第6話 二人目の女友達もスカートをめくってくれる

 12階でエレベーターを降り、廊下を少し進む。


「どぞー、今日も誰もいないから遠慮なく」

「お、お邪魔します」

「ちわーす」

 葉月がドアを開け、瀬里奈せりなみなとが続いて中に入る。


「葵さんのお家、初めてです。いいご自宅ですね」

「普通じゃない? 高級タワマンってほどでもないし。ねえ」

「いや、いい家だろ。最上階だしな」


 葉月に訊かれて、湊は素っ気なく答える。

 別にマンション内カーストを気にするわけではないが、最上階の住人に特別感があるのは事実だ。

 お値段も10階の湊家よりそれなりにお高いはずだ。


「ま、いいや。あたしが建てたわけでも買ったわけでもないし。二人とも、あたしの部屋でいいよね。ウチのリビング、殺風景でさあ」


 葉月がけらけら笑いながら、リビングのドアを開けた。

 白いカーペットに同じく白のソファ、黒のテーブル、大型の液晶TV。

 置いてあるものはごく普通だが、モノトーンでまとめているせいもあって、シンプルな印象のリビングだ。


「ウチの母、意識高くて。ゴチャゴチャした生活感のある部屋がイヤとか。めんどくさっ」

「いえ、清潔感もあっていいお部屋ですよ」


「はは、瀬里奈ん家こそすげーんでしょ? 武家屋敷みたいな家だって聞いたよ」

「古い平屋というだけですよ。今時、珍しいですよね」


 瀬里奈は苦笑して言った。

 どうやら、大和撫子な瀬里奈の見た目を裏切らず、彼女の家も和風らしい。


 湊は、一度見てみたくはあったが――

 まさか、葉月以外の女子のお宅を訪問することはないだろう。

 ちなみに、湊は今日、葉月家にも初めての訪問という設定だ。

 ついでに付け加えると、湊家がこの二つ下のフロアにあることも秘密になっている。


 瀬里奈が校内で言いふらすとは思えないが、誤解を避けたほうがいい。

 その点、湊も葉月も常識をわきまえている。

 恋人でもない男女が、毎日お互いの家に入り浸っていることは非常識だが。


 葉月に案内されて、彼女の部屋に入る。

 模様の入った白のカーペットに、ウッドデスク、ドレッサー、クローゼット、それに大きめのベッド。

 部屋の真ん中には黒い小さめのテーブルがあり、クッションも置かれている。

 さらに、部屋のあちこちにウサギやクマ、イルカやペンギンなどのぬいぐるみが散らばっている。


「あ、モモ、こっちにいたんだ」

 ウサギのぬいぐるみと並んで、ブラウンの毛色のスコティッシュフォールドが座っている。

 主人である葉月が声をかけても、微動だにしない。

 起きているようだが、葉月にも客たちにも特に興味はないようだ。


「愛想のない猫だけど、代わりに引っ掻いたりもしないから気にしないで。あ、飲み物取ってこよっと。ほほほ、お紅茶でいいかしら」

「あ、おかまいなく」


「湊はカレーでいいよね?」

「カレーは飲み物!?」

「はっはっは、んじゃ少々お待ちを~」


 ふざけて言い、葉月は部屋から出て行った。

 湊は、瀬里奈と狭い部屋で二人きりにされて――少々居心地が悪くなる。


 ほとんど話したこともないクラスメイトで、しかも並外れた美少女。

 これで落ち着いていられるほど、場慣れしていない。


「なんだか、今日は葵さん、機嫌が悪いですね」

「え? あれ、機嫌悪いのか?」

「ええ、なんとなくですが……そんな気がします」

「うーん……」


 湊から見れば、むしろご機嫌なようにも思える。

 ただ、付き合いの長さで言えば、同中の瀬里奈のほうがずっと上。

 瀬里奈の感覚のほうが正しい可能性が高いが――


「機嫌が悪いのに、人を自分ちに連れてくるかな?」

「用があればそうするのでは?」

「ただ遊びたいだけだろ。別に用があるわけじゃないだろう」

「私の気のせいでしょうか……」


 瀬里奈が、くいっと小首を傾げている。

 狙っているわけではないだろうが、あざとく可愛い仕草だった。


 それに、二人でテーブルを囲んでいるが、そのテーブルが小さいので瀬里奈との距離がかなり近い。

 ふんわりと甘酸っぱい、いい香りが漂ってくる。


「でもここ、葵さんらしい可愛いお部屋ですね」

「あー……意外に片付いてるしな」


 湊も初めて来たときは、もっと雑然とした部屋を想像していたので驚いた。

 ぬいぐるみなど可愛いグッズがあるのも意外ではあった。


「そういや、瀬里奈さんがここ初めてなのも意外だったよ」

「私は、葵さんがあまり家に人を招かないタイプなのかと思ってました」

「え? そんなことは……」


 湊があまり葉月家に来ないのは、女性だけの家に遠慮しているからだ。

 むしろ葉月はいつでもウェルカムという感じだ。


「同じ中学の方たちでも、葉月さんのご自宅に行ったという話はあまりいないような」

「へぇ……あんなにあけっぴろげに見えるのにな」


 いろんな意味で、葉月はあけっぴろげだ。

 スカートの中まで見せてしまうくらい。


「そういえば、前に葉月さんから聞いたことがあります。同じマンションに同じ高校の方がいらっしゃるって」

「あ、ああ。そうなのか?」


 間違いなく湊のことだ。

 葉月のことがあってから、他にも同じ学校の生徒が住んでいないか確かめている。

 もし、湊と葉月が互いの家に入り浸っていることがバレたらまずいからだ。


 その結果、他に高校生がいる家庭はいくつかあるが、湊たちと同じ高校に通っている者はいなかった。

 もちろん、確実とは言い切れないが……。


「ええ、今年の春くらい……でしょうか。同じマンションに引っ越してきた方が、高校まで同じだったと聞いた覚えがあります」

「へ、へぇ、入学に合わせて引っ越してきたのかな」


 葉月がどこまで具体的なことを話してるのか、湊はヒヤヒヤする。

 秘密というのは、思わぬところから漏れるものだ。

 湊よりはるかに交友範囲の広い葉月のほうが、情報を漏らす危険は大きい。


「……って、あれ?」

「どうかしましたか、湊くん?」

? 春に聞いたのか、その話?」

「はい、入学してすぐの頃だった記憶がありますから」

「…………」


 なにかの間違いだろうか?

 葉月が湊に「勉強を教えてくれ」と頼み込んできたのが、七月頃。

 さらに、湊と葉月が同じマンションだと判明したのは、夏休みくらいだったはずだ。

 具体的な日付などはもちろん覚えていないが、少なくとも春ということはありえない。

 葉月は、――?


「はーい、お待ちどう! キンキンに冷えたコーラだよ!」

「お紅茶、どこ行ったんだよ」

「い、いえ、コーラも好きですよ、私」

 瀬里奈がフォローしているが、間違いなく紅茶を淹れるのが面倒になっただけだろう。


「文句言うな、あたしが注いだコーラなんて男子なら争って奪い合うレベルだよ」

「誰が注いでもコーラはコーラだろ」


 そう言いつつ、湊はコーラのグラスを受け取る。

 葉月は、瀬里奈にもグラスを渡して、湊の隣にすとんと座った。

 別に他意はないのだろうが、湊が美少女二人に挟まれている形になっている。


「んじゃ、なにして遊ぼっか。瀬里奈で遊んじゃう?」

「なにをするつもりですか!?」


「やっぱ、ブルマはマニアックすぎね? どうせなら生パンツのほうがいいよ。パンツとブルマなんて露出度はおんなじくらいだし」

「い、いえ、さすがに無防備すぎるのは……」


「つーか、俺の存在忘れんな。男子の前でする話じゃねーだろ」

「男子なら大喜びの話でしょ?」

「やめろ、やめろ。瀬里奈さん、おまえとはタイプが違うんだからな?」

 瀬里奈は、堂々とパンツの話をするような女子ではない。


「ちなみにあたしは、スパッツ嫌いだから、さっき脱衣所で脱いできた」

「なにしてんだ、おまえは……」


 どうやら、葉月が帰宅したらすぐにスパッツを脱ぐというのは本当らしい。

 湊の頭を、ぐるぐるとここ数ヶ月の情景が巡る。


 あのときもこのときも――

 葉月が湊のベッドの上で、スカートの裾を危うくさせながらゴロゴロしていたときなど、一つ間違えば生パンツが目撃できたのでは?


 今、湊のPCには葉月のパンツ画像がどっさりあるが、それはそれだ。

 葉月のパンチラなら、何度でも生で見たい。


「……ブルマって、やっぱり変でしょうか?」

「いやいや、葉月の言うことを真に受けなくていいって。そりゃ、露出度は変わらないけど、下着は隠せてるわけだし」


「けどさ、湊は興奮してたじゃん。男を興奮させちゃダメなんじゃない?」

「あれは、おまえがいきなりスカートをめくったからだろ! そりゃびっくりするわ!」


「じゃあ、最初から普通に見せたら興奮しないの?」

「……シナイヨ」

「こいつ、嘘つきです! みんな~、ここに嘘つきがいるよ~!」

「誰だよ、みんなって!」

 ぎゃあぎゃあと、湊と葉月はお互いの手や肩を押し合う。


「ですが、ブルマはやはりよくないでしょうか……」

「そんじゃ、もっぺん湊に見せてみたら? つか、湊も見たいでしょ?」

「なんでだよ!」


「見たくないの?」

「そういう問題じゃなくてな……そりゃ、見たいが」


「み、湊くん……?」

 ずざざっ、と瀬里奈が座ったままわずかに湊から離れる。


「あっ、ごめん。そういう意味じゃなくて……葉月、いらんことばっか言うな!」

「あたしのせいにされても。いいじゃん、ちょっと見せてみようよ、瀬里奈。こいつも見せてって言ってるし。ブルマなら見られてもいいでしょ」


「え、ええ……ですが、見ても面白いものではないですよ?」

 すっ、と瀬里奈はいきなり立ち上がり――

 さらに、すすっと長めのスカートをめくって――白い太ももがあらわになり、さらに厚ぼったいブルマが姿を見せる。


「…………」

 湊は、ごくりと唾を呑み込んでしまう。

 この頭の悪い展開に驚いているが、それ以上に清楚な美少女の瀬里奈がスカートをめくっている姿のエロさがたまらない。


「ど、どうですか? やはり変でしょうか……?」

「瀬里奈、ちょっとこっち向いて」

「あ、はい」


 瀬里奈は葉月のほうを向き、湊に背中を向ける格好になる。

 いや、瀬里奈が立っていて、湊が座っているので、彼女の小ぶりな尻が顔の前にある。

 しかも――


「うっ……」

 また、湊は唾を呑み込みそうになる。

 瀬里奈の可愛い尻を包んでいるブルマ――それがわずかにズレていて、その下の白い布地が見えている。


 やっぱり、清楚な瀬里奈瑠伽るかのパンツは白か。

 湊は知らないが、ブルマではありがちな“はみパン”だった。


「つーか、瀬里奈、超エロすぎ。やっぱ、ブルマは余計にエロいわ」

「そんな結論なんですか!?」


 瀬里奈は、ぱっとスカートをめくっていた手を放して、座り込んでしまう。

 だが、既に湊の目には瀬里奈の白いはみパンがしっかりと焼きついていた。


 この前、葉月のパンチラと撮影会という意外すぎる事態が起きたばかりだというのに。

 今日友達になった――とも言い切れない女子の、こんな姿を見てしまうとは。

 湊は、葉月と友人になってから自分の周りが大きく変わり出したいるのを感じた。

 ブルマのはみパンでそんなことを感じるのもどうかと思うが。

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