第9話 二人目の女友達もお願いに弱い(改)

「んじゃ、行こっか」

 放課後になり、湊が友人たちとダベっていると、葉月が現れた。


「行くって?」

「湊、記憶力ないの? 今日は遊びに行くって言ったじゃん」

「今日とは言われてないような……」


 記憶力がないのは葉月のほうではないだろうか。

 だが、瀬里奈と三人で出かけるという話だろう。


「ごめん、湊借りていくよ。明日には返すから」

 葉月はニコニコ笑って言い、友人たちは顔を赤くして頷いている。

 校内一の美少女に話しかけられただけで、嬉しいらしい。


 もちろん、湊もかつてはそうだったので、友人たちの気持ちがわかる。

 まさか友人たちは、自分と同ランクの湊が葉月のおっぱいを揉んだり吸ったりしているとは夢にも思っていないだろう。


 湊に優越感がなくはないが、友人たちに自慢する気はない。

 葉月との秘め事は、友人同士の秘密――なのだ。


「で、行くって具体的にどこなんだ?」

 廊下を進み、階段を下りながら湊は尋ねる。


「あたしもまだ聞いてない。瀬里奈が行きたいところがあるんだって」

「へぇ……」


「なんか、女子には行きづらいところみたい。牛丼屋さんとか?」

「葉月なら連れて行けるだろ、それくらい」


 この友人は牛丼屋でもラーメン屋でもソロで行けるらしい。

 もっとも、湊が一緒に来るようにお供を命じられることも多い。


「つーか、瀬里奈さんはどこ行ったんだ?」

「男子と一緒に教室を出るのが恥ずかしんだって」

「この奥ゆかしさ……誰かさんも見習うべきだな」

「瀬里奈のほうがズレてんだからね?」


 当然、湊もそれくらいはわかっているし、ただの冗談だ。

 二人が校門を出て少し歩くと、瀬里奈が歩道で待っていた。


「あ、こんにちは、葵さん、湊くん」

「つーか、瀬里奈。こんなところで待ってたら、目立っちゃうでしょ」

「なにか変なところありますか。なんだかジロジロ見られてたんですけど……」


 そりゃ見るだろ、特に男子なら。

 と湊は思ったが、口には出さない。


 この無自覚無防備キャラがいいのだから、矯正しないほうがいいだろう。

 とりあえず、三人になって歩き出し、駅から電車に乗って10分ほど――


「え? ここなのか?」

「は、はい。自分だけでは入りにくくて……」

「まあ、そうかもしれねぇけど」


 駅から3分、湊たちが到着したのはPCショップの前だ。

 メーカー製のPCやタブレットなども売っているが、メインはPCパーツだ。

 CPUやマザーボード、メモリ、ストレージ、グラフィックボード、などなど興味のない人にはまったく意味不明な店だ。


「そういや、この前PCの話してたけど、あれマジだったんか」

「は、はい。メーカー製のPCだとどうしても自分のほしいスペックのものが手に入らなくて」

「俺も詳しくはねぇんだけど、いいのか?」


 湊が使っているのは、大手PCショップのノートPCだ。

 自分でパーツを選んで組む、いわゆる自作PCにも挑戦したいが、部屋が狭くて置き場所に困るので、今はやむなくノートタイプを使っている。


「だいたい必要なものはメモってきましたので」

「そうか、なら入ってみるか……って、葉月。きょとんとしない」

「あ、ああ。さすがのあたしも、ちょっと予想外すぎて。こんなお店、あるんだね」

 興味がない人間だと、たとえ店の真ん前を通っても記憶に留まらないだろう。


「ほら、湊。あんたが先に入らないと、瀬里奈が入れないでしょ。ゴーゴー」

「はいはい。手でも引いたほうがいいか?」

「あ、はい。ありがとうございます」


 瀬里奈は当然のように、湊の手を取った。

 これもむろん冗談だったが、瀬里奈は手を取ってエスコートされても気にしないらしい。

 振り払うわけにもいかず、湊は瀬里奈の手を引いて店内に入る。


 俺たち、PCショップには一番似つかわしくない“カップル”とやらに見えるのでは?

 湊は、冷や汗をかきそうだった。


 女の子のほうはとんでもない美少女で、しかももう一人美少女がいる。

 わけのわからない集団だった。


 いや――と、湊は気を取り直す。

 友人三人で遊びに行く――珍しくもなんともない。

 ちょっと女子率が高いだけで、特におかしなところはない。そのはずだ。


「うわぁ、こんなにいっぱいパーツが! 宝の山ですね!」

「……瀬里奈さん、学校と印象が違うな」

「あたしも、こんな元気いっぱいの瀬里奈、初めて見た」


 パーツが並ぶ棚の前で、目を輝かせる黒髪で清楚な美少女。

 その後ろで、湊は葉月とヒソヒソ話している。


「あの、湊くんもPCでゲーム遊ぶんですよね? 自分がFPSやるなら、どのパーツを選びます?」

「えっ、あー……ゲーム遊ぶなら、まずグラボだよな。ああ、今日はけっこう入荷してんじゃん。値段がすげーのもあるけど」


「これでもほぼ定価ですよ。今は良いグラボを買いたかったら、転売価格になってしまいますからね。今日はラッキーです」

「明日来たら、このあたりの棚、からっぽだろうな。3000番台もいいけど、やっぱゴツいな。3スロットも占拠すんのか」


 湊が使っているのはノートPCだが、デスクトップに憧れているので、多少の知識はある。


「このゴツいのがロマンあっていいです。簡易水冷化なんかもいいですね」

「内部がかさばるだけで、結局空冷でもあまり変わらんって言わないか?」

「本格水冷なら見た目にロマンあるんですけどね。綺麗なピンクの冷却水とか、テンション上がりそうです」

「見た目のロマンか、実用性かってジレンマはあるな。CPUの簡易水冷ならアリ――って、おい。なんだ、葉月、すげー顔してんな」


「……ん? ああ、いや、なんか二人が宇宙の言語で話してっから」

「日本語だよ。でも、そうか……」


「葵さんには、やっぱり退屈だったでしょうか……?」

「ああっ、そんなことないって! 瀬里奈の変なトコ――じゃない、新たな一面に感心してるトコだから」

「はぁ……そんなに褒められるとは思いませんでした」


 葉月は褒めているどころか、口を滑らせているが瀬里奈は気づかなかったようだ。

 ただ、この店では葉月がなにも楽しめない。


 湊は、瀬里奈の意外な一面をずっと見ていたいくらいだが、葉月が機嫌を損ねるのも怖い。

 瀬里奈を楽しませつつ、早めに引き上げたほうがよさそうだ。



「やっと念願叶って、満足です……」

 瀬里奈せりなは、PCショップの紙袋を抱えて満足げだ。


 グラフィックボードを一枚、買ってきたのだ。

 下手をすると、安いノートPCが一台買えるほどのお値段だったが、瀬里奈はあまり気にならなかったらしい。

 お屋敷に住んでいるという話どおり、お嬢様のようだ。


「パソコンってお金かかるんだね。部品一つで、あんな値段がするなんて」

「いや、もっと同じパーツでもっと安いのもいくらでもあるから。まあ、安いなりの性能だから、買えるなら高いもの買ったほうがお得だけどな」

「ふーん」

 葉月は、あまり興味なさげだが、値段には驚いたらしい。


 三人は、またもや葉月の自宅を訪れていた。

 ファミレスかカフェ、カラオケボックスなども候補に挙がったが、葉月がどうせなら家でくつろごうと言い出したのだ。


 どうやら、葉月は慣れない店で疲れたらしい。

 湊も瀬里奈も、異論はなかった。

 三人で、葉月の自室に腰を落ち着けたところだ。


「おっと、お茶を淹れるのを忘れてた。おほほ、おかまいもしませんで」

「なんだ、そのキャラ」


「あ、葉月さん。今日は私がご用意します。さっき買った紅茶がありますから」

「なんで紅茶なんか買ってんのかと思ったら、そういうこと。あたし、葉っぱから紅茶なんて淹れたことないなあ」


「できれば、ポットのお湯ではなくて、沸かしたてのお湯で淹れたいのですが」

「ヤカンがあったような……ちょっと探してこようか」

「私も行きます」


 と、女性陣は二人して葉月の自室から出て行った。

 今日も猫のモモが部屋の隅にいるが、相変わらず人間どもに感心はなさそうだ。

 と思ったら、葉月だけが戻ってきた。


「やー、葉月家始まって以来、葉っぱで紅茶を淹れることになりそう」

「んな大げさな。瀬里奈さんは?」

「お湯沸かしてるよ。紅茶なんてティーバッグかペットボトルでいいのに」

 どさっ、と葉月は湊と並んで座る。


「あいつ、なにするにも真剣だかんねー」

「今日も真剣にパーツ選んでたな。俺たちがいなかったら、閉店までいそうだった」


「あはは、マジでそう。でも、あのお店はワケわかんねー。瀬里奈って、キーボードカチャカチャターン! ってやってハッキングとかしてんのかな」

「どんなイメージだよ。さあ、ゲームじゃなさそうだが……」


 グラボにこだわっていたが、動画編集とか写真加工とかだろうか、と湊は想像する。

 瀬里奈も女子高生、写真や動画はよく撮るのかもしれない。

 本格的な編集や加工をやってる女子高生は珍しいが、ありえなくはない。


 まさかプログラミングではないだろうが……。

 湊はまだ、瀬里奈が理系かどうかも知らない。

 湊たちは1年生で、文理選択は2年生からなのだ。


「そういや、葉月。瀬里奈さんって頭いいんだろ?」

「成績はトップクラスだね」

「俺に教わらなくても、瀬里奈さんに教わっとけばよかったんじゃないか?」

 湊がそう言うと、葉月は苦笑した。


「瀬里奈は人に教えるのはまったく向いてないよ。答えが間違ってても、『方向性は合ってます』とか『字が綺麗なので+1点です』とか甘やかしてきそうだもん」

「……ありえるな」


「つーかさ、あのときあたしがあんたに教えてってお願いしなかったら……」

「ん?」

 葉月が、じろじろと目を細めて湊を睨んできている。


「なんでもねーよ。瀬里奈は頭良すぎだからね。あんたくらいに教わるのが、ちょうどよかったんだよ」

「そーっすか。ほどよく勉強できる程度で悪かったな」


「すねない、すねない。ほら、瀬里奈もうちょっと時間かかるだろうから……」

「……え? おっぱい揉んでいいのか?」


 葉月は、今日は歩き回って暑いのかピンクのカーディガンは脱いでいる。

 白いブラウスのボタンがいくつか外されていて、谷間がやや覗いてしまっている。


「い、いや、いくらなんでもやべーだろ。なにかの弾みで、瀬里奈さん、戻ってくるかもしれねぇし」

「とか言いつつ、胸元に手ぇ入れてんじゃん、この野郎」


「……ちょっと、ちょっとだけ揉ませてくれ」

「ガチでちょっとだけだかんね? やんっ、こらっ、いきなり激しっ……」


「いやあ、女子二人と買い物して、ちょっと興奮してるのかも」

「そ、そんなことで興奮すんの? 変態じゃん。やんっ、もうっ……こら、ブラが壊れちゃうから……んっ……こ、これでいい?」


「自分からブラ外すとか、今日はずいぶんサービスしてくれるなあ」

「うっさい。湊、いっつも力一杯揉むから、ブラ壊れちゃいそうなんだよ。高いんだからね、ブラジャーって」


 葉月は湊を睨みつつ、ブラジャーを外す。


「こら、揉んでもいいけど……み、見るのはダメ」

「心の目で見て揉めとでも?」

「武術の達人か、あんたは。べ、別に見なくても揉めるでしょ」

「まあなあ……」

「つーか、ガチで揉んでるし……やんっ」


 やはり、生で揉むおっぱいの感触は素晴らしすぎる。

 湊は最高の柔らかさを味わいつつ、手をさらに激しく動かして――


「ば、馬鹿。強く揉みすぎだって。もうっ、すぐそこに、瀬里奈いんのに……」

「少しだけ、もう少し揉んだら、すぐやめるから」

「あ、当たり前……んっ……! もー、あたしの胸、好きすぎ……!」

 葉月は顔を真っ赤にして言いながら、身体を密着させてくる。


「なんか、葉月のほうもけっこう興奮してねぇ?」

「あ、あたしはお願いされたから揉ませてるだけで……ほとんど毎日揉んでるくせに、よく飽きないよね……」


「そりゃ、他に揉めるおっぱいもないし」

「ふ、ふうん……瀬里奈のおっぱい、狙ってるってわけ?」

「さすがに、お願いしても揉ませてくれないだろ」


「どうかな……あいつ、優しすぎるからね。必死にお願いすればワンチャンあるかも……ああんっ」

「こ、声でけぇって。瀬里奈さんに聞こえたら――」


「す、すみません……もう聞こえてます……」


「「…………っ!」

 湊と葉月は、弾かれたようにぱっと離れた。

 葉月の剥き出しになっていた胸が、勢いでぷるるんと揺れる。


 葉月自室のドアのところに、上着を脱いで白ブラウスを腕まくりした瀬里奈が座っている。


「え、えっと……湊くんは私のおっぱ……む、胸を揉みたいのですか?」

「そ、そりゃあ揉みたいけど……」

「そこで肯定できるの、鋼のメンタルよね、あんた」

 ぎゅーっ、と葉月が湊の頬をつねってくる。


「あの、葵さんと湊くんってお付き合いしてる……のですか?」

「い、いや、友達だよ。でも、男女の友達同士だからできる遊びをやってるっていうか」

「あたしが、友達のお願いを聞いてやってるだけっていうか」

「そ、そうですか……お友達……」

 瀬里奈は、ぼそりとつぶやくと。


「も、揉まれるのはちょっと怖いですが……す、少しくらいなら触ってもいいですよ」

「はぁ!?」


 湊が戸惑いの声を上げたが――

 瀬里奈はそれにかまわず、座ったまま、ぷちぷちとブラウスのボタンを外して脱ぎ――


 透き通るほどに白い素肌があらわになる。

 レースの刺繍で縁取られた白いブラジャーが現れ、瀬里奈は背中に手を回して、ぷちんとそれも外した。


「お、おい……」

 湊は制止しようとしたが、できなかった。

 葉月ほどではないが、ほどよくふくらんだ二つのふくらみ。

 驚くほど真っ白な胸にはハリがあって、形が素晴らしく整っている。

 その頂点の乳首も、薄い桜色で可愛らしい。


「せ、瀬里奈。あんた、無理しなくても……」

「い、いえ……私も男の子のお友達、初めてですし……こういうことするって知らなかったですが……」

 すすっと、瀬里奈は両膝をついて、湊と葉月のそばへと近づいてくる。


「私も、お二人みたいに仲良くなりたい……」

「そ、そりゃ、ある意味仲はだいぶ良いかもしれんけど……」

「フツー、男女の友達でも、こんなことしないでしょ」

 湊は興奮するより戸惑い、葉月もだいぶ驚いているようだ。


「ていうか、マジでいいの? 瀬里奈さん?」

「ど、どうぞ……やんっ!」

 瀬里奈は、驚きの声を上げた。


「も、揉むのはまだって……あんっ」

「おいこら、湊! あんた、なにをいきなり揉んでんの!?」

「あ、しまった、つい……ご、ごめん。瀬里奈さん……もうちょっと揉んでいいか?」

「……は、はい……少しだけなら……」

「こいつもお願いされたら断れない系かよ」

 葉月も、友人のこんな一面には気づいていなかったようだ。


「やんっ……こんなの……んっ、初めてです……」

「葉月のとけっこう柔らかさが違うな……」

「そ、そんなに違うものですか……?」

「なんとなく、そんな感じが……ちょっと比べてみてもいいか?」

「なんのお願いよ、それは」


 葉月はジト目で湊を睨みながらも、ブラウスの前を開いて、自慢のFカップをよく見えるようにしてくれる。


「って、いきなり揉むなあ……! あんっ、強いって……!」

「あっ、今度は私……んっ、本当に、感触って違うのですか……?」

「んー、よくわからないから、もっと揉んでみないと……」


「あ、あんた……あたしと瀬里奈のおっぱい、交互に揉むとか贅沢すぎ!」

「……わ、私、葉月さんほどおっきくないから……少し恥ずかしいです」

「瀬里奈、そこ恥ずかしがるところ違う」


 一人は怒り、一人は照れながらも二人の女友達が胸を突き出すようにして、湊に揉みやすいようにしてくれる。


「あっ、今度は一緒に揉みながら、女子二人のおっぱい同時に揉むとか……もうやりたい放題じゃん!」

「んんっ……揉まれると、余計に小さいのがバレちゃいます……」

「ごめん、瀬里奈さん。もう少しだけ……」


「は、はい……ああ、後でお湯を沸かし直さないと……」

「そこが気になるんだ、瀬里奈……んっ、おっぱいのこと、気にしたら……?」

「おっぱいのこと、気にしてたら変な気分になっちゃいそうで……ああんっ!」

「もうちょっと、もうちょっとだけ……やべぇ、最高かこれ」


 湊は二人のおっぱいの間に顔を埋めるようにする。

 一方は大きく、一方は並みサイズのふくらみだが、どちらも信じられないほど柔らかくて気持ちいい。


 あくまで、葉月葵も瀬里奈瑠伽るかも、湊にとっては友達だ。

 あくまで、友達にお願いして胸で遊んでいるだけだ。


 勝手な思い込みではあるが――そうとでも思わないと、この夢のようなシチュエーションに興奮しきって、これ以上の行為に走りかねない。


「あふっ……! あんっ、優しく揉むのもダメって……痺れちゃうみたい……!」

「わ、私も……もっと揉んでも、いい……ですよっ……」


 二人の女友達は可愛すぎる。

 お願いすれば、この二人の胸を揉み、味わえるなど――

 湊と彼女たちとの友情は、ある意味では固く結ばれつつあるようだ。

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