舞台は近未来の日本。今より少しテクノロジーの進化した世界で、人々の心の病も深化しています。そんな社会で問題となっているのが「眠り病」。健康そうな人が、ある日眠ったまま目覚めなくなるという奇病です。主人公『コウ』の使命は、眠り病の患者さんたちの夢に潜って彼らを叩き起こすこと。
眠り病にかかって運ばれてくる患者さんたちは、けっこうディープな心の闇を抱えています。そんな患者さんたちの潜在意識なわけですから、夢の中ではそりゃあもう凄いことに。中には読む人が辛くなるかもしれないほどの描写もあって、これは作者様も書くのに相当エネルギーを要するだろうなあ……と思います。
でも、そういうところまでしっかり描かれていて、向き合うからこそ、それを乗り越え患者さんたちが救われる度、コウさんも、そして読む人も、心が強くなれるのではないかと思うのです。
そんな難しいテーマの緩衝材になってくれるのが、魅力的なキャラクター。
シュウ博士は、端的に言えばブッ飛んでいます。見た目も性格も破天荒ですが、もうとにかく、口が悪い!(いいぞ、もっとやれ)
コウさんは逆に、つかみどころのない人という感じがします。シュウ博士に比べれば間違いなく常識人ですが……。
基本シュウ博士に振り回されつつも、時々底知れぬ力を発揮して患者さんたちを救っていくコウさん。
二人のやり取りは深刻な局面にあってもどこかコミカルで、それが「心の闇」という素材の重さと良い具合にバランスをとっています。
そして気になるのは、記憶をなくしたコウさん。彼女は何者で、どんな過去を抱えているのか。ストーリーが進むほどに少しずつヒントがちりばめられているのですが、なかなか教えてはくれません。焦らされます。続きが気になる……!
この物語のバックグラウンドには、現在の日本にも蔓延するストレスや精神疾患だけでなく、様々な社会問題も見え隠れしていて、今この瞬間も、こういう問題に苦しんでいる人がたくさんいるのだろうと考えさせられる部分が多々あります。
あなたの周りの人、そしてあなた自身は大丈夫ですか? 「近未来×夢の中」という超現実的な世界から、現実を見つめ直してみませんか。
気づかぬうちに「眠り病」に落ちてしまわぬよう、皆様もお気をつけて……。