『Boy meets Girl』

「聞いたよメリア。また強盗を倒したみたいだね」

「倒したとは人聞きの悪い。正当防衛だから良いのよ」


 とある西洋の町『クリミア』は、広くもないが狭くもない、中途半端な町である。

 可もなく不可もないこの地域で僕は、都会の華々しい生活を夢見ていた。


 僕が住む小さな木造の小屋は、この町でも悪い意味で目立つあばら屋だ。部屋の隅には蜘蛛の巣が張り、何度壊してもいつの間にか巣は復活している。薄い板の壁は、外の空気も音も全て室内に招き入れてしまうため、僕は毎日壁の隙間から漏れる朝日で起こされていた。

 周りの家は綺麗なレンガ造りだったり二階建てだったり、青々とした花が飾られた庭があったりと、それぞれの土地をめいっぱい表現しているのに、僕の家だけ膝を抱えて蹲っているようだった。

 そんな惨めな小屋で僕は一人、いまだ趣味の範囲から抜け出せないアンドロイド作りに邁進している。


 アンドロイドは今や人類が生んだもう一つの生命となり、それが世界の常識となった。道具ではなく命という扱いになったアンドロイドを生み出す工程は、特定の工場でしか認められぬ神の技術となっているが、それを個人の技術のみで作り上げるのが夢なのだ。幾多の天才が、その国宝級の頭脳を寄せ集めた品を、この僕が一人で。

 

 この夢が叶えばどうなるか。

 そう、大金持ちになる。

 僕は大金持ちになりたいのだ。


「お金なんてあっても、苦労するだけよ」

 壁の隙間から漏れた光に照らされ、埃が舞う部屋で呟く女性は、いかにも面倒そうに息を零した。

 おんぼろな僕の小屋に似合わぬ綺麗な洋服を身に纏った若い女性が、足元に転がった油まみれの部品を手に取り、僕に渡す。

「私は逆に、あなたの方が羨ましいわ。自分の夢に素直に生きれて」

「隣の芝生は今日も元気そうだ」

 ありがとうと伝え、部品を受け取った。気休め程度にしかならないが、汚れた手を近くのタオルで拭きとってあげる。油汚れは薄くなったが、広がってしまった。


 彼女、メリアは生まれ持っての金持ちで、この町では有名なレストランの一人娘であらせられる。誰もが知っている令嬢で、当然都会のセレブには並ばないが、この町で彼女の家系を羨ましがらない者はいない。

 そして、メリアはとても美しい。丁寧に手入れされた長い金髪が絹のように煌めき、それが簡単に結ばれているだけなのに芸術にも思えた。スタイルもスリムで、どんな服装でも彼女を輝かせてしまう。今はジーパンにタイトなシャツという簡素なものだが、それでも男なら振り向きたくなるだろう。それに加え、パーティの時は豪勢なドレスを身に纏うのだが、こればっかりは僕も見惚れてしまった。それほど、完璧な人間なのだ。


 こんな小屋に住んでいる僕とは、本来住む世界が違う。

 美しい蝶は、綺麗な花畑にいるべきだ。

 それでも、彼女は今日も僕の小汚い小屋へ、ふらっと寄りに来る。


 そんな僕とメリアがこうして話をするくらいの仲なのも、幼き日々の想い出が僕らを結び付けてくれていたからである。令嬢の娘と、貧乏な息子。両極端であるがゆえに友達が少なかった僕らは、いつの間にか友情を育んでいった。それが、こうしてお互いが大人になった今でも、昔のような関係で続いているのだ。

 いや、もしかしたら、僕は昔とは少し違うのかもしれないけど。


「でもサン、あなたは夢を追い過ぎなのよ。普通に働けばもっと良い生活ができるんじゃない? あなたが望むような」

 僕が望むような生活をすでにしているメリアは、今日も僕に正論を突き刺してくるのだ。そんなこと分かってるんだよ。

「男は夢を追い求めたい生き物なんだよ」

「ふぅん。夢じゃ食っていけないけどね」

「そんな僕が食っていけるように、お願いがあるんだよ」

「…………何?」

 

 メリアが露骨に嫌な顔をした。僕のお願いは、基本的に彼女に苦労をかける。僕はもう数えるのを止めてしまったが、今まで何度メリアの眉間に皺を作ってきただろうか……。

「またアンドロイド製作の材料費?」

「それもお願い出来たら嬉しい」

「それもって、あんた……」

「何だかんだ毎回返してるじゃないか、それは!」

「そうだけどさ」

 少し口を尖らせるメリアは、申し訳なさそうに続けた。

「友達に何度もお金を貸すのは、正直良い気持ちしないわ。幼馴染なら尚更よ」

「ご、ごめん……」

 怒るでもなく、純粋に不満そうな表情だ。

 そんな顔で言われてしまっては、僕も立つ瀬がない。

「じゃあ、今回は材料費は大丈夫! それよりも、もっと凄いお願いがあるんだ!」

「どんなの?」

 訝しげに聞くメリア。

 その質問に、僕は満面の笑みを浮かべた。


「出来たんだよ」

「何が?」

「アンドロイドが」

「本当に? 個人で?」

「そうなんだ! まだ試作レベルだけどね!」

「……それってどれくらい凄いの?」

「個人で車を一から組み立てて作る感じかな」

「凄すぎじゃない、それ?」

 いつも僕の作業を見ていたはずなのに、あまり理解してなかったみたいだ。

「これは偉業さ。しかも、僕は現在流通している型とは別のタイプの作製を研究していたんだけど、それが今、形となったわけ。他の大手企業が大金を使って技術をかき集めても、僕の偉業には敵わなかったってことだよ!」

「へぇ! それで、何を作ったの?」


「護衛専用アンドロイドだよ」

 それを聞いたメリアの反応は、まさに拍子抜けを食らったようなものだった。


 護衛専用アンドロイド。そこに真新しさを感じないのは一般人だ。

 これを作るために、何人もの技術者が挫折してきた。


 当然、体術や筋力などは簡単に解決する。データベースに武道や対人術をインプットしたりすれば良いだけの話だ。

 だが、最も問題となっているのが『敵対心の判断および強弱』である。

 道行く人誰にでも警戒していたら生活に支障をきたす。だからと言って事前に危険人物をインプットしていても、突発的な初犯を防ぐことは出来ない。そして、相手に対する対処も、肩がぶつかった程度の者と刃物で襲ってきた者と同じ制圧方法をしていては、どっちが暴力をふるっているか分からなくなる。

 人間が何気なく行っている判断を数式に組み立て、プログラムとして書き上げることが、人類の歴史上まだ出来ていなかったのだ。

 

 そこを、僕は完成させた。長かった。本当に……。

「あ、それ私には要らないかな」

「メリア!?」

 一緒に喜んでくれていたメリアが、唐突に普通のテンションに戻ってしまった。

「これをメリアに使ってもらって、動作確認とかしていきたいんだけど」

「私に護衛は要らないもんなぁ」

「この間だって強盗が入ったんでしょ? メリアのお屋敷!」

「私がいれば退治できるし」

「そうだった……」

 お金持ちのメリアは、護衛性能の確認にうってつけだと思っていた。でも、むしろメリアにとって護衛は最も不要なものだったのだ。


 何度も言うが、メリアは町のお金持ちの娘、いわゆる令嬢だ。当然そこに向けられる目は賛美もあれば、憎悪もある。割合でいえば後者の方が少ないのだが、奴らには行動力があった。

 一人で出かければ路地裏で囲まれたり、夜中には屋敷に奇襲されたりと、持たざる者からの暴力はもはやメリアの日常茶飯事にもなっていた。

 だからこそ、メリアは強くなった。幼いころから武術をいくつも習い、学生の頃にはその全てを体得していた。体格から想像できない攻撃は、何度か悪漢の撃退を目撃したことがある僕が感動で声を漏らしてしまったくらいだった。

 あの時は、映画のワンシーンかと思うくらい技が鋭く、綺麗だったなぁ。


「そもそも、アンドロイドの作製は国への申請とか、そういうのが大変なんじゃないの? 勝手に試運転とかしても、法律に触れない?」

「そこは大丈夫。今回も申請は出して了承をもらってあるから」

「そんなに簡単に貰えるものなの……?」

「まさか僕が完成させるなんて思ってなくて適当になってるんだと思う……」


 アンドロイド作製は、完成したかどうかは関係なく、開発を始めた時点で申請が必要となる。恥ずかしながら、僕はこの申請を三桁後半くらいの回数は行ってきた。常人なら気が狂うほどの失敗を繰り返し、それを毎回見せられていた申請窓口の人は、僕に対して逆の信頼を持っていたのだろう。絶対に成功しない、と。鉄くずを作るだけの人間に、それを禁止するのも可哀想だろうと、今回も免じてもらえたに違いない。


 それを覆した時点で僕の心は晴れやかだった。今すぐにでも報告しに行きたい。


「まぁ、申請が通ったなら、完成の報告をして試験なり何なりとさせてもらえばいいじゃない。その方が、サンの言うデータってのも、正確に手に入ると思うけど」

「それが出来たら苦労しない」

 そう、僕にはそれが出来ない理由があるのだ。


「完成の申請が出来ない理由は二つだ」

 僕ら以外誰もいない小屋の中で、一層声を小さくする。

「うんうん」

 それに合わせて、メリアも声を小さくし、僕の方へ顔を近づけてくれた。

「一つ。完成の申請をすれば僕は技術者となって、どこかの工場の一員となって組織に入れられる。そうなると、この町を強制的に出ていかなくちゃいけなくなるし、最終的に個人の功績ではなく組織の功績として取り上げられてしまうんだ」

「でも、サンの名前が取り消されるわけじゃないんでしょ?」

「いやいや、その可能性はゼロではないし、そもそも僕が一人で頑張ってここまで来たのに急に『誰かの助けもありました!』みたいに言わされるのが凄く屈辱的」

「私の助けは色々とあったけどね」

「それは感謝してる。でも組織の人たちは違うから」

 その理由は、メリアも納得してくれた。


「それで、もう一つの理由は?」

「僕が作ったアンドロイドが法律に反しているから」


 返事の代わりに、平手打ちが帰ってきた。


「バカなの? なんで違法なものを作ったのよ!」

「違法じゃない! 聞いてくれメリア!」

 鬼の形相になりつつあるメリアを何とか治め、ゆっくりと説明した。

「僕のアンドロイドは、たしかに法律に反している。でも、この法律自体が未完成なものなんだよ」

「…………どういう事よ」

「そもそも、アンドロイドを作る上で、法律によって定められていることが何かを、メリアは知ってる?」

「いや、まぁ簡単な内容しか知らないわね」

 首を傾げるメリアに、散らかりまくった机の上で埋もれていた一枚の紙を渡した。ところどころ油や汚れが付いているが、読むのに問題は無いだろう。

「何これ?」

「『アンドロイドの三原則』だよ」

 びっしりと書かれた文字に、メリアが眉間に皺を寄せていた。

「細かく載ってるわね……読むの疲れる……」

「しょうがないなぁ、ちょっと見せてみて」

 隣に座って、三原則の要点部分を指さしてあげた。

「まず、『アンドロイドを物として扱わない』こと。昔のロボットと違って、アンドロイドにも思考回路や感情もある。新たな命して扱わないといけないんだ。だから、過剰な労働が目当てな開発にアンドロイドを使ってはいけない。この法律があるから、こんだけ科学が進んでも、大きな工場にはロボットがまだ大量に働いているんだ。動作だけインプットされたものがね」

「なるほど……じゃあ、もう一つは?」

 僕の顔を見てくるメリアに、もう一つの要点を見せてあげた。


「もう一つは『アンドロイドに自殺願望を植え付けてはいけない』こと。人間社会を生きるアンドロイドにも死生観は必要だけど、あまり偏った感性を植え付けてはいけないことになっているんだよ。製作工程に安全機能の搭載も義務付けられている。これは、アンドロイドが自殺行為を行おうとした場合、強制的に運動機能を停止させるプログラムなんだよね。それが無いと無条件で違法品扱いされる」

「じゃあ、サンが作ったのは安全機能が付いてないの?」

「いや、ちゃんと付けたよ」

「じゃあ何が違法なのよ」

 口を尖らせて僕を睨んだ。

 メリアは回りくどい話が嫌いだから、飽きてきたのだろう。

「僕が法に触れているかもしれないのが、最後の原則『人より優れた力を持たせてはいけない』だ。これだよ」

「人より優れた力って、なんで持っちゃいけないの?」

「簡単な話さ。自尊心から傲慢になって、自由に動き回るものが生まれるかもしれないからね」

「そんなこと、あるかなぁ?」

「人間だって、身に余る能力や力は、人を獣に変えてしまう」

 僕の言葉にはっとして、メリアが黙って頷く。

 メリアは能力も容姿も財力も優れているが、誰にでも紹介できるような真人間だ。こんなに良い人間は他に中々見つからないだろう。特に、僕みたいなはみ出し者にも変わらない友愛を示してくれているくらいなのだから。

 だが、メリアの周りがみんなそうだったかと言えば、そうではなかった割合の方が多い。恵まれた人の周りには、その恵みを享受しようとする者が何人もいた。だからこそ、メリアは強盗すら退治出来るほどの力を付けなければいけなかったのだ。


「僕はさ、メリアみたいな人を助けたいなって思って、護衛専用アンドロイドを作ったんだ。それに、危険から身を守るアンドロイドなら、状況に関わらず、あらゆる分野において人の役に立つ、優しい存在になる。僕はそう思ってるんだ」

「ふぅん……お金儲け以外にも、格好良いこと考えてるのね」

 メリアが少しだけ言葉尻を柔らかくしてくれた。

「見直してくれた?」

「元々見損なってないわ。それより、どうしてこの三原則が未完成だって言えるの?」

「それは単純に、力の制御という分野において、いかに感情が大きな役割を持つかということさ。今のアンドロイドも、感情や思考は人間に近づきつつある。でも、人間ですら力の制御がままならない時だってあるんだ。なら、本来行うべき対応は、力を持たないようにするのではなく、力を完璧に制御する技術を突き詰めることなんだよ。今その問題点から目を背けた所で、何十年先の科学者がまた同じ壁にぶち当たり、折れていく。だから僕は、その壁を壊すんだ。今回完成した、護衛専用アンドロイドで!!」


 つい声が大きくなってしまった。

 小さな小屋に、自分の声が無駄に反響して消えていった。

「……つまり、私がサンの作ったアンドロイドを動作確認して、実用性を裏付ければいいってこと?」

 そう言ってくれたメリアの眉間には、未だに皺が寄っている。当然だ。簡単なことでは無い。言ってしまえば、暴走したら危険な物体を受け取ってくれ、と言っているようなものなのだから。僕だって、友達から頼まれたらすんなりと頷けない。

 たった数秒だけ起きた沈黙が、僕の内臓をギリギリと締め上げていった。

「……仕方ないわね。良いわ。私が動作確認してあげる」

「ほ、本当?」

「てか、最初からそれが狙いだったんでしょ?」

「うっ……!」

 図星を突かれて言葉が詰まる。

「どうせ私が強いから、多少暴走しても倒せるとか思ってるんでしょ?」

「いや、そんなことは思ってないよ」

 強盗を倒せようと、メリアは女の子だ。本当の意味で、護衛専用アンドロイドは必要だと思う。それに、僕がメリアにお願いした理由は他だ。

「メリアなら、生まれたばかりの命に、しっかりと心を教えてくれるって思ったんだ」

 それを聞いたメリアは、さっきよりも少しだけ長く沈黙した。

「あんた……言葉のチョイスは考えてほしいわ……」

 メリアは何故か顔を赤らめていた。

「あーもう嫌だな~。サンと話してると、疲れてくるんだけど!」

「え、ごめん」

 今度はご機嫌そうに怒ってきた。どういう感情なの、それ。

「私がその動作確認を請け負うから、さっさと会わせなさい。そのアンドロイドに」

「ありがとう、本当に助かるよ……!」


 ☆


 アンドロイドは、地下室に保管してある。

 部屋の本棚を少しだけずらすと、隠された地下室への階段が出てくるのだ。

「これ……毎回思うけど夢があるわよね……」

「昔はよく、親と喧嘩したメリアがここに隠れてたよね。おかげで隠す必要が無いくらいに周知のものになっちゃったけどね」

 電器をつけ、長い階段を降りていく。足音が、通路を軽快に反射した。


「着いた」

 地下室の部屋は、いつもの部屋の二倍くらい大きい。少しだけ、勝手に広げてしまたのだが、誰にも注意は受けてないので良いだろう。

 

 その部屋の真ん中に、アンドロイドが眠っていた。きっと説明が無ければ、この様子をみてアンドロイドだと気付く人は少ないだろう。スラっとした肉付きの成人男性を模した彼は、その整った顔で静かにその時を待っている。


 寝ているとは比喩表現で、彼はまだ起動をしていない。僕がボタンを押せば、彼は目覚める。

 この世に、生を受けるのだ。

「これが、アンドロイドが誕生する瞬間なんだ……」

 メリアが呟く。

 一般の人が、起動前のアンドロイドを確認することは、実は殆どない。起動して、動作確認までが機密事項の企業秘密だから当然ではある。

 その当然見れなかった状況に立ち会ったメリアは、その目に感動を浮かべていた。

「こうやって見ると、本当に人間みたい……まつ毛の先まで繊細だし、呼吸もしてる……」

「そうだよ。一つの命さ。人権だって、疑似的だがある……尊重された命さ」


 部屋の真ん中で眠るアンドロイドは、布団に寝かされていた。今にも起きそうなその表情は、起動前にも何か思考しているのだろうか。もしかしから、夢を見ているのかもしれない。起動する前に、ある程度の知恵や知識、常識をインターネットからダウンロードするから、それの脳処理を行っている以上、夢を見ることも科学的に否定はしきれない。

「夢、見てるかな。この人は」

 メリアが言う。

「起きたら、聞いてみようか」


 僕が初めて作ったアンドロイド。

 夢と希望が詰まったアンドロイド。

 時には、完成することは無いんだど諦めたこともあった。でも、今日という日が来たのだ。

「メリア。この子の名前は、プロトなんだ」

「良い名前じゃん」

 メリアが笑った。その表情は、母親のようでもあった。

「プロトに、メリアの声紋をインストールしてある。君の言葉で、彼は起きるよ」

 メリアは頷き、プロトにそっと近づく。

 無防備なその顔を撫で、耳元でそっと囁いた。


「起きて、プロト」


 プロトの瞼がピクリと動いた。

 そして、ゆっくりとそれが開く。

 プロトが初めて見たものは、メリアの顔だった。それが如何に幸せなことか、これから知っていくのだろう。そして、もっと色んな幸せを知ってもらいたい。

 そのためにも、メリアに教えてもらうんだ。人の心を、優しさを。

「おはよう、プロト。初めまして、だね」

 目を開けただけのプロトに、メリアが話しかける。眼球の動きは正常で、しっかりとメリアの顔を見ていた。

「あなたの名前は知ってる。でも、あなたの口から聞きたいの……教えて?」


 プロトは静かに微笑んだ。

 そして、ゆっくりと上体を起こし、布団からその身をさらけ出す。守るために備えられた肉体には無駄が無く、うっすらと割れた腹筋が露わになった。

「君が……メリアかい……?」

 プロトが口を開いた。少し高いプロトの声に、メリアは興奮を抑えながら頷いた。

「そうよ」

 それを聞いて、プロトはまた笑った。


「もっと美しい淑女だと教え込まれていたが、案外ゴリラみたいな女だな。俺の仕事は護衛じゃなくて、ゴリラの飼育員なのか?」


 メリアは瞬きよりも早く拳を振り上げて、プロトの顔面に叩きつけるのだった。

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