あと何回、整形合宿をすごせば出られますか?

ちびまるフォイ

Sランク美人になるために

「整形合宿所へようこそ。ここではみなさんをより美しくするものだけでできています。

 そのかわり、ランクS美人になるまでは合宿所からは出られません。

 ブスを排出した合宿所として評価を下げられるわけにはいきませんから」


「「「 はい! 」」」


整形合宿に参加した他の女どもを見てみるとブスばっかりだった。

その外見でいろいろ損をし、整形を通して人生を変えようと来たのだろう。


ブス由来のねじまがった心は整形では直せない。

私のようにスタートが美人の人間とはステージが違うのよ。


「先生、あの白い箱みたいなものは?」


「あれは空気清浄機よ。美人を維持するにはきれいな空気が必要なんです」


この整形合宿所ではあらゆるブサイクになる要素を削っている。空気ですらも。


太陽の光はいっさい遮断されて肌の劣化は起きない。

水道の水には不純物だけでなくサプリメントが溶かし込まれている。

食事は完璧に管理されて参加者すべてが理想の体型になれる。


そして、毎日のプチ整形が行われる。


「先生、私はきれいですよね」


「ええ、そうですね。あなたは参加者の中でも特に美人です。

 SランクとまではいかないまでもAランクではありますよ」


「でしょう。私もそう思います」


「不思議なのはあなたのような美人がどうして整形合宿に?」


「0を100にしたい人もいれば、99を100にしたい完璧主義な人もいるんですよ、先生」


「本日の施術は以上です。次回はフェイスラインの調整にしましょう」


整形が終わると自分の部屋に戻される。


部屋には一切の私物を持ち込むことはできない。

合宿所から提供される「美しいもの」だけがある。


SNSなどを始めとする合宿所外のものは心を美しくさせないらしい。

部屋にいるときは退屈で、食事も淡白。娯楽なんて何一つなかった。


「はぁ……早く出たいなぁ」


窓の外を眺める。

窓の形をしたモニターは美しい星空だけを変わらず映していた。



ある日のこと、整形合宿の参加者が一度に集められた。


「はいはい。皆さん静かにしてください。今日はいいお知らせがあります。ついにこの整形合宿からSランク美人ができました!」


私はハッとした。


整形合宿はただ生活しているだけでも美人の階段を上がることができる。

知らず知らずのうちにSランクにたどり着いてしまったのだろう。


「さあ、ソフィア。こちらへいらっしゃい」


呼ばれたのは私ではなかった。

みんなの前に出てきたのは整形合宿開始時に誰よりも太っていた女だった。


「私、こんなにきれいになれるなんて思わなかったです。

 みんなとお別れするのは寂しいけど、外の世界で新しい一歩を踏み出します!」


ソフィアの言葉はしらじらしく聞こえた。

きっと心の中では勝ち誇って、見下しているに決まっている。


(なんであんなデブスに先を越されるのよ……!)


何度鏡を確かめても私の顔面偏差値はソフィアを超えていた。

男ウケしやすい顔だからソフィアの方が先に卒業できたのか。

理由はわからない。


「先生! どうしてソフィアなんですか!

 あの子がSランクなら私なんかSSランクですよ!」


「落ち着いてください。あなたもきっと卒業できますよ」


先生はそう言ってごまかしていたが、日に日に卒業者が増えるにつれ私はますます焦り始めた。

自分が美人であるだけに新しく入った合宿参加者にも「いつまでも卒業できないのは問題がある」と思われてしまう。


「なんで私が……売れ残りみたいな扱いを……」


いつまでも見えてこないSランク美人のゴールにストレスが溜まっていく。


「さぁ、今日の整形手術をしましょう。今日はフェイスラインアップを……」


「触らないで! 私はもう十分に美人よ!!」


「どうしたんだい。整形が嫌になってしまったのかい?」


「来る日も来る日も整形整形……いったいいつになったら私は美人になれるの!?」


「大丈夫。この整形合宿を続けていけばみんな必ず美人になれるよ。さあ整形をしよう」


「来ないで! これ以上整形を続けたら、私は劣化してしまう!

 もう十分に美人なのに整形美人になりたくない!」


「な、なにをするんだ!?」


整形医師をなぐって倒し、キーカードを奪い取る。

地下の鉄扉に向かいカードをかざして外へ出た。


あの合宿所ではSランク美人として認められなくても、

外に出れば街に出れば私はきっとSランク美人として崇めたてまつられる。

私は誰よりも美人なんだから。


外に出た先ではちょうどいいところに男が歩いていた。

見るからにモテなさそうな顔をしている。小手調べにはちょうどいい。


「こんにちは♪」


女から声をかけられることもないであろう男はキョドりながら私を見返した。

私のような美人を見たらすぐに恋に落ちてしまうだろう。


「わ、わぁ! ば、バケモノ!?」


「ええ!?」


男はあっという間に逃げしまった。

鏡で自分の顔をたしかめると、バケモノが映っていた。


「なにこれ……なんで顔が溶けてるのよ!?」


私の美しい顔は泥のように溶け始めて見にくく歪んでいた。

あまりの絶望でその場にへたり込んでいると、合宿所の先生が走ってきた。


「ここにいたのね! 脱走するなんてありえないわ!」


「先生! 私は……私の顔はどうしてこんな風になってるんですか!

 うそつき! 整形合宿で私は美人になれるっていってたのに!」


「あなたはまだ"完成"してないのよ。だから外形の空気にさらされると

 未完成の整形が崩れてしまう。合宿所に戻って整形を続けましょう!」


「いやよ! これ以上整形したくない! 素材の良さを残したいの!!」


「今ならまだ間に合うわ! あなたの顔もまだ戻せるわ!」


美人に戻れるが顔をいじくり回される日々になるか。

自由ではあるがもう元のような美人にはなれないか。


私に残された選択肢はあまりに少なく、選ぶのはひとつしかなかった。


「……戻ります。私は整形合宿所に戻ります」


「わかってくれたのね。さあ、整形の続きをしましょう。

 女の子はだれだってきれいになれるのよ」


合宿所に戻るとあれだけ溶けていた顔がみるみる元通りになった。


「驚いたかしら? この整形合宿所にある空気清浄機の力よ」


「どういうことですか?」


「空気をきれいにするだけでなく、ワクチンを空気として出してるのよ。

 合宿所での食事にはすべて毒が含まれいて、外気を取り入れると溶かしてしまう。

 でも、合宿所にいるかぎりは空気清浄機のおかげで平気のなのよ」


「私のような脱走を防ぐためですか……」


「最初にいったじゃないですか。ブスとして卒業させては合宿所の名折れ、と。

 あなたもこの整形合宿で素直に整形を受け続けて、私達の求める理想の顔になればワクチン注射してあげますよ」


「おとなしく従わなければブスのままっていいたいんですか」


「心も美人にしてこそ、本当の意味での美人です。

 そしてこの世界の美人とは従順で謙虚な人を指すんです」


「私は今のままが一番美人なの! これ以上整形なんてさせない!」


「それなら、あなたはこのまま自称美人を誰にも認められないまま合宿所で過ごすことになるわ」


ふたたび整形合宿の日々がはじまった。

合宿所の中で整形を拒否しつづけるのは私だけになった。


「あの子、なんで整形しないのかしら」

「自分が美人だって思ってるのよ」

「あの程度のレベル、外の世界にはたくさんいるのにね」


合宿所でも距離をおかれて、私に近づく人はだれもいなくなった。

整形も拒否し続けるため、Sランク美人になることはなくただ卒業生を見送った。


そんなある日のこと。

珍しく外の世界のニュースが合宿所へ伝えられた。


『大変です! 街では、突然に顔が崩れ始める疫病が流行っています!』


ニュースキャスターの顔もぐずぐずと崩れ始めて、見るに堪えない顔になっていった。

とくに海岸沿いの街ではそのブサイク化が目立っているらしい。


「やっと……やっと来たのね」


私は顔がほころぶのをこらえられなかった。

毎日毎日、食事を水に流し続けて汚染させつづけた日々がやっと花開いた。


外気にさらされた人たちはブサイク毒でブス化が止まらない。

外の世界で美人が失われたころ、合宿所では私の顔面偏差値の診断が行われた。



『あなたの顔面偏差値は、Sランク美人に認定されました』



「当然よ。だってもう私以上の美人は外の世界にいないもの」

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