『噂話は蜜の味』
「……というわけで、スーちゃんは昔っから頭でっかちだけど優しいアンドロイドだったのですよ」
スターチスの話をするデュランタは、終始感傷に浸っていた。彼の優しさを噛みしめながら、彼の境遇に涙を浮かべ、彼の生き方に感銘を受けていた。
「彼はあんまり昔話をしてくれないんだけど、この話だけはしてくれたんです。その日は二人で一緒に泣きました。甘いケーキを食べながらね」
デュランタは、温くなったお冷を一口飲んで。小さく微笑む。
「ちょうど彼の誕生日だったので、とびっきり甘いケーキをね」
「それは、スターチスも嬉しい誕生日になっただろうな」
俺もお冷を飲むが、氷も全て溶けて溢れそうになっていた。
「それにしても、あのスターチスが最初は小太りな外見だとは思わなかったな。機械が剥き出しな今を見てしまうと、想像もつかない」
「そうなの!! 私も一度で良いから見て見たかったですよ……絶対可愛いですもん、ぽっちゃりスーちゃん……」
「え~と、そうだね」
見えない目の奥で、どんな理想的な男性をデュランタは思い浮かべているのだろうか。小太りという時点で、そこまで理想的な風貌にならないとも思うが……。
「デュランタは、太った男性の方が好きなのか?」
「特に趣味嗜好は無いですよ? でも、スーちゃんだったらどっちでも格好良いかなって」
「お熱いことで……」
恋は盲目という言葉があるが、実際に盲目であるデュランタにとっては本当に当てはまる言葉かもしれない。恋とは認識を歪ませることもあるとは聞いたことがあるが、こういった状況になるのか。
「でも、私はやっぱり今のスーちゃんが一番好きです」
「どうして?」
「今のスーちゃんが、一番スーちゃんだからです。そして、今日のスーちゃんよりも明日のスーちゃんの方が好きですね。毎日更新です」
「デュランタみたいな彼女がいれば、そりゃ熱暴走もしちゃうわ」
聞いてて俺も顔が熱くなってきた。夫婦喧嘩は犬も食わないが、惚気話も食えたもんじゃないな。糖分が高すぎて。
「プロトさんだって、いずれはそういう彼女が出来るかもしれませんよ?」
デュランタは少し悪い笑みを浮かべながら俺に顔を近づけた。
「お互い、相手の奥手ぶりには手を焼きますね」
「メリアはそもそも相手じゃねぇ」
「あら、メリアだなんて一言も言っていないのですが」
「目が物語っていた」
「カリメロさんとかもいるじゃないですか。他のメイドさんだって可愛いし、選びたい放題ですね」
「選ぶって……デュランタは意外と下品な奴だな」
「スーちゃんには内緒にしててくださいね? こんな私を」
指でシーっと口を閉じ、子供のように笑った。感情がころころと変わる面白い奴だ。スターチスも苦労するだろう。
そう思っていると、レストランの奥の扉が開いた。
カリメロとスターチスが、腕を組んだまま、何も言わずに真顔で戻ってきたのだ。
「あ! スーちゃん!」
デュランタが声を上げると、スターチスは無言のまま頬から薄っすら煙をあげていた。
「待たせたな、デュランタ」
スターチスはやっと口を開き、デュランタの隣の椅子に腰を下ろす。
「美味しいの出来た?」
「作ったのは俺ではない。だが……良い物が選ばれたと思うぞ」
スターチスの言葉を大きく頷いているカリメロは、俺の隣の椅子に腰を下ろした。
「いや待て、なんでお前も座るんだよ」
「待たせたな、プロト様」
「待ってねぇよ。早く持ち場に戻れ」
「プロト様だってサボってるじゃないですか~」
「俺は今、これが仕事なんだよ」
「裏でメリアお嬢様とすれ違いましたけど、凄い顔してましたよ?」
本当か嘘か分からないことを言われた。
カリメロを信じるわけではないが、俺も早めに席を外すに越したことは無さそうだ。
「二人は、何か話をしていたのか?」
立とうとする俺に、スターチスが質問した。
俺とデュランタは顔を見合い、小さく笑った。
「「世間話を少し」」
綺麗にハモッて、二人して吹き出してしまった。
「なんなんだ、二人して……」
スターチスは首を傾げながら、デュランタの手をそっと撫でるのだった。
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