなことまでヤらせといて、まだ恐れ多いんかい」


「そりゃあ、俺だって少しは気遣いってもんをするし」

「あたしには全然気を遣わないくせにねー。ま、それがいいんだけど♡」


「は? もっと遠慮せずに要求していいってことか?」

「……なんかエロい意味を感じるけど、まあ湊なら遠慮しなくていいよ」


「ふうん……じゃあ、もう一回キスいいか?」

「一回でいいんだ?」

 葉月は、ニヤリと笑って唇を重ね、舌を伸ばして絡めてくる。


「んん……ふぁ……そろそろ出ないと、2時間目には間に合わないね」

「もういいや。どっちかが昼から出ることにしよう。3時間目に間に合えばいいだろ」

「さすが、湊。気が合うね。あたしも、今そう言おうと思ってた」

 どちらからともなく、またキスして――たっぷり5分ほども唇をむさぼり合う。


「あたしの唇、どんな味する?」

「ちょっと玉子焼きの味がするかも」

「えーっ、さっき口ゆすいだのに。玉子焼きの味なら、甘いんだろうね」

「甘いなあ……」

 ちゅっ、ちゅっとキスする二人。


「あとは、時間までしばらくまったりしよっか。今日は大サービス、キスはおかわりし放題、好きなときにパンツ見ていいよ♡」

「今日はえらくご機嫌だな、葉月」

「友達と遊んで楽しくないヤツがいんの?」


 葉月はにこっと笑って、またキスしてぎゅーっと豊かな二つのふくらみを押しつけてきた。


「やんっ、マジでパンツ見てるよ♡」

 湊がキスしながら葉月のスカートをめくり上げると、葉月は恥ずかしそうに笑った。


 本当に3時間目から出席できるだろうか――

 湊は、自分の欲望がそれまでに治まるとは、とても思えなかった。

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